ケモとボクとの傭兵生活

Fantome

文字の大きさ
83 / 101
第四章 ボクと白犬と銀狼と

ギランの信頼

しおりを挟む
普段から感情を表に見せることのないヴァルツだが、今回ばかりは鬼気迫るものを感じさせる。その怒気に気付いたか、コーラルがヴァルツとクライヴの間に割って入った。

おかげで解放されたクライヴだったが、立ち尽くしたまま乱れた襟を整えようともしない。ただ沈痛な面持ちを浮かべたまま、その場に立ち尽くすばかりであった。

「ヴァルツ……いや、お前が怒るのも無理はないか。本当にすまなかった。俺がついていながら、ガウルを止めることが出来なかった……」

「それより、二人は無事なのだろうな!?場合によっては、相応の手段を取らせてもらう……!」

コーラルが硬く握りしめた拳を鳴らし、ヴァルツがカチリと拳銃の激鉄を起こす。クライヴの返答次第で、このまま報復に赴くつもりなのだろう。その場合、間違いなく紺碧の盾は実行犯のガウルのみならず手痛い代償を支払うことになるはずだ。

「おいおい、お前ら落ち着けって。こんな人目のあるところで物騒な事言ってんじゃねェよ」

そんな二人を諌めたのは、まさかのギランであった。この殺伐とした雰囲気を一気に打ち消してしまうかのような緊張感のない言葉と共に、三人の間に割って入る。短気な彼ならば報復となれば一二もなく、むしろ意気揚々と突貫しそうだが、予想外にもギランはこの場の誰よりも冷静であった。

「…意外だな。お前ならば、真っ先に拳が飛んでくるかと思ったが」

同じことをクライヴも感じていたらしい。付き合いも長く、ギランの性格というものを熟知しているであろうクライヴも、思いがけないギランの言動に意外そうな表情を浮かべている。

「団長、何故貴方はそれほどまでに冷静なのだ!カオル達の身に何かあったら……!」

「相変わらず過保護なヤツだな。少しは頭を冷やせ。ってか、本来こういう時に周りを落ち着かせるのはお前の役目だろうが」

「しかし……!」

「わかったわかった、いいからもう下がってろ。ヴァルツ、お前もだ。ったく、どいつもこいつも……」

「…………」

コーラルとヴァルツを強引に自身の後方へと押しやり、いかにも面倒くさそうに頭を掻きながら、ギランが真正面からクライヴと対峙する。

「テメェもだ、クライヴ。わざわざこんなところまで出張って深刻そうな面で出迎えやがって。勘違い野郎が二人出ちまっただろうがよ」

「…俺としては、お前のその冷静さに驚いているのだがな。あの二人はお前も気に掛けていると思ったのだが、それほどではなかったということか」

「ケッ、いつまでも勿体ぶった言い方してんじゃねェよ。どうせ、コイツらの考えてる結果になってねェんだろ?」

「な……っ!?」

コーラルが驚きのあまり声を上げる。ギランが口にした言葉は、薫とアルトがガウルに勝利したということ。それは、ガウルの強さを知る者からは考えられないはずの答えである。

だが、それを否定しないクライヴの沈黙はギランの言葉が真実であることを物語っていた。

「そ、それは本当なのか!?あのガウルをカオル達が……」

「…ああ、俺も驚かされた。カオル……あの少年が、よもやガウルを打ち倒してしまうとはな。俺もガウルを止めに急いだが、完全に肩透かしを喰らってしまった」

「がははははっ!相変わらず驚かせてくれるぜ!まぁ、この俺様が直々に鍛えてやってんだ。あの狂犬野郎くらいは軽くあしらってもらわねぇとな」

絶句するコーラルとヴァルツの隣で、御機嫌そうに笑うギラン。確かに気まぐれに行われるギランの扱きという名のストレス発散はコーラルでさえ鍛錬後は足腰立たないほどであるが、それでも短期間でガウルを超えるとは思えない。数々の偶然とが奇跡的に噛み合ったが故の勝利と考えるのが普通か。

「…で、用件はそれだけか?俺様は仕事終わりで疲れてんだ。さっさと帰らせてもらうぜ」

「お、おい、団長……」

「…………」

クライヴの前を横切り、さっさと歩き出したギランを追うヴァルツとコーラル。淡白な反応に見えたのは、薫とアルトに対する信頼の表れだったのかもしれないと、改めてそう感じたコーラルであった。

「…おい、ギラン」

「あん?」

不意にクライヴから呼び止められ、さも面倒くさそうにギランは振り返った。

「今度は何だ?治療費なら払わねぇぞ。この金は今夜、俺様の活躍を労うお楽しみに使う予定なんだからな」

「それは私も初耳なのだが」

「…あの少年は一体何者だ?他者の悪意に晒されたことが無いのかと思うほどに純粋で臆病だが、一度覚悟を決めると強者相手に立ち向かい、躊躇なく我が身を顧みない捨て身の戦法を取る……どのような環境で生きればそのような精神構造になる?」

クライヴは薫が異世界からの迷い人であることを知らない。それ故に薫の持つ武士道とも言うべき自身のためではなく他者のために命を懸ける行動に理解が及ばないのだろう。

薫が異世界人であることは彼を迎え入れたギラン達しか知らない。薫の事を考えればあまり広めるべきではないだろうが、全ては彼を保護するギランの判断に委ねられる。

クライヴは敵であれ、その人間性は信用に足る人物ではある。コーラルが固唾を飲んでギランの様子を見守っていると、静かにギランの口が開かれた。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜

れると
BL
【第3部完結!】 第4部誠意執筆中。平日なるべく毎日更新を目標にしてますが、戦闘シーンとか魔物シーンとかかなり四苦八苦してますのでぶっちゃけ不定期更新です!いつも読みに来てくださってありがとうございます!いいね、エール励みになります! ↓↓あらすじ(?) 僕はツミという種族の立派な猛禽類だ!世界一小さくたって猛禽類なんだ! 僕にあの婚約者は勿体ないって?消えてしまえだって?いいよ、消えてあげる。だって僕の夢は冒険者なんだから! 家には兄上が居るから跡継ぎは問題ないし、母様のお腹の中には双子の赤ちゃんだって居るんだ。僕が居なくなっても問題無いはず、きっと大丈夫。 1人でだって立派に冒険者やってみせる! 父上、母上、兄上、これから産まれてくる弟達、それから婚約者様。勝手に居なくなる僕をお許し下さい。僕は家に帰るつもりはございません。 立派な冒険者になってみせます! 第1部 完結!兄や婚約者から見たエイル 第2部エイルが冒険者になるまで① 第3部エイルが冒険者になるまで② 第4部エイル、旅をする! 第5部隠れタイトル パンイチで戦う元子爵令息(までいけるかな?) ・ ・ ・ の予定です。 不定期更新になります、すみません。 家庭の都合上で土日祝日は更新できません。 ※BLシーンは物語の大分後です。タイトル後に※を付ける予定です。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

大好きな獅子様の番になりたい

あまさき
BL
獣人騎士×魔術学院生 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ カナリエ=リュードリアには夢があった。 それは〝王家の獅子〟レオス=シェルリオンの番になること。しかし臆病なカナリエは、自身がレオスの番でないことを知るのが怖くて距離を置いてきた。 そして特別な血を持つリュードリア家の人間であるカナリエは、レオスに番が見つからなかった場合彼の婚約者になることが決まっている。 望まれない婚姻への苦しみ、捨てきれない運命への期待。 「____僕は、貴方の番になれますか?」 臆病な魔術師と番を手に入れたい騎士の、すれ違いラブコメディ ※第1章完結しました ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 長編です。お付き合いくださると嬉しいです。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

処理中です...