198 / 202
終章 その湖畔のコテージで僕らは熱を分け合う
187 こんな幸せを他に知らない ※
しおりを挟む――愛している。
そう囁いたヴァンの明るい緑の瞳は、今まで手にしたどんな魔法石より輝きながら俺を見つめていた。
ずっと、穏やかに見守るような視線だった。
俺のことを守ると、言い続けた言葉通り自分の欲望を押し止めてきたのだと思う。時々タガが外れたようになっても、その後にどれほど俺を労わってくれていたか。
俺が何度、好きだと、嬉しいと言っても、ヴァンの「愛してる」の一言にはかなわない気がする。
カッコ良すぎるよ……。
本当に。
こんなにステキな人が、俺のことを求めてくれる嬉しさに……どこまでも深くてあたたかな声と言葉に、俺の瞳の奥がまたジンと熱くなった。
「ヴァン……」
抱きしめて欲しいと願うように、腕を伸ばした。
「俺も……俺も、好き。愛してる。大好き。ずっとそばにいる。そばにいたい」
「……そばにいて」
ぎゅ、と抱きしめてくれる。
身体の奥もジンジンと熱くて、自分の物ではないような気がする。
イってもイっても、繰り返し押し寄せて来た快感の波に、何度意識が飛んだか分からない。それでもずっと願い続けていた熱と強さとヴァンの声に引き戻されて、抱きしめる腕の強さを感じながら頬を寄せる。
ヴァンが俺の耳元で囁く。
「僕は……自分でも驚くほど嫉妬深くて独占欲が強くて、寂しいのが嫌いみたいだ。貴族の義務だからと割り切って人を抱くこともできない。僕のことを心から好いてくれる相手じゃないと……ダメ、みたいだ」
「……知ってるよ」
だからこそ悩んで苦しくで、家を出たことも。
それに、ヴァンの実家の屋敷で、お兄さんたちに触らせたという理由だけでお仕置きされた夜は忘れられない。
あれは……とんでも無く恥ずかしかったけど、気持ち……よかった、かも。
悪い大人にイタズラさただけだと笑って言った。愛しすぎて時々いじめたくなるし食べたくなると、言った言葉にすら俺の身体は疼いてしまう。
思い出したら、また身体の奥がズクンと熱くなってきた。
そんなわずかな変化にも気づいたみたいで、ヴァンは耳元で笑う。
「ふふ……何を、思い出したの?」
「な、何っ……って……」
「気持ちいいこと? それとも、いやらしい……こと?」
また俺を駆り立てる声で、耳を軽く食んで腰を揺らす。俺の中に収めたままのヴァンがまた、軽く芯を持ちだしている。
欲望の兆しに、俺はまた嬉しくなった。
「ど……っちも……」
「そう、なら……もっとリクを、食べたいな……」
「……うん」
甘い声で俺はねだる。
「食べて……もっ、と……」
劣情に染まるヴァンの瞳。
今度はうつ伏せに寝転がされ、今度は後ろからじっくり突き上げられる。逃げられないのに、逃がすまいと片腕で胸を抱きかかえられ、もう片方で俺のものを扱き上げた。
突き上げる動きと一緒に。
ぬるり、ぬるり、と絶妙な強さでヴァンの長い指が俺を包み駆り立てると同時に、身体の中を擦り上げる快感がたまらない。
おかしくなる。
おかしくなってしまう。
「あぁぁ! ぁ、ぁぁ! ひぁあ!」
背筋を反らし、掻きまわすヴァンの動きに合わせて、俺は腰を揺らす。
気持ちいい。
目の前がチカチカして、頭が真っ白になっていく。
何より、自分の何もかもをさらけ出して、投げ出してしまえる。受け入れられて、大切にされている……。
こんな幸せを他に知らない。
ずっと、生まれてきてはいけないのだと感じて育った。
誰の手も煩わせないように。自分一人の力で生きていけるようにと。
――それなのに、異世界に迷い込んでヴァンと出会って、悩んだり泣いたりもしてきたけれど……本当に生まれて来て良かったと……心から思う今がある。
これからも、ここで生きていていいのだと。
誰かの幸せを守りながら。
俺も……守られながら。
ずっと、ずっと、命の終わりまで……。
「あぁぁ! あ、ヴァン、も、だめ……イっちゃう」
「……いつでも、イっていいよ。リク気持ちいいを見たい」
ぐうぅぅぅ……と最奥を突き上げる。
「ひ……いぃぃ、いいっ!」
「ここも、気持ちいいね」
胸の尖りを摘ままれ、軽く捩じられる。
「あぁっ、あ……きもひ、いぃ……」
「……ここも」
背骨にそってヴァンの熱い舌が這う。
きゅっ、と体内に収めたヴァンを締め付け、その硬さと大きさにまた俺は軽くイく。
「リクは……とても、美味しい」
「あ、あぁ……ぁ」
「……いつまでも、食べていたい。美味しい……」
空になるのでは思うほど、俺の陰茎から精が溢れ出してヴァンの手やベッドを汚す。後孔からも、放たれた熱い精が泡立ちながら溢れて、俺の太ももを伝い落ちていく。
そこに再び、たっぷりと精を注ぎ込まれた。
「ひっ……――っあ! ぁあ!」
声が枯れるほど喘いで、それでも終わらない快感に、身体はとろとろに蕩けていく。
ベッドの上で。
汗と精を洗い流しながら、バスルームで。
そしてまた戻った部屋で抱き合いながら、唇を重ね、舌を絡め合う。浅い眠りに落ちて目が覚めるとそこはヴァンの腕の中で、身体の中も外も心地よい匂いの中で俺は微睡む。
気が付けば夜が明け、柔らかな朝の明かりが窓を白く浮かび上がらせていた。
「……もぅ……よあけ……」
「うん、一晩中……抱き合っていたね」
俺の瞼に唇を寄せながら、ヴァンが囁いた。
「眠っていいよ、リク」
「ううん……幸せで、眠るのが……もったいない」
囁き返すとヴァンが小さく笑った。
そしてゆっくりと身体を起こす。
「朝日に輝く湖は……綺麗、だろうね」
「ヴァン……」
「眠るのがもったいないなら、見に行く?」
軽く首を傾げ、俺の顔を覗き込む。
ヴァンが連れていってくれるのなら、どんな所にでも行きたい。
「ぁ……見たい……でも……」
俺は苦笑した。
「……さすがに、今日は腰が、立たない……よ」
今まで激しく抱かれたことは何度かあったけれど、今日はもう、本当にダメだ。抱き潰された。上半身を起こすのすら辛い。
今日だけじゃなく、明日になっても起きられるかどうか……。
けれどヴァンは微笑みながら言う。
「かまわない、僕が抱いて行くから」
そう言って軽く衣服をまとうと、俺を新しいシーツに包んで抱きかかえた。
いつもの肩担ぎじゃなくて、お姫様抱っこみたいな横抱きで。
「わぁぁ……ヴァン!」
「リクは軽いね」
「軽くなんかないよ、普通、だよ!」
「軽いよ。羽根のようだ」
そう答えるヴァンの声は嬉しそうで、俺は恥かしさに声を失いながら肩に抱きついた。
なんかもう、あれだけ一晩中俺を抱きまくっていたのに、ヴァン……体力おばけだよ。魔法酔いを治しながら、人体改造までしたんじゃないかと思うぐらい。
「ヴァン……すごい、ね」
「ん?」
「元気だ」
「もうリクを心配させたくないからね」
笑いながら、ヴァンは裸足のままコテージを出て湖の方へと向かう。
朝の、ひんやりした空気が熱を持った身体に心地いい。俺は清らかな朝の大気を胸いっぱいに吸い込んで、明るい森の向こうに視線を向ける。
やがて樹々の間から、朝靄の漂う湖が見え始めた。
「わぁ……すごい」
遠く水鳥たちが羽を休めている。
透明な湖は底まで見えるようで、対岸には赤や黄色の鮮やかな色に染まった樹々がある。間をおかず朝日が顔を出し、湖面は宝石をちりばめたように輝き始めた。
今まで見た、どんな景色より美しい。
「綺麗……ヴァン、すごい綺麗だよ!」
きゅ、と肩にしがみつく手に力を込めて、声を上げた。
子供みたいに「綺麗」と繰り返す、そんな俺にハタと気づいて振り向くと、ヴァンは眩しいものを見るように俺を見つめていた。
恥ずかしさに顔が熱くなる。
「あ……ヴァン……」
「リクの、その顔が見たかったんだよ。きっと喜んでくれると思って」
初めてベネルクの街を案内してくれた時のように。
馬車に乗り、美味しいパン屋を訪れ、今まで見たことも触ったこともないようなものを体験させてくれる。新鮮な驚きをヴァンは俺にくれる。
俺がただ、喜ぶことだけを考えて……。
「……うん、嬉しい」
嬉しくて、本当に嬉しくて笑い返すと、ヴァンは瞳を細めて俺に軽く口づけた。
「……僕たちがたどり着ける、あらゆる場所をリクに見せたいな。この世界はもっと広くて不思議なものにあふれている。危険も多いが、魅了を持つリクと僕がいれば怖い物はない」
冒険に行こうか。
そう誘うような声に俺は頷いた。
「見たい、ヴァンと一緒に!」
嬉しそうに微笑むヴァンが頷く。
「異世界の少年よ、この世界はあなたのものだ」
囁く言葉に涙が溢れた。
――俺は、生まれた世界を捨てた。
そんな俺に、アーヴァイン・ヘンリー・ホールという人は、生きる世界を与えてくれた。俺のそばで、俺を見つめ守り、溢れるほどの愛で包みながら。
「嬉しい」
囁いて抱きしめた。眩しいほどの、朝の光の中で。
―― END ――
11
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら執着兄上たちの愛が重すぎました~
液体猫(299)
BL
毎日AM2時10分投稿
【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸に、末っ子クリスは過保護な兄たちに溺愛されながら、大好きな四男と幸せに暮らす】
アルバディア王国の第五皇子クリスが目を覚ましたとき、九年前へと戻っていた。
巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞る。
かわいい末っ子が過剰なまでにかわいがられて溺愛されていく──
やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな軽い気持ちで始まった新たな人生はコミカル&シリアス。だけどほのぼのとしたハッピーエンド確定物語。
主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ
⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌
⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。
⚠️若干の謎解き要素を含んでいますが、オマケ程度です!
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました
雪
BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」
え?勇者って誰のこと?
突如勇者として召喚された俺。
いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう?
俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる