60 / 136
60.
しおりを挟むあの不審者のお陰で思い付いた防犯対策グッズは、後ほどエディンの女性冒険者達に試作品を配り、実際に使ってもらったところ思ったよりも高評価で、マチルダ嬢からも大喜びされた。
子供でも携帯していざという時使えるように、ポケットサイズな上、最悪相手に投げつけるだけであの粉を振りかけることが出来るよう工夫を凝らす必要はあるが、マチルダ嬢なら上手くやるだろう。
ちなみに、我も一個持ってる。リボンを使って可愛くしたやつ。
リィからは、
『そんなアイテム、持ち腐れじゃないのかシラ…』
と言われたが、じゃあリィにあげようかと言ったらそんな劇物持たせんなとキレられた。命には関わらないのに。ついでに言えば親切心だったのに。
開発終了し、料理長作の昼食を味わい、暮れはあのブティックへと足を運んだ。
コートの仮縫いが完了しているらしいのだ。
覚悟を決めて向い、案の定、コルセットをギリギリと締め付けられ、また姿勢を矯正され(美しい外見は美しい姿勢から。服を生かすも殺すも着てる人間次第といわれ)頑張った。
変わるがわる試着や丈の直しが入り、お陰でオヤツを食べ損ねた。いや、食べ損ねた原因はまた別だが、そのオーナーのせいと言えなくもない。
『凄かったわネ』
「ああ、…凄かったな」
我の身体にめっちゃ負荷を強いてきたが、姿見の前に立てばオーナーへの怒りは飛んでいった。
なにせ、
『完璧でしたものね。アリス様がまるで女王様に見えましたわ』
その時の事を思い出したのか、ルシアが恍惚とした表情で虚空を見ている。思い出すのは結構だが、その体勢、上半身から何とは言わないが溢れそうであぶない。
黒と白ベースのコートが、それはそれは我にぴったりだった。完璧と言わざるを得なかった。暫く言葉も忘れて鏡の前でくるくる回ってしまった。
レースの手袋にコート、よく分からんがステッキを持たされた我は某どこぞの国の赤い王といった風体だった。
我がおやつの時間に帰ってこないからおかしいと思って突撃してきた料理長も、これ見て撃沈してたもんな。ぶっ倒れて顔を抑えて美しいと呟いて暫く気を失ってたもんな。
リィは罪な女ネ、と満足そうだった。相棒が満足ならそれで良いだろう。
…まあ、1番驚きのハプニングはその後の事なのだが、それは料理長の教えに従い、我も忘れると決めた事なので何かあるまでは触れないでおこう。
「料理長、私、そろそろエディンに戻る」
アイス食べて観光してさっさと戻ろうと思っていたのに、思ったよりも長居をしてしまった。
マチルダ嬢に試作品を届けるのと、ミランダ嬢に元気な姿を見せてお土産を届け、猫可愛がりされる必要があるからな。リタ殿もお孫殿の所まで送迎を頼んでくる頃だろうし。
「エディン?冒険者の街の?……アリス様は彼方で登録なさったのでしたね。かしこまりました。出立はいつになさいますか?私も行きます」
「…料理長も?」
「はい。前回寄った時に少々…やり忘れた事を思い出しまして」
魚を絞め忘れた。と、いい笑顔で料理長が言う。まあ料理長の事だから、王都以外に幾つか懇意にしている宿があるのだろう。キッチンを手伝ったときに処理忘れがあったに違いない。大変だな。
「…そう…」
1人でいいのに。
…と、我が思ったからか否かはわからないが、我らは料理長抜きで王都からエディンに向かう事になる。
料理長に指名で依頼が入り、緊急招集がかかったらしい。
王都から出ようとした時に、関所の兵が料理長を連れて行ったのだ。料理長はすぐに追い付くと言っていたが、本当にすぐ追いつけるかは疑問である。何せ、我らは今回、リィを走らせるのだから。
本当は別の移動方法(勿論徒歩以外)があるのだが、今回はリィに頑張ってもらう。最近だらけ過ぎだから。前回は気のせいだと思ったが、最近は本当に我の首に負担が大きい。
ルシアも我の背中側から抱きついて乗っかることが多いが、ルシアに実体がない以上、質量も勿論ない。それはつまり、我が感じ取っている負荷というのは全てリィの重さによるもの、ということになる。
気づいてしまった以上、健康的になっていただくしかあるまい。
「さあリィよ。頑張って走ってくれ?」
余裕余裕とリィが言うので、もう一つ要件を追加した。
「2日以内にエディンにつかないと判断された場合、メニュー変更で野菜は60パーカット、肉とポーションの類で補って物理的に今の3割まで飯の量減らすからな」
リィはそれを聞いてよく働いてくれた。全く良い相棒を持ったものだ!
因みにエディンに戻って数日後、冒険者ギルドを訪ねた際にギルマスから、
「フェンリルに乗って昼夜問わずものすごいスピードで街を駆け抜けていく少女がいるって噂なんだか、お前何か知ってるか?」
と聞かれたが知らんと答えた。だって。
「我、ちゃんとリィに並走したもん」
ギルマスは暫く固まってた。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる