【本編完結】異世界の結界術師はたいせつな人を守りたい

鳴海カイリ

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第5章 この腕に帰るまで

158 僕を受け入れて下さい ※

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 時間の……感覚が、おかしくなっていく。
 ほんの数時間のような……いや、もう何日もこんな状態でいるようにも感じて、ただ、喘ぐことしかできない。

 薄く瞼を開く。
 目の前の香炉から立ち上っていく紫煙が、生き物のようにまとわりついて来る。
 肌を舐め回し、鼻から、口から、体中のあらゆるところから入り込んでくるような……。身体を反らして逃げようにも、頭の上で鎖が鳴る。

「や……ぁ……ぁあ」

 息を止めようとしても、無駄だ。
 荒く乱れた呼吸と共に入り込む甘い匂いに、頭の芯が痺れていく。
 肺を満たす成分が、全身を、熱く疼かせていく。

「は……ぁ、ぁあっ……ぅ」

 肩をよじって身体の中の熱を逃したいのに、何もできない。
 自分では触ることもできず、周囲にも人の姿は無い。いや……闇の向こう……暗がりの奥から注がれる視線は、感じている。
 俺が……堕ちる瞬間を、舌なめずりして待っている……。

「……ぅ、ヴァ、ン……」

 名前を呼ぶだけで、ずくり、と芯が疼いた。
 膝が……腰が、震えてくる。

「は……ぁ……」

 拳を握り、喉を反らして熱い息を吐く。吹き出す汗が、したたり落ちていく。
 耳元で「リク」と、甘い声で囁かれながら、体中を愛撫されたい。
 唇を割って入ってくる肉厚な舌先。絡めて、舐めて、擦り上げて……息もできないほどに追い立てていく。
 ……その、痺れるほどの快感と熱。

「……ぅう……ぅ……あ」

 鎖が鳴る。
 ヴァンの腕が欲しい。
 今すぐ。
 身体の芯で疼いている、この場所に猛る熱いもので掻きまわされたい。ドロドロに溶かされて、何度でも上り詰めたい。ヴァンの熱い……精で満たされて……。
 なのに……。

「……ぁぁ、あ、あぁぁ! ぁ!」

 疼く。身の置き所が無くて、めちゃくちゃに暴れたい。
 石の床を蹴り、悶え、叫んでも消えるどころかますます熱くなってい。
 渦巻く欲望を解放できないでいる。
 ヴァン以外の誰にも触られたくないのに、誰でもいいから楽にしてくれと……悲鳴が漏れそうになる。

「ひ……ぁ、ああ! ぁ!」

 悶えて暴れれば暴れるほど、乾きと疼きが増していく。

 ギチ、と、鎖の音共に手首に巻き付く分厚い革が、悲鳴をあげた。
 飲み込むこともできない唾液が、唇の端からしたたり……落ちていく。

「ぁ……ヴァン、ヴァ、ン……ヴァ……ン……」

 どうして……こんなことに、なったんだ。
 思考が鈍く霞んでいく。
 首元で、守りの魔法石がチキチキと音を立てる。

 誰も、俺に触れられない。
 甘い痺れに体中が沸騰してしまいそうなのに、出口が無い。無理やり押し込められている。解放できない。その責め苦に神経がすり減っていく。
 俺を守るためのものが、酷い責め苦のように感じていく。

 この……首の魔法石が無ければ、魅了の力も解放できる。
 痛いほどに張り詰めたものを扱き、身体の中を突きまわして、イかせてもらえる……。

「だ、めぇ……だ……」

 肩で呼吸を繰り返しながら、俺は頭を横に振る。

 この身体を……奴らに明け渡しては、だめだ。
 とんでもない魔法と魔物を使って、恐ろしいことをしでかそうと企んでいる。俺が苦しむだけで終わらない。魅了の力を持った化け物を……作ろうと、している。

 ……触らせては、ダメ、だ。

 引きずられるな。

 そう……思う、のに……。

「うっ……!」

 香の、甘い匂いに、ずくんっ、と身体の中で熱が暴れる。
 肌が敏感になっているのか、擦れる服の感触だけでイってしまいそうになる。脳が……溶けてしまいそうになる。

「思ったより、頑張りますね」

 声が響いた。
 荒い息のまま視線を向ける。
 柔らかで優しい笑みを浮かべた青年が歩み寄り、俺の方へと、手を伸ばす。けれど……手のひら一つ分の距離で弾き返された。
 ……指先一つ、触れることは、できない。

「僕を敵だと思わないでください。あんなに仲良くなっていたでしょう?」

 青年――チャールズが、鼓膜こまくを撫でるような声で囁いた。

「どこも傷つけていない、痛い思いは……させていない」
「……くっ……」
「それどころか、蕩けるほど気持ちよくさせてあげますよ」

 ね、だから、と……甘い声をで囁く。

「……早く、受け入れてください。これ以上長く香に触れていると、寝ても覚めても、犯され続けていないといられない身体になってしまう……かも……」

 人だろうと獣だろうと、魔物だろう見境なく。
 そう言って、くくく……と喉の奥を鳴らして笑うチャールズの瞳が、濁った色で光を放っていた。
 手には奇妙な形の器具を持っている。黒光りする、一部が独特な形でそそり立った、手のひらよりわずかに大きい物。
 何に使うどんな物かは知らなくても……想像は、できる。
 ぞわり、と背筋に悪寒が走り……続いて下肢が痺れた。
 鎖が鳴る。

「……身体に、正直になって下さい」

 舐め回すように俺を見つめ、口の端を上げる。

「熱を、解放したいでしょう? 雄の部分をしごき上げて、腹の中を……狂うほど掻きまわされたくてたまらない……太くて、硬いモノで……」
「……う……」
「アーヴァイン様とは比べものにならないぐらい、気持ちよくしてさしあげますよ? 何度でも」

 手にした器具に舌を這わせる。
 その視線だけで、びくり、と俺の身体が震えた。
 睨み返す。
 俺は荒く、熱い、息のままに漏らす。

「近づく、な」

 す、とチャールズは瞳を細めた。

「俺……に、触れていい、のは……ヴァンだけ……だ」

 チャールズの口元は笑ったまま。俺の言葉は予想していたとでもいうように、瞳を細めただけでじっと見つめている。
 そして駄々っ子のワガママに呆れたような顔で、軽く頭を横に振った。

「一度ストルアン様に目を付けられたなら、二度と、逃げることはできませんよ。抵抗は苦痛を長引かせるるだけです。リク様はバカではないでしょう?」

 そう言いながら、俺に手を伸ばす。
 けれどある一定以上の距離より先には進めない。
 俺とチャールズの間にある、不可視の壁が指先ひとつ触れることを許さないでいる。直接傷つけるようなことはしないのだろうが、俺の警戒心と嫌悪感が、守りの魔法石の威力を高めているのだと……わかる。

 逆に言えば、俺がチャールズに警戒心を持たなくなった時、触れてしまえる。
 彼に再会した時、何の抵抗もなく握手できたように。

「リク様は僕の憧れです」

 うっとりとした視線で俺を見つめる。

「アーヴァイン様のご寵愛を受け、これほどまでストルアン様に求められている……本当に、羨ましくて、羨ましくて。いつか……めちゃくちゃにしたいと、思っていました。そんなリク様を、この手で好きなように弄りまわせる日が……こんなに早く来るとは……」
「触らせ……ない」
「時間の問題ですよ」

 柔らかに微笑む。

「お披露目会で僕の膝を砕いたように、今度は……僕が、リク様の足腰が立たなくなるまで、可愛がって差し上げます。ですから……」

 懐から、乾燥させた葉や花びらを取り出して、香炉の上に落としていく。
 濃い紫煙があがり、むっとするほどの甘い匂いが広がっていった。治まりかけた熱がまた、身体の中心から焼けつくように広がっていく。

「あ……ぁあ!」
「……早く、僕を受け入れて下さい」

 ちろり、と唇を舐める舌が、不気味なほど赤かった。







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