前世魔王の伯爵令嬢はお暇させていただきました。

猫側縁

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「頭上をドラゴンが飛んでるのと同じ程度のことで怯えるとは!」

肝の小さい王め!ちっ!!

『頭上をドラゴンが飛んでるのは一大事ヨ』
「そうですよ。ドラゴンを片手間に相手できるのはアリス様くらいですよ」

リィはともかく、ラギアが言うのであれば、前世でも普通ではなかったらしい。おかしいな。グレゴールだって倒せはしないが幻術をかけて撹乱していただろうに。

現在、我は亜空間内の空島の棲家にてダラけてる。落ち着くー。本当は物置でもよかったのだが、ゴロゴロするなら自室…という事にしてある元魔王の部屋(前世の我の部屋を再現した広い所)にしてくれとラギアに頼み込まれたので、そこで休んでる。物置はアレな。アリステラが本邸で押し込まれた部屋なみの狭さだから、この身体がなんとなく懐かしみを感じるのだ。

現在、この部屋にいるのは我とラギアとリィのみ。ルシアは外で木の世話してる。ルシア曰く、そろそろまた精霊が1人眠りから覚めるそうだ。

灼華は料理長と共に外に依頼を片付けに行ってる。猫たちも一緒に。

精霊増えたらまた賑やかになりそうだな。

「そもそもドラゴン自体、秘境にしか居ませんし、確認されているのは3体ほどです。彼らの大事な宝を盗みに入ったり喧嘩売らなければなんの問題もないのですがね。足元の蟻を気にするような器の小さい種族ではありませんし」
「まあ、単に潰してみたくなったからという理由で潰すこともあるだろうけどな」
「それもそうですね」

あっはっは!

『……ネェ、ご主人?ドラゴンに会ったこと、あるのかしラ?』
「ん?ああちょっと………前にな」

危ない。前世で勇者と戦ってる時にちょっと魔法放つ方向と加減間違えて、竜族の山に風穴開けちゃった時の事を話してしまう所だった。幸いにもその時の勇者、生まれ持った超幸運とビギナーズラックでとんとん魔王城に来れちゃった弱々な坊やだったから、竜族の族長の相手をしながら片手間に勇者の相手をする羽目になった。
だから我とて、そこまで片手間に相手していたわけでは無いぞ。

『ドラゴンと会って無事なご主人に驚きの感情が出てこない事に驚いてるワ』
「驚き自体が消えなくてよかったな!」
『……エエ、そうネ。それと、ご機嫌ナナメも治ったみたいダシ』
「いや、それはまだだ」
「そうだ。個人的な感情でアリス様のやりたい事を抑制するなど許されることでは無い。というか私が許さない。やはり今から私が王にかけあって「それはいい。我の近くで大人しく、…大人しくしていろ」喜んで…!」

かけ合うどころか、笑顔と魔法で堂々と脅迫紛いをするだろう。なんて奴だ。知ってるけど。

そう。何故我が腹を立てているのかというと、未だこの空島が亜空間内にある事からも分かる通り、我が空島を出現させるのをギルマスが素気無く却下したからである。いわく、国のトップとかは基本的攻め込まれる事に超臆病、我が空島で浮かんでいる事に対して、落ちたらどうしようだとか、そこから転じて我を撃ち落とそうなどと考える可能性が高いそうだ。

ケッ!これだから頭の固い役職ばかりの奴らは!

いつぞやの王国のジジイどもも勝手なイメージ作り上げてそれが正しいと勝手に信じ込んで魔族や魔王を絶対悪と決めつけた!そして血と共に脈々とその考え方も引き継がれ、自ら考える事も何もない!精神の自由はどこだ!阿呆!!

凝り固まった考え方本っ当に嫌い!

『ご主人、……ご主人!』
「…なんだ?リィ」
『いつまで引き篭もるつもりなのかしラ?』
「ああ…。一応、篭り続ける気は無いぞ。今も移動中といえば移動中だからな」

引きこもってる自覚はあったのネとリィが言う。

『移動っテ?』
「王都から北の方の寂れた町へ移動している」
『……どういうコト?』

首を傾げるリィに説明しようではないか。…暇だしな。

「料理長と灼華が今朝方依頼を片付けに出ただろう?」

リィは素直に首を縦に振る。うむ。かわいい。

「ギルマスは、我が一箇所に留まると危険と考え、この国全土の依頼の中からバラけた箇所の危険度が高い依頼を我に押し付けた。
そして、例の我を探しているという依頼者に、期待の新人の為様々な依頼を頼んだ結果、ギルド側でも報告を受けるまで何処のどの依頼を片付けたか分からない、…つまり、所在不明だと伝える事にしたらしい」

嘘はついてない。実際依頼は料理長と併せて大量に寄越されたし、この国の四方八方の依頼であった。何なら国内だけでなく近隣諸国の依頼も混じっていた。

「で、移動中もなるべく目立たないようにという事だったから、灼華に入り口の指輪を持たせたまま、北の町へと向かわせているのだ」
『入り口?』

リィが首を傾げる。…うむ。ぎゅっとしてわしゃわしゃしたい。物凄く。

「……ここはあくまでも我が創り出した亜空間。出入りには都度我の許可が必要不可欠だ。しかし例外はあってな、灼華に持たせた指輪には、この空島に設置した転移地点に繋がる転移機能が備わっている。それこそ、火山の中だろうが深海だろうが何処からでも、ここへ戻ることができる」

そして画期的なのは、場所を記憶するという点だ。以前我は転移魔法の理として、行ったことのない場所には飛べないと言ったはずだが、この指輪を使えば、我自身が行ったことのない場所であっても、その地点で指輪を使って場所を記憶させれば行ける。

少々説明ばかりになったが、移動式の転移地点だと思えばそれでいい。
これを灼華に持たせれば、我は長い道のりを歩かずともよくなるわけだ。姿を見られる事もないしな!

「流石ですアリス様!」
『頭上飛ばれるのト、どっちがマシかで判定割れしそうだカラ、その話、身内以外に言っちゃダメよ?』

何でと聞いたら、悪用される可能性が高いからと言われた。確かに。これ王城関係者に持たせて行かせれば、ここから簡単に城に侵入出来るもんな。

『……』

…………危ない物作りやがって、と言わんばかりの無言だった。
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