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しおりを挟むAnother side
あか、赤、緋、朱、…いや、紅。
艶やかで美しい黒と、激しく舞う鮮烈な炎の赤。
それはいつになっても、いつまでも、私にとって特別以上の…最早崇拝にも等しい対象。正確に言えば、それを纏うとある存在こそが我が生きる意味、執着の対象。
過去も現在も未来も。その姿に、その色だけに焦がれる。
それ故、我が君以外の者がその色を持つことは、烏滸がましいと思うのだ。
だから手を回した。あの魔導国の連中については、領土ごと業火に巻かれてきれいさっぱり、あの方と同じ色を持つ者を生み出す可能性のある因子を残らず灰にしてしまえと何度願ったことか。
この国内でも偶に生まれる黒髪や、赤色の目の持ち主を攫い、大金を掴ませてその色を手放させた。
「……旦那様。いつまでこの様な事を続けるおつもりですか」
この家に長年仕え、数年前にとうとう私個人に仕えることとなった執事が、私の振る舞いについて初めて声を上げた。
珍しいと思うと同時に今更言うことかと呆れもする。しかし、私のすることについて意見されても特に私の機嫌に影響が無いのは、やはり、その発言がこの家の為であり、記憶を取り戻す前の私がこの執事を認めているからだろう。
他の駒とは違う。
失敗しない。したとしても臨機応変に、私の望みを叶える。
……たった今、無様にも逃げ帰ってきた駒とは違って。
報告しに来たそれに対して、一度だけ温情を与えた。次は何としてでも連れてくるだろう。
黒髪か、赤目か。…どちらに該当したのかは知らないが、早く連れてくればいいものを。やり方は任せると言ってあるのだ。気を失わせて連れてくる事が多いが、別に犯罪的な手段を取らずとも良い筈なのだが。
事実、私は金を積んでいる。途方もない金を。
執事が咎める気になったのは、同じ人間が、3度も金をせびりに来たからだ。この程度、端金でしか無いのだが。
まあ、それはどうでもいい。どうせ、あの人間ももう来ない。否、来られない。
使えない駒が消えた部屋で、執事に問われていた事を思い出した。
「"いつまで"と聞いたな。…いつまでも、だ」
前世であれば気に入らないから、自分の方が強いからという理由だけで、1人残らず炭にすればよかった。
しかし、この種族は面倒なもので、その手法を取るとすぐに殺人だ、何だと騒ぎたてる。1番最初はうっかり、騒ぎたてた者たち共々処分する羽目になった。物凄く面倒だった。呪いを眺めて心を躍らせる暇が無くなったのが腹立たしい以外のなにものでもなかった。
それ以降は私も反省をして、攫ってくるのは駒に任せた。人間同士であれば私の様についうっかりで息の根止める事もないだろう。そういう優しい配慮だった。……筈なのだが。
「…逆効果だったか?」
暫く姿を見ていなかった駒が急に戻ってきた。恐怖で全身を強張らせて。私に睨まれた時よりも怯えている。一体"何に"会ったというのか。
…まあいい。それよりも、優先すべき事がある。
「黒髪、紅目のアリスという冒険者の少女について、知っている事があれば全て話せ」
その2つの色を持つ少女は、早急に葬らなければならない。なぜなら、その2色を同時に持っていいのは、唯一我が主だけなのだから。
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