ケモとボクとの傭兵生活

Fantome

文字の大きさ
84 / 101
第四章 ボクと白犬と銀狼と

皆の帰る場所

しおりを挟む
「ああ、そういやお前は知らねェか。別世界から来たんだよ、アイツ」

「だ、団長……!?」

微塵も躊躇なく薫の正体を明かしたギランに思わず声を上げるコーラル。少しは悩むかはぐらかすべきところなのだろうが、ギランの豪快な思考を考慮すれば当然の回答だったかもしれない。

果たして、衝撃の回答を得たクライヴの反応は。恐る恐るコーラルがクライヴへと視線を向けると、クライヴは腰に手を当てるなり大きく溜息をついた。

「はぁ……お前にまともな回答を望んだ俺がバカだった。用件はそれだけだ。ではな」

「おう、行っちまえ行っちまえ。もうどうでもいいことで顔見せんじゃねぇぞ」

踵を返し、背を向けて歩き出したクライヴにヤジを飛ばすギラン。そのまま歩き去るかと思われたが、思い出したようにクライヴはその場で足を止めた。

「…ついでに、一つ忠告をしておこう。カオルからあまり目を離さないことだ。彼は自身よりも他者の命を優先し、傭兵として働くにはあまりにも危うい。遅かれ早かれ、いずれお前もそれを実感することになるだろう」

「だから何だ?それはテメェが気にすることじゃねぇっての。わかったから、とっとと行っちまえよ」

「…忠告はしたぞ」

振り返りもせずにギランと短い会話を交わし、今度こそクライヴはその場を離れ、雑踏の中に消えていった。

宿敵同士の対面が終わりを告げ、張り詰めていた緊張感が薄れたところで、コーラルは深く息を吐いた。

「はぁ~……団長、彼に本当の事を伝える必要があったのか?どうやら本気にはしなかったようだが、肝が冷えたぞ」

「がははははっ!アイツみてぇにクソ真面目なヤツが、カオルが異世界人だなんて信じるわけねぇだろ。さぁて、余計な時間を取られちまった。さっさと帰るぞ」

「あ、ああ……」

「…………」

歩き出したギランを追って、困惑しながらも歩き出すコーラルとヴァルツ。彼らに背を向けながら、ギランは神妙な表情を浮かべていた。

(下手に勘繰られねぇようにしたつもりだったが……そう甘くはねぇか)

クライヴの反応を見て、ギランは確信していた。クライヴは、薫が普通の少年ではないと見抜いている。ギランが口にした異世界人であるということを本気にはしていないだろうが、完全に疑念を払う事は出来なかった。

クライヴの性格から薫の正体を知ったところで何かしら利用しようとは思わないだろうが、必要性が無い以上、わざわざ教える必要は無い。今後もクライヴが薫に接触する可能性もあるが、そこは不用意に話さないよう薫に釘を刺しておくしかなさそうだ。

「顔を合わせたくもねぇヤツに構っちまったせいで余計疲れちまった。今日はパーッと騒ぐとするかァッ!」

「ほどほどにしておいてくれ。貴方と副団長がその気になれば今回の報酬分を飲み尽くしかねない」

「文字通り俺様の腕で稼いだ金だぜ?それを俺様がどう使おうが勝手だろうがよ。なぁ、ヴァルツよ?」

「…………」

「やれやれ、またアルトが帳簿と睨み合うことになるな……」

恐らく、ギランの言葉の趣旨としては、今回の仕事の成功を祝うだけでなく、留守を守り抜いた薫達を労う意図もあるのだろう。そんなことを話していると、帰るべき家とも言うべき紅蓮の剣が拠点としている建物が見えてきた。ガウルの襲来があったと聞いて玄関扉の二枚や三枚破られていると思われたが、ちゃんと扉は傾くことなくあるべき場所に収まっている。

「さて、カオル達は元気にしているだろうか。ベッドから動けない状態でなければ良いのだが」

「クライヴの野郎が関与してんだ。さすがにそれはねぇだろ。気の合うヤツらだからな。どうせ俺様達がいない間に好き勝手飲み食いして楽しくやってんだろ」

「はっはっはっ、それならば安心なのだが……案外、寝床で仲良くしていたのやもしれないぞ?」

「がははははッ!その方が有り得ねェな!カオルのガードはミスリルの盾並に硬ェんだぞ。この俺様でさえ簡単に寝室に入れてもらえねェんだ。それをアルトなんぞに懐柔されるほどアイツはヤワじゃねェよ。さぁて、今回はたっぷり褒めてやるとするか」

そう言いつつ、ギランはドアノブに手を掛け、一拍置くことなく意気揚々と扉を開いた。

「おう、今戻っーーー」

「だ、ダメですよアルトさん。まだ明るいですし、お掃除の途中なんですから」

「いいじゃない、カオルぅ。ギランさん達が戻ってくるのは明日なんだから、チャンスは今日までしか無いんだよ?」

ギランの視界に飛び込んできたのは、モップを手にした薫の背中から抱き付くアルト。その両手は腰から薫の前面へと回され、下腹部と股間を弄っている。その距離の近さから、既に二人の間で数回の性交渉がなされていることは容易に想像がついた。

そんな光景を前に、固まるギラン。彼の左右から、さらにヴァルツとコーラルが顔を覗かせた。

「…ミスリルの盾とは、案外脆いものだったようだ」

「…………」

「あ、わ、わぁあああッ!?も、戻ってたんですか!?」

「お、お帰りなさい、皆さん!予定より早く戻られたんですね!?」

ギラン達の存在に気付き、慌てて離れる薫とアルト。しかし、時既に遅し。先程までの光景はギラン達の記憶の中に克明に刻み込まれてしまったのだから。

「団長の働きで早く仕事が片付いたのだが……遅らせた方が良かったか?」

「ち、違うんです!これにはいろいろあって、その……!」

「…まぁ、若気の至りというやつか。若者同士、一つ屋根の下に居ればそんなこともある。なぁ、団長……団長?」

慌てふためく薫と、何とか話題を逸らして誤魔化そうとするアルト。予期せぬ状況に混乱する二人を眺めながらコーラルがギランへと声を掛けるも、彼から返事は無し。

一体どうしたのかとギランへと視線を向けると、何故か彼は全身を震わせていた。これまでに見た事がないほどの怒りを露わにして。

「どうしたのだ、団ちょーーー」

「て、テメェらぁあああーーーッ!!」

「わ、わぁあああっ!?」

「ひゃあああっ!?」

突然咆哮を上げたかと思えば、ギランは薫達へと突貫。恐れ慄く彼らに掴み掛かり、片手でそれぞれの胸倉を掴むと軽々と持ち上げてみせた。

「俺様が誘っても冷めた対応しやがるくせに、俺様が血反吐吐いて仕事してる最中に間に揃ってしっぽりムフフしやがるとはどういう了見だコラッ!!」

「血反吐を吐かせたの間違いではないか?」

「ぐ、ぐるじぃいい……っ」

「お、落ち着いて下さいギランさん!これにはいろいろと込み入った事情があって……!」

ギランを制止しようとするアルトだったが、ギランが怒りを燃やす一因である彼の言葉が届くはずはない。むしろ、さらに怒りを昂らせる薪をくべただけであった。

「言い訳なんざ聞くかァッ!覚悟しやがれ、お前らが楽しんだ分、二度とガウルごときにつけ込まれねぇようにたっぷり鍛え直してやるからなァ……!」

「な、何で知って……う、うわぁあああっ!?」

ギランによって強制的に連行されていく二人。数日に及ぶ仕事を終えてなお、彼らを扱き上げる体力があるのは流石と言う他ないが、数刻後に力尽きた二人が修練場に転がることになるのは火を見るより明らかであった。

「こ、コーラルさん!ヴァルツさんもギランさんを止めて下さいッ!」

「まぁ……鍛えるだけだと言うし、問題は無いだろう。今後の事を考えれば、お前達はさらに鍛錬を積むべきだというのは同感だ」

「…………」

「副団長もこう言っている。団長も仕事明けだ。お前達にそこまで無理をさせることはないだろう。私も後で様子を見に行くから、頑張ってみるといい」

「そ、そんなぁ……!」

けんもほろろに救いを求める薫達の手を払い除け、温かい目で見送る二人。こうして、皆の帰ってくる場所を守り抜いた薫達は、嫉妬に狂うギランから苛烈な鍛錬メニューを頂戴することとなったのだった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜

れると
BL
【第3部完結!】 第4部誠意執筆中。平日なるべく毎日更新を目標にしてますが、戦闘シーンとか魔物シーンとかかなり四苦八苦してますのでぶっちゃけ不定期更新です!いつも読みに来てくださってありがとうございます!いいね、エール励みになります! ↓↓あらすじ(?) 僕はツミという種族の立派な猛禽類だ!世界一小さくたって猛禽類なんだ! 僕にあの婚約者は勿体ないって?消えてしまえだって?いいよ、消えてあげる。だって僕の夢は冒険者なんだから! 家には兄上が居るから跡継ぎは問題ないし、母様のお腹の中には双子の赤ちゃんだって居るんだ。僕が居なくなっても問題無いはず、きっと大丈夫。 1人でだって立派に冒険者やってみせる! 父上、母上、兄上、これから産まれてくる弟達、それから婚約者様。勝手に居なくなる僕をお許し下さい。僕は家に帰るつもりはございません。 立派な冒険者になってみせます! 第1部 完結!兄や婚約者から見たエイル 第2部エイルが冒険者になるまで① 第3部エイルが冒険者になるまで② 第4部エイル、旅をする! 第5部隠れタイトル パンイチで戦う元子爵令息(までいけるかな?) ・ ・ ・ の予定です。 不定期更新になります、すみません。 家庭の都合上で土日祝日は更新できません。 ※BLシーンは物語の大分後です。タイトル後に※を付ける予定です。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

大好きな獅子様の番になりたい

あまさき
BL
獣人騎士×魔術学院生 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ カナリエ=リュードリアには夢があった。 それは〝王家の獅子〟レオス=シェルリオンの番になること。しかし臆病なカナリエは、自身がレオスの番でないことを知るのが怖くて距離を置いてきた。 そして特別な血を持つリュードリア家の人間であるカナリエは、レオスに番が見つからなかった場合彼の婚約者になることが決まっている。 望まれない婚姻への苦しみ、捨てきれない運命への期待。 「____僕は、貴方の番になれますか?」 臆病な魔術師と番を手に入れたい騎士の、すれ違いラブコメディ ※第1章完結しました ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 長編です。お付き合いくださると嬉しいです。

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

騎士団長の秘密

さねうずる
BL
「俺は、ポラール殿を好いている」 「「「 なんて!?!?!?」」 無口無表情の騎士団長が好きなのは別騎士団のシロクマ獣人副団長 チャラシロクマ×イケメン騎士団長

処理中です...