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一目惚れの出会い
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中学校の入学式の朝、僕は母と一緒に路線バスに乗り駅へ向かっていた。バスはつい最近まで通っていた小学校と、通うと思っていた地元の中学校の側を通り過ぎて行く。
家から駅まではバスで10分ぐらいだ。その10分の間、僕はこれからの中学校生活の事を思うと、不安で押しつぶされそうだった。
僕が今日から通うのは、中高一貫の私立学校だ。その学校は進学校で、有名大学への合格率が高く、校内の雰囲気も含めてすごく評判が良い。でもその学校への入学は僕が望んだ事ではなく、両親の希望だった。だから、僕はその事を不満に思っていたし、これからの学校生活が楽しくなるとは思っていなかった。
義務教育の間は、ほとんどの人が市立なり地元の公立の学校に進学するだろう。僕も地元の中学に通うと思っていた。
でも両親の考えは違ったようで、6年生になった頃、両親が卒業した中高一貫の学校への進学を勧めて来た。父と母はその学校で出会い、のちに結婚したため、非常に良い思い出があるらしい。
僕は小学校の友達と同じ中学校に通いたかった。一緒に遊んでいて、すごく楽しかったので離れ離れになるのが嫌だった。
だから、最初に両親の考えを聞かされた時も、そのあとで学校見学に行った時も、僕は私立には行きたくないと言った。でも小学生の自分には選択権はなく、私立中学校を受験する事になった。
唯一、私立への進学を諦めさせる方法は入試で不合格になる事だった。だから入試の為に塾に通ってはいたが、それ以外は特に勉強する事もなかった。
ただ、両親は自分のことを思って私立を勧めていると分かっていたので、入試で明らかに手を抜いて不合格になる事は良くないと思い、入試は普通に受験した。
入試後に自己採点した結果は良くなかったので、不合格だと思っていた。けれど、合格だった。卒業生の息子と言う事で優遇があったのかも知れない。
小学校の友達には学校が違ってもゲームのネット対戦で毎日でも一緒に遊べると言われたが、学校が違うと話題も予定も合わなくなると思うし、だんだん疎遠になって行く予感しかない。
不安な気持ちのまま、バスは駅に到着した。駅と言っても昔ながらの住宅街の中にあり、駅周辺にはバスの停車スペースがあるのみで、お店はない。
駅の改札を抜けてホームに入る。次の電車が来るまでしばらく時間があるようだ。
ホームからは線路脇の桜が見えた。いかにも4月の入学式という雰囲気を醸し出している。
風が吹き、桜の花びらが舞い散る。つられて花びらが飛んで行く方向に目をやると、真新しい制服を着た女の子と目があった。その瞬間、全身に衝撃が走った。
舞い散る桜の花びらに囲まれたその女の子は、すごく輝いて見えた。
決して可愛いわけではないけど、僕のタイプの女の子だった。
一目惚れしてしまった。これは運命の出会いなんだ。そんな風に感じた。
よく見ると女の子が着ている制服は、僕が今日から通う学校の物だ。女の子の隣には少し着飾った感じの母親らしき女性が立っている。僕と同じように入学式に向かうのだろう。
僕が女の子の方を見ている事に母が気づいたようだ。
「あの子も入学するみたいよ」
母は女の子の方へ近寄っていく。僕も少し遅れて母の後を追った。
母は女の子の母親に声を掛けた。
「はじめまして、大村と申しますがお嬢さんも、傍愛学園に入学されるのですか」
「ええ。お宅の息子さんもですか。よろしければ、一緒に行きませんか。申し遅れましたが松田と申します。こちらは娘の彩奈です」
「うちの息子の拓海です」
松田さんのお母さんは僕に、
「彩奈と仲良くしてくださいね」
といった。
「はい」
僕は、そう返事をする。
そして、松田さんにも何か言うべきだと思ったが、適当な言葉が出てこない。
「おはようございます」
とりあえず、挨拶してみた。
「よろしくおねがいします」
と言って、松田さんは僕に微笑んでくれた。
それだけで、これまでの不安な気持ちはどこかに飛んで行った。
これから松田さんと同じ学校に通える事を思えば、小学校時代の友達のことなんかもうどうでもよかった。
結局、その日の松田さんとの会話はそれだけだった。
僕は松田さんと話したかったけど、緊張して何も言えなかった。電車の中では、母親たちを挟んで反対側に立っている松田さんをチラチラ見ることしか出来なかった。
母親同士の会話を聞いていると、松田さんの母親は良い大学に進学するには中学校から勉強しないとという考えで、傍愛学園に通わせる事にしたようだった。それに対して、母が自分の卒業した学校を息子にも通わせたいと思ったと言うと、学校内の様子などを教えて欲しいとのことだった。
母は自分が通っていた頃と変わっている事もあると思いますがと断った上で、学校行事などについて説明していた。松田さんの母親には大変参考になったようだった。
そのあとは通学に関しての話題で、松田さんは自分の家とは駅を挟んで反対側の、駅からそんなに遠くない所に住んでいる事が分かった。
それと松田さんは一人っ子だそうだ。
電車を降りた後も学校までは一緒に向かう事になった。駅から学校までは徒歩5分ぐらいだ。
歩きながら僕は、これからの松田さんとの事を妄想していた。ラノベのように、クラスが同じになって、席が隣同士になって、そのうち付き合うようになって、両親と同じようにこの子と結婚するんだ。そんな未来を期待していた。
家から駅まではバスで10分ぐらいだ。その10分の間、僕はこれからの中学校生活の事を思うと、不安で押しつぶされそうだった。
僕が今日から通うのは、中高一貫の私立学校だ。その学校は進学校で、有名大学への合格率が高く、校内の雰囲気も含めてすごく評判が良い。でもその学校への入学は僕が望んだ事ではなく、両親の希望だった。だから、僕はその事を不満に思っていたし、これからの学校生活が楽しくなるとは思っていなかった。
義務教育の間は、ほとんどの人が市立なり地元の公立の学校に進学するだろう。僕も地元の中学に通うと思っていた。
でも両親の考えは違ったようで、6年生になった頃、両親が卒業した中高一貫の学校への進学を勧めて来た。父と母はその学校で出会い、のちに結婚したため、非常に良い思い出があるらしい。
僕は小学校の友達と同じ中学校に通いたかった。一緒に遊んでいて、すごく楽しかったので離れ離れになるのが嫌だった。
だから、最初に両親の考えを聞かされた時も、そのあとで学校見学に行った時も、僕は私立には行きたくないと言った。でも小学生の自分には選択権はなく、私立中学校を受験する事になった。
唯一、私立への進学を諦めさせる方法は入試で不合格になる事だった。だから入試の為に塾に通ってはいたが、それ以外は特に勉強する事もなかった。
ただ、両親は自分のことを思って私立を勧めていると分かっていたので、入試で明らかに手を抜いて不合格になる事は良くないと思い、入試は普通に受験した。
入試後に自己採点した結果は良くなかったので、不合格だと思っていた。けれど、合格だった。卒業生の息子と言う事で優遇があったのかも知れない。
小学校の友達には学校が違ってもゲームのネット対戦で毎日でも一緒に遊べると言われたが、学校が違うと話題も予定も合わなくなると思うし、だんだん疎遠になって行く予感しかない。
不安な気持ちのまま、バスは駅に到着した。駅と言っても昔ながらの住宅街の中にあり、駅周辺にはバスの停車スペースがあるのみで、お店はない。
駅の改札を抜けてホームに入る。次の電車が来るまでしばらく時間があるようだ。
ホームからは線路脇の桜が見えた。いかにも4月の入学式という雰囲気を醸し出している。
風が吹き、桜の花びらが舞い散る。つられて花びらが飛んで行く方向に目をやると、真新しい制服を着た女の子と目があった。その瞬間、全身に衝撃が走った。
舞い散る桜の花びらに囲まれたその女の子は、すごく輝いて見えた。
決して可愛いわけではないけど、僕のタイプの女の子だった。
一目惚れしてしまった。これは運命の出会いなんだ。そんな風に感じた。
よく見ると女の子が着ている制服は、僕が今日から通う学校の物だ。女の子の隣には少し着飾った感じの母親らしき女性が立っている。僕と同じように入学式に向かうのだろう。
僕が女の子の方を見ている事に母が気づいたようだ。
「あの子も入学するみたいよ」
母は女の子の方へ近寄っていく。僕も少し遅れて母の後を追った。
母は女の子の母親に声を掛けた。
「はじめまして、大村と申しますがお嬢さんも、傍愛学園に入学されるのですか」
「ええ。お宅の息子さんもですか。よろしければ、一緒に行きませんか。申し遅れましたが松田と申します。こちらは娘の彩奈です」
「うちの息子の拓海です」
松田さんのお母さんは僕に、
「彩奈と仲良くしてくださいね」
といった。
「はい」
僕は、そう返事をする。
そして、松田さんにも何か言うべきだと思ったが、適当な言葉が出てこない。
「おはようございます」
とりあえず、挨拶してみた。
「よろしくおねがいします」
と言って、松田さんは僕に微笑んでくれた。
それだけで、これまでの不安な気持ちはどこかに飛んで行った。
これから松田さんと同じ学校に通える事を思えば、小学校時代の友達のことなんかもうどうでもよかった。
結局、その日の松田さんとの会話はそれだけだった。
僕は松田さんと話したかったけど、緊張して何も言えなかった。電車の中では、母親たちを挟んで反対側に立っている松田さんをチラチラ見ることしか出来なかった。
母親同士の会話を聞いていると、松田さんの母親は良い大学に進学するには中学校から勉強しないとという考えで、傍愛学園に通わせる事にしたようだった。それに対して、母が自分の卒業した学校を息子にも通わせたいと思ったと言うと、学校内の様子などを教えて欲しいとのことだった。
母は自分が通っていた頃と変わっている事もあると思いますがと断った上で、学校行事などについて説明していた。松田さんの母親には大変参考になったようだった。
そのあとは通学に関しての話題で、松田さんは自分の家とは駅を挟んで反対側の、駅からそんなに遠くない所に住んでいる事が分かった。
それと松田さんは一人っ子だそうだ。
電車を降りた後も学校までは一緒に向かう事になった。駅から学校までは徒歩5分ぐらいだ。
歩きながら僕は、これからの松田さんとの事を妄想していた。ラノベのように、クラスが同じになって、席が隣同士になって、そのうち付き合うようになって、両親と同じようにこの子と結婚するんだ。そんな未来を期待していた。
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