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Another side
しおりを挟む精霊達に裏切られたあのお方は、魔人達に裏切られた時とは違って静かだった。怒るわけでは無く、ひっそりと、静かに心を弱らせた。
あのお方は活力を失ったせいか、謀反を起こすものも増えてきた。見つけ次第即我々が始末するので、魔王様の御前に辿り着けるのは僅かだが、それにしても腹立たしい。
「魔王様、精霊達をあのままにして宜しいのですか」
「…構わない。何か思うことがあってそうしたのだろうからな」
あの方はそう言って、精霊達の事を不問にしたが、配下がその眷属の精霊といる様子を見るのも辛そうだった。
いっそもう勇者の襲撃でもいい。魔王様の感情を動かしてくれるのなら、それで我々の憂鬱も晴れるというのに。
「魔王ちゃん元気無いわねん」
「……」
「そんなに精霊と居たいならアタシのルーじゃダメかしらん」
「却下」
「ひどいわん!アタシの眷属だから例の件に加担してないわよん!」
そいつの眷属でさえ無ければ多少考えもしたが、眷属である時点で却下。点数を稼いで魔王様の世話係に昇進など許すものか。
そんなある日、魔王様は配下を集めてこう言った。
「お前たちの中で最強を決めろ」
嫌な予感がした。
魔王様は、その力の限りを尽くして"世界"を創り出したと言った。魔族による魔族の為の世界を。唯一魔王様だけが使える亜空間魔法を応用し、今まで生きてきたこの世界を真似て創り出した世界を。
「次の魔王を決め、そこで生きろ。気に入らなければ全て壊していい。次の魔王の思う通りにすればいい」
…我々配下は、相性が悪い。正直、この魔王様の元でなければ集うことも協力体制を築く事も無かった。
ともあれ結果、配下の中で最弱の魔族が魔王となった。理由は簡単で、私は唯一の主人について行きたいので辞退。…気に入らない事に精霊持ちもその他何人かも辞退を選び、結果新参で野心を残した者だけが残ったのだ。
魔王様は何も言わなかった。そして自分以外の魔族達を、勿論世話係の私も含めて強制的に転移させた。
まあしかし、魔王様には及ばずとも、私たちは魔法の扱いに長けている。
痕跡を辿って、あちらの世界に向かう事など容易い。すぐさま戻る算段を立てているのは私だけではないのは、見ればすぐに分かった。
…それを見抜けない魔王様でもなかった。
「自分の意志で戻ってくるのならそれでもいいだろう。だが、我はもう居ないのだ。それを忘れるな」
送り出されたその時に、聞こえてきた不穏な言葉に振り返って、私は見た。
魔王様の胸の辺りから、忌々しいほど煌めく剣の切先が突き出て、その身体が砕け散るのを。
砕けた先で、勇者というには余りに粗野で品位のない盗賊崩れにしか見えないその勇者が下劣な笑みを浮かべ歓喜に沸いていたのを。
怒りのままに奴を八つ裂きにしようと手を伸ばすも、既に魔王様の最後の魔法は成って、時空は隔てられた。
景色が変わる。
世界が変わる。
新たに与えられたこの大地のどこにも、魔王様は…アルフィス様は居ないのだ。
そこにあるのは人間達に荒らされる前の魔王領に似た景色だった。
暖かくてのどかな陽だまりも、柔らかく風にそよぐ草原も、大地を豊かに潤す美しい泉も、全て、アルフィス様が取り戻したかった魔王領の景色だった。
…それを最も望んだあの方は、此処にはいないのに。どこにも、いないのに。
湧き上がるのは、怒りだ。
憎しみだけが膨れ上がる。この身を焼いて、壊せと叫ぶ。
あの勇者に、私は、思い付く限りの手を尽くし、死しても逃れられない苦しみを与えなければならない。
貴方はもう居ない。それは分かりました。しかし、私は戻ります。
私は貴方のためだけに生きている。貴方の居ない世界に用はない。そして、貴方を不要とする世界を壊したいのだ。
「…今、戻ります。アルフィス様」
私の意志で、貴方を弔うその為に。
……しかし、簡単に思われた帰還は数年を要した。アルフィス様は私を含め何人かが戻ってくる事を見越して、痕跡を辿れないよう魔法に目眩しをかけていた。これでは戻るべき場所の座標が特定できない。その為我々元配下は、帰還を望む者たちで一時的に手を組んだ。
確実に、何が何でもあちらへと戻る為になら、アルフィス様が居なくなったとしても協力する。あの方の為に。
「アルフィス様はどうして1人だけ残ったのかしらん。私たちの事が嫌いになったのかしらん…」
「私はお前とは離れたいがな。2度と会わなくてもいい」
「酷いわ!私はこんなにアルフィス様大好きなのにぃいい!グレゴールもグレゴールよぉ!アルフィス様にお仕えする前はもっとアタシに優しかったわん!」
「ああ。お前がマトモだったからな」
「今がマトモじゃ無いみたいに言わないでくれるかしらん!?アタシは全然変わってないわよん!…まあ、そりゃ、アルフィス様が好きすぎて…ショタに目覚めちゃったけどん…」
…アルフィス様は可愛らしいものを愛でるのは好きだが、自分が愛でられるのは好んでいなかった。こいつは何かとアルフィス様を着せ替えて遊ぶことがあったから、あの方もその点が苦手であったらしい。
でも鑑賞するだけよ!と主張するが、そこはどうでもいい。数百年来の旧友だったとしても、今がこれなら縁を切りたい。切れるものなら。
基本嫌なことは一切やらないのが魔族だが、今はコイツと手を組む他出来ることがない。
「精霊はどうした」
「ルーならこっちに来る前に、例の下位精霊達を見張ってこっそり張り付いてなさいって言ってあるわん。一応アタシの加護があるから、よっぽどタイミング悪く誰かの地雷踏み抜かない限り殺されたりしないし、うってつけの"座標"よねん」
自ら加護を与えた眷属は時空を隔てても何処にいるのか主人にはわかるらしい事から、コイツの精霊やあちらに放っておいたという虫類の場所を座標化し、分析が得意な奴に特定を急がせている。分かり次第戻るだけ。あともう少しの辛抱。
必ず戻り、私は復讐を遂げるのだ。
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