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初コンビ
しおりを挟む「四島 南次郎です。宜しくお願いします」
「炎城 飛鳥です。こちらこそよろしくお願い致します」
学園の前に警察官である四島が迎えに来た。妖魔の出現場所までの移動は警察が行うのが通例だ。
初顔合わせである南次郎と飛鳥は互いに自己紹介をすることになった。
「では、早速向かいます。乗ってください」
虎太郎と飛鳥は車に乗り込むと、即座に出発した。
車にはパトランプが付けられていて、サイレンを鳴らしながら、車道をノンストップで走り抜ける。
一般車道をサイレンを鳴らすことで他の車は道を開ける。
「覆面パトカーなんて初めて乗りました。へぇ‥‥こんな感じなんですね」
飛鳥は物珍しそうに窓から外を見ている。周りを見渡し、興味津々のようだ。
「なあ、炎城は妖魔討伐の経験は?」
虎太郎は現場に到着するまでにいくつか聞いておかないといけないことがあった。
飛鳥は虎太郎の戦闘スタイルなどを知っているようだが、虎太郎自身は飛鳥の戦闘スタイルなどを知らない。どれ程の妖魔退治の経験があるのかも知らない。
魔力量だけは高くとも、実戦経験が無ければ当てにできない可能性もある。炎城の家の方針で成長するまで実戦に出さないということもあるかもしれない。今だ、そう言ったことを何も聞いていないため何処まで当てにできるか虎太郎には分からなかった。
「単独ではありませんでしたが、叔父や兄の下でなら経験はあります。最下級程度なら苦にはしません」
「そうか。戦闘スタイルは?」
「炎を使っての近接戦が主流です。ですので、私が前で、貴方が後ろ。それがよろしいのでは?」
「‥‥了解。それでいこう」
虎太郎はもうこれ以上は聞くことはないと、判断した。
戦いの経験、戦闘スタイル、それらがある程度わかれば、後は実戦で知るしかない。
虎太郎自身そこまで綿密に打ち合わせをしなければ戦えないというタイプではない。妖魔のランクも最下級であれば、そこまで神経質になる必要もない。虎太郎単独でも最下級程度なら容易に倒せる。当分は飛鳥と組むことになる以上、今回は様子見として全面的に飛鳥に任せてみることを考えていた。
□□□
現場にたどり着いた。とある町のゴミ置き場、この場所に妖魔がいた。
妖魔は鳥―――カラスだ。禍々しい力―――妖力を帯びている。
既に周囲は荒らされている。電柱が一部砕かれていて、ゴミ袋は荒らされ、中から生ごみが外にまき散らされ、異臭を放っていた。そして、その中には血の匂いも混じっていた。
「本日の早朝7時頃にあのカラスがこのゴミ置き場に降り立ち暴れた結果、今のような惨状です。被害者は2人、近所に住む岡田さん夫妻です。奥さんはカラスを追い払おう箒を振るった結果‥‥逆にカラスによって襲われて命を落としたみたいです。旦那さんは奥さんを守ろうとしたそうですが、腕を貫かれて病院に運ばれました。その後、近所の住人によって通報されました。以後、この辺り一帯は避難させてありますが、飛ばれると厄介ですので、そうならない様にお願いしますね」
四島さんの説明を聞き、周囲の血の匂いを理由を知った。もう人が亡くなっていることを知り、虎太郎の胸は締め付けられるような思いを感じた。
ここで終わらせなければならない、と強く思った。
「‥‥許せませんね」
飛鳥が呟き、ゆっくりと妖魔に向かって足を進め、妖魔との距離10~20メートルほどの距離で足を止めた。
すると、周囲の温度が上がった。
早朝9時前、季節は6月の初頭、天気は薄く曇っている。気温は20℃を少し下回っている程度、比較的過ごしやすい気温のはずだ。‥‥なのに今薄っすら汗ばんできている。
1℃、2℃‥‥周囲の温度を上げていく熱源は一人の少女。周囲の温度が飛鳥を中心に上がっていく。そして、遂に熱源の温度が爆発的に上がり、発火した。
「!」
飛鳥を中心に炎が生み出される。轟轟と炎が飛鳥の周囲を焼き、空気を熱している。だというのに、飛鳥自身が熱がることはない。
それもそのはず。炎は飛鳥が産みだしたものであり、支配しているもの。
炎城の血が脈々と受け継いできた神秘が虎太郎と四島の目の前で起こる。
「これが‥‥『炎城』!」
「上位精霊と契約した魔法使いにだけ起こせる、己の肉体を媒介に発動させる高等術式。凄いモノですね‥‥」
飛鳥の両手に炎が集まる。当人は特に意識している様子はない。視線を両手に向けることもない。その視線はただ、目の前の妖魔に対してのみ、向けられている。
「ここからどうします? 風魔さんの考えは?」
「‥‥あっ、炎城がメインで俺がサブ。攻撃は任せる」
「ええ、貴方の出番はありません!」
飛鳥が右手を妖魔に向けると、その手に集まって炎が勢いよく妖魔に襲い掛かる。
妖魔はその炎に気づき、回避しようと翼を羽ばたかせる。このままだと、炎が到達する前に空に逃げられる。だが、その翼が斬り落とされる。
一陣の風が妖魔の翼を斬り落とした。
「‥‥出番はあったな」
虎太郎の手から手裏剣が放たれていた。風という不可視の刃を纏った手裏剣は炎を迂回しても尚、炎よりも早く妖魔を捉えていた。
翼を失った妖魔は空に逃げることは叶わず、炎に飲み込まれ、鳴き声一つ上げる間もなく、消滅した。
「‥‥お疲れさん」
虎太郎が小さい声で言った。すると飛鳥が振り返る。
「‥‥」
無言で下を向き、虎太郎の前に早足でやってくる。
虎太郎の前に立つと、勢いよく顔を向けた。
「スッゴイ!! ビックリした、何アレ!! ねえねえ、何やったの!! 一瞬で翼が斬り落ちちゃったけど、何したの!!」
「!?」
怒涛の質問攻めに、虎太郎は思わず後退った。
「お、おい! なんだ、いきなり!?」
「え、だってビックリしたもの。あんなに早く私の攻撃に合わせてくれたし、最高のサポートだったよ。流石だね♪」
凄まじく上機嫌で肩をバシバシ叩いてくる、さっきまでの飛鳥と口調も言動もまるで違っていた。
「何だ、お前いきなり!? 猫被ってたのか?」
「え? 猫? いやいや、流石に来たばっかりの土地だし、ちゃんとしないとと思ってそれなりに口調を変えてただけだよ。‥‥まあ、ちょっとだけ、ほんの少しだけ、『いい子ちゃん』してた自覚はあるけど‥‥」
「‥‥やっぱり猫被ってたのかよ」
「うーー、仕方ないじゃん。『炎城』の名が付いてくるんだから、それなりに威厳がある様にしていないと、家の名前に傷がつく、とか思ってただけじゃん」
口調が随分と子供っぽい。おそらくはこっちが素なのかも知れない。
「それに虎太郎君も征四郎君も何だかアタシを警戒してるみたいだしさ、アタシ向こうでも壁造られたし、『炎城』だし、『炎城』だし、おまけに『炎城』だし‥‥」
なんだか随分と支離滅裂な様子だった。途中まではハイテンションに早口で喋っていたのに、途中からは膝を抱え落ち込みだした。
飛鳥の様変わりに虎太郎は良く分からず困惑していたが、四島は冷静に事の本質を見抜いていた。
「これは、一種の高揚状態ですね」
「なんですか、ソレ?」
「大抵の魔法使いは武器などの媒介に魔力を流して術式を発動させています。風魔さん、貴方の様に。‥‥ですが、炎城さんは血に魔力を流して術式を発動させています、炎城さん自身の身が媒介と成っているんです。両方の手法とも魔法を発動させると媒介自身が多少なりとも消耗します。その消耗するものは媒介により異なります。物に込める場合は刀身などの物理的な消耗を、人の身であれば精神を疲弊します」
「精神を疲弊?」
「自身の身を媒介にするため、一度制御を失うと自身の身に力の反動が訪れます。そのため、精密精緻な力のコントロールを幼少から身に着けさせられますが、ある程度の年齢までいけば、どうやって発動させているのか分からなくなるほど、馴染むそうです。ですが、馴染んでも、精神の成長が終わっていない未熟状態であれば、術式発動のたびに精神状態が不安定になることがあるそうです。おそらく炎城さんは精神的な成長が今だ終わっていないため、このような高揚状態になっているみたいですね‥‥」
「‥‥面倒な‥‥」
虎太郎が思わずぽつりと本音が漏れた。飛鳥のテンションの急降下と急上昇の様子を見て、ただただ面倒だと、心底思ってしまい、ついつい本音が漏れた。
「えへへ♪」
「‥‥っ!?」
落ち込んだと思ったら、直ぐにハイテンションになり笑いだした。屈託なく笑う様は昨日や今日見ていた表情よりもずっと自然に、身近に見えた。ただでさえ人目を惹く容姿をしている飛鳥が屈託なく笑う姿はトップアイドルよりも余程魅力的に見えた。
「‥‥青春ですね」
四島の声に反応できない程、虎太郎は飛鳥の笑顔に魅せられていた。
□□□
二人は学園に戻る車中で全員が無言で、誰も他人の顔を直視出来なかった。
飛鳥は自身の失態を覚えていた。
先程の現象は魔法を発動するたびに常に起こっているわけではない。自己鍛錬では起きないし、それほど未熟ではない。
だが、最近の環境の変化による精神的な疲労、虎太郎という新しいパートナーの前で多少はいいところを見せようとして事、そのパートナーである虎太郎の素晴らしいサポートを見て、飛鳥の精神的な防御が緩んだ。
その結果、先の惨状となり、その全てをつぶさに覚えていた。
今の飛鳥なら魔力などなくとも顔から火が出そうだった。
対して虎太郎は、飛鳥の顔を直視できなかった理由は、当人には分からなかった。
どうして、飛鳥の顔を直視できないのか、何故顔が熱くなるのか、頭の中に浮かんでくるのが先の光景ばかりなこと、その全てが分からなかった。
この現状で唯一内心笑っていたのが、運転手を務める四島だった。
学生同士の甘酸っぱい感じは自身が忘れていた遠い過去に思える学生時代(4年前)の話‥‥でもなく、割と昨年まで、自分と妻が周囲から見ればこんな感じだったんだろうな、と客観視出来た分、精神的なゆとりを持てた。
その結果、現在バックミラー越しに見える、身悶えし、顔を真っ赤にしている二人を見て楽しむ、という悪い大人になっていることに罪悪感を感じていたが、今はこの二人を愛でる楽しさが勝っていた。
ポーカーフェイスを決め、後方の安全に気を付けるために、頻繁にバックミラーを見る事を含め、完璧な運転をし、二人を無事に学園まで送り届けた。
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