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第四章 ボクと白犬と銀狼と
ギランの信頼
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普段から感情を表に見せることのないヴァルツだが、今回ばかりは鬼気迫るものを感じさせる。その怒気に気付いたか、コーラルがヴァルツとクライヴの間に割って入った。
おかげで解放されたクライヴだったが、立ち尽くしたまま乱れた襟を整えようともしない。ただ沈痛な面持ちを浮かべたまま、その場に立ち尽くすばかりであった。
「ヴァルツ……いや、お前が怒るのも無理はないか。本当にすまなかった。俺がついていながら、ガウルを止めることが出来なかった……」
「それより、二人は無事なのだろうな!?場合によっては、相応の手段を取らせてもらう……!」
コーラルが硬く握りしめた拳を鳴らし、ヴァルツがカチリと拳銃の激鉄を起こす。クライヴの返答次第で、このまま報復に赴くつもりなのだろう。その場合、間違いなく紺碧の盾は実行犯のガウルのみならず手痛い代償を支払うことになるはずだ。
「おいおい、お前ら落ち着けって。こんな人目のあるところで物騒な事言ってんじゃねェよ」
そんな二人を諌めたのは、まさかのギランであった。この殺伐とした雰囲気を一気に打ち消してしまうかのような緊張感のない言葉と共に、三人の間に割って入る。短気な彼ならば報復となれば一二もなく、むしろ意気揚々と突貫しそうだが、予想外にもギランはこの場の誰よりも冷静であった。
「…意外だな。お前ならば、真っ先に拳が飛んでくるかと思ったが」
同じことをクライヴも感じていたらしい。付き合いも長く、ギランの性格というものを熟知しているであろうクライヴも、思いがけないギランの言動に意外そうな表情を浮かべている。
「団長、何故貴方はそれほどまでに冷静なのだ!カオル達の身に何かあったら……!」
「相変わらず過保護なヤツだな。少しは頭を冷やせ。ってか、本来こういう時に周りを落ち着かせるのはお前の役目だろうが」
「しかし……!」
「わかったわかった、いいからもう下がってろ。ヴァルツ、お前もだ。ったく、どいつもこいつも……」
「…………」
コーラルとヴァルツを強引に自身の後方へと押しやり、いかにも面倒くさそうに頭を掻きながら、ギランが真正面からクライヴと対峙する。
「テメェもだ、クライヴ。わざわざこんなところまで出張って深刻そうな面で出迎えやがって。勘違い野郎が二人出ちまっただろうがよ」
「…俺としては、お前のその冷静さに驚いているのだがな。あの二人はお前も気に掛けていると思ったのだが、それほどではなかったということか」
「ケッ、いつまでも勿体ぶった言い方してんじゃねェよ。どうせ、コイツらの考えてる結果になってねェんだろ?」
「な……っ!?」
コーラルが驚きのあまり声を上げる。ギランが口にした言葉は、薫とアルトがガウルに勝利したということ。それは、ガウルの強さを知る者からは考えられないはずの答えである。
だが、それを否定しないクライヴの沈黙はギランの言葉が真実であることを物語っていた。
「そ、それは本当なのか!?あのガウルをカオル達が……」
「…ああ、俺も驚かされた。カオル……あの少年が、よもやガウルを打ち倒してしまうとはな。俺もガウルを止めに急いだが、完全に肩透かしを喰らってしまった」
「がははははっ!相変わらず驚かせてくれるぜ!まぁ、この俺様が直々に鍛えてやってんだ。あの狂犬野郎くらいは軽くあしらってもらわねぇとな」
絶句するコーラルとヴァルツの隣で、御機嫌そうに笑うギラン。確かに気まぐれに行われるギランの扱きという名のストレス発散はコーラルでさえ鍛錬後は足腰立たないほどであるが、それでも短期間でガウルを超えるとは思えない。数々の偶然とが奇跡的に噛み合ったが故の勝利と考えるのが普通か。
「…で、用件はそれだけか?俺様は仕事終わりで疲れてんだ。さっさと帰らせてもらうぜ」
「お、おい、団長……」
「…………」
クライヴの前を横切り、さっさと歩き出したギランを追うヴァルツとコーラル。淡白な反応に見えたのは、薫とアルトに対する信頼の表れだったのかもしれないと、改めてそう感じたコーラルであった。
「…おい、ギラン」
「あん?」
不意にクライヴから呼び止められ、さも面倒くさそうにギランは振り返った。
「今度は何だ?治療費なら払わねぇぞ。この金は今夜、俺様の活躍を労うお楽しみに使う予定なんだからな」
「それは私も初耳なのだが」
「…あの少年は一体何者だ?他者の悪意に晒されたことが無いのかと思うほどに純粋で臆病だが、一度覚悟を決めると強者相手に立ち向かい、躊躇なく我が身を顧みない捨て身の戦法を取る……どのような環境で生きればそのような精神構造になる?」
クライヴは薫が異世界からの迷い人であることを知らない。それ故に薫の持つ武士道とも言うべき自身のためではなく他者のために命を懸ける行動に理解が及ばないのだろう。
薫が異世界人であることは彼を迎え入れたギラン達しか知らない。薫の事を考えればあまり広めるべきではないだろうが、全ては彼を保護するギランの判断に委ねられる。
クライヴは敵であれ、その人間性は信用に足る人物ではある。コーラルが固唾を飲んでギランの様子を見守っていると、静かにギランの口が開かれた。
おかげで解放されたクライヴだったが、立ち尽くしたまま乱れた襟を整えようともしない。ただ沈痛な面持ちを浮かべたまま、その場に立ち尽くすばかりであった。
「ヴァルツ……いや、お前が怒るのも無理はないか。本当にすまなかった。俺がついていながら、ガウルを止めることが出来なかった……」
「それより、二人は無事なのだろうな!?場合によっては、相応の手段を取らせてもらう……!」
コーラルが硬く握りしめた拳を鳴らし、ヴァルツがカチリと拳銃の激鉄を起こす。クライヴの返答次第で、このまま報復に赴くつもりなのだろう。その場合、間違いなく紺碧の盾は実行犯のガウルのみならず手痛い代償を支払うことになるはずだ。
「おいおい、お前ら落ち着けって。こんな人目のあるところで物騒な事言ってんじゃねェよ」
そんな二人を諌めたのは、まさかのギランであった。この殺伐とした雰囲気を一気に打ち消してしまうかのような緊張感のない言葉と共に、三人の間に割って入る。短気な彼ならば報復となれば一二もなく、むしろ意気揚々と突貫しそうだが、予想外にもギランはこの場の誰よりも冷静であった。
「…意外だな。お前ならば、真っ先に拳が飛んでくるかと思ったが」
同じことをクライヴも感じていたらしい。付き合いも長く、ギランの性格というものを熟知しているであろうクライヴも、思いがけないギランの言動に意外そうな表情を浮かべている。
「団長、何故貴方はそれほどまでに冷静なのだ!カオル達の身に何かあったら……!」
「相変わらず過保護なヤツだな。少しは頭を冷やせ。ってか、本来こういう時に周りを落ち着かせるのはお前の役目だろうが」
「しかし……!」
「わかったわかった、いいからもう下がってろ。ヴァルツ、お前もだ。ったく、どいつもこいつも……」
「…………」
コーラルとヴァルツを強引に自身の後方へと押しやり、いかにも面倒くさそうに頭を掻きながら、ギランが真正面からクライヴと対峙する。
「テメェもだ、クライヴ。わざわざこんなところまで出張って深刻そうな面で出迎えやがって。勘違い野郎が二人出ちまっただろうがよ」
「…俺としては、お前のその冷静さに驚いているのだがな。あの二人はお前も気に掛けていると思ったのだが、それほどではなかったということか」
「ケッ、いつまでも勿体ぶった言い方してんじゃねェよ。どうせ、コイツらの考えてる結果になってねェんだろ?」
「な……っ!?」
コーラルが驚きのあまり声を上げる。ギランが口にした言葉は、薫とアルトがガウルに勝利したということ。それは、ガウルの強さを知る者からは考えられないはずの答えである。
だが、それを否定しないクライヴの沈黙はギランの言葉が真実であることを物語っていた。
「そ、それは本当なのか!?あのガウルをカオル達が……」
「…ああ、俺も驚かされた。カオル……あの少年が、よもやガウルを打ち倒してしまうとはな。俺もガウルを止めに急いだが、完全に肩透かしを喰らってしまった」
「がははははっ!相変わらず驚かせてくれるぜ!まぁ、この俺様が直々に鍛えてやってんだ。あの狂犬野郎くらいは軽くあしらってもらわねぇとな」
絶句するコーラルとヴァルツの隣で、御機嫌そうに笑うギラン。確かに気まぐれに行われるギランの扱きという名のストレス発散はコーラルでさえ鍛錬後は足腰立たないほどであるが、それでも短期間でガウルを超えるとは思えない。数々の偶然とが奇跡的に噛み合ったが故の勝利と考えるのが普通か。
「…で、用件はそれだけか?俺様は仕事終わりで疲れてんだ。さっさと帰らせてもらうぜ」
「お、おい、団長……」
「…………」
クライヴの前を横切り、さっさと歩き出したギランを追うヴァルツとコーラル。淡白な反応に見えたのは、薫とアルトに対する信頼の表れだったのかもしれないと、改めてそう感じたコーラルであった。
「…おい、ギラン」
「あん?」
不意にクライヴから呼び止められ、さも面倒くさそうにギランは振り返った。
「今度は何だ?治療費なら払わねぇぞ。この金は今夜、俺様の活躍を労うお楽しみに使う予定なんだからな」
「それは私も初耳なのだが」
「…あの少年は一体何者だ?他者の悪意に晒されたことが無いのかと思うほどに純粋で臆病だが、一度覚悟を決めると強者相手に立ち向かい、躊躇なく我が身を顧みない捨て身の戦法を取る……どのような環境で生きればそのような精神構造になる?」
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