【本編完結】異世界の結界術師はたいせつな人を守りたい

鳴海カイリ

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終章 その湖畔のコテージで僕らは熱を分け合う

187 こんな幸せを他に知らない ※

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 ――愛している。

 そう囁いたヴァンの明るい緑の瞳は、今まで手にしたどんな魔法石より輝きながら俺を見つめていた。
 ずっと、穏やかに見守るような視線だった。
 俺のことを守ると、言い続けた言葉通り自分の欲望を押し止めてきたのだと思う。時々タガが外れたようになっても、その後にどれほど俺を労わってくれていたか。
 俺が何度、好きだと、嬉しいと言っても、ヴァンの「愛してる」の一言にはかなわない気がする。

 カッコ良すぎるよ……。
 本当に。
 こんなにステキな人が、俺のことを求めてくれる嬉しさに……どこまでも深くてあたたかな声と言葉に、俺の瞳の奥がまたジンと熱くなった。

「ヴァン……」

 抱きしめて欲しいと願うように、腕を伸ばした。

「俺も……俺も、好き。愛してる。大好き。ずっとそばにいる。そばにいたい」
「……そばにいて」

 ぎゅ、と抱きしめてくれる。
 身体の奥もジンジンと熱くて、自分の物ではないような気がする。
 イってもイっても、繰り返し押し寄せて来た快感の波に、何度意識が飛んだか分からない。それでもずっと願い続けていた熱と強さとヴァンの声に引き戻されて、抱きしめる腕の強さを感じながら頬を寄せる。
 ヴァンが俺の耳元で囁く。

「僕は……自分でも驚くほど嫉妬深くて独占欲が強くて、寂しいのが嫌いみたいだ。貴族の義務だからと割り切って人を抱くこともできない。僕のことを心から好いてくれる相手じゃないと……ダメ、みたいだ」
「……知ってるよ」

 だからこそ悩んで苦しくで、家を出たことも。
 それに、ヴァンの実家の屋敷で、お兄さんたちに触らせたという理由だけでお仕置きされた夜は忘れられない。
 あれは……とんでも無く恥ずかしかったけど、気持ち……よかった、かも。
 悪い大人にイタズラさただけだと笑って言った。愛しすぎて時々いじめたくなるし食べたくなると、言った言葉にすら俺の身体は疼いてしまう。

 思い出したら、また身体の奥がズクンと熱くなってきた。
 そんなわずかな変化にも気づいたみたいで、ヴァンは耳元で笑う。

「ふふ……何を、思い出したの?」
「な、何っ……って……」
「気持ちいいこと? それとも、いやらしい……こと?」

 また俺を駆り立てる声で、耳を軽くんで腰を揺らす。俺の中に収めたままのヴァンがまた、軽く芯を持ちだしている。
 欲望のきざしに、俺はまた嬉しくなった。

「ど……っちも……」
「そう、なら……もっとリクを、食べたいな……」
「……うん」

 甘い声で俺はねだる。

「食べて……もっ、と……」

 劣情に染まるヴァンの瞳。
 今度はうつ伏せに寝転がされ、今度は後ろからじっくり突き上げられる。逃げられないのに、逃がすまいと片腕で胸を抱きかかえられ、もう片方で俺のものを扱き上げた。
 突き上げる動きと一緒に。
 ぬるり、ぬるり、と絶妙な強さでヴァンの長い指が俺を包み駆り立てると同時に、身体の中を擦り上げる快感がたまらない。

 おかしくなる。
 おかしくなってしまう。

「あぁぁ! ぁ、ぁぁ! ひぁあ!」

 背筋を反らし、掻きまわすヴァンの動きに合わせて、俺は腰を揺らす。
 気持ちいい。
 目の前がチカチカして、頭が真っ白になっていく。
 何より、自分の何もかもをさらけ出して、投げ出してしまえる。受け入れられて、大切にされている……。


 こんな幸せを他に知らない。


 ずっと、生まれてきてはいけないのだと感じて育った。
 誰の手も煩わせないように。自分一人の力で生きていけるようにと。

 ――それなのに、異世界に迷い込んでヴァンと出会って、悩んだり泣いたりもしてきたけれど……本当に生まれて来て良かったと……心から思う今がある。

 これからも、ここで生きていていいのだと。
 誰かの幸せを守りながら。
 俺も……守られながら。
 ずっと、ずっと、命の終わりまで……。

「あぁぁ! あ、ヴァン、も、だめ……イっちゃう」
「……いつでも、イっていいよ。リク気持ちいいを見たい」

 ぐうぅぅぅ……と最奥を突き上げる。

「ひ……いぃぃ、いいっ!」
「ここも、気持ちいいね」

 胸の尖りを摘ままれ、軽く捩じられる。

「あぁっ、あ……きもひ、いぃ……」
「……ここも」

 背骨にそってヴァンの熱い舌が這う。
 きゅっ、と体内に収めたヴァンを締め付け、その硬さと大きさにまた俺は軽くイく。

「リクは……とても、美味しい」
「あ、あぁ……ぁ」
「……いつまでも、食べていたい。美味しい……」

 空になるのでは思うほど、俺の陰茎から精が溢れ出してヴァンの手やベッドを汚す。後孔からも、放たれた熱い精が泡立ちながら溢れて、俺の太ももを伝い落ちていく。
 そこに再び、たっぷりと精を注ぎ込まれた。

「ひっ……――っあ! ぁあ!」

 声が枯れるほど喘いで、それでも終わらない快感に、身体はとろとろに蕩けていく。
 ベッドの上で。
 汗と精を洗い流しながら、バスルームで。
 そしてまた戻った部屋で抱き合いながら、唇を重ね、舌を絡め合う。浅い眠りに落ちて目が覚めるとそこはヴァンの腕の中で、身体の中も外も心地よい匂いの中で俺は微睡まどろむ。

 気が付けば夜が明け、柔らかな朝の明かりが窓を白く浮かび上がらせていた。

「……もぅ……よあけ……」
「うん、一晩中……抱き合っていたね」

 俺の瞼に唇を寄せながら、ヴァンが囁いた。

「眠っていいよ、リク」
「ううん……幸せで、眠るのが……もったいない」

 囁き返すとヴァンが小さく笑った。
 そしてゆっくりと身体を起こす。

「朝日に輝く湖は……綺麗、だろうね」
「ヴァン……」
「眠るのがもったいないなら、見に行く?」

 軽く首を傾げ、俺の顔を覗き込む。
 ヴァンが連れていってくれるのなら、どんな所にでも行きたい。

「ぁ……見たい……でも……」

 俺は苦笑した。

「……さすがに、今日は腰が、立たない……よ」

 今まで激しく抱かれたことは何度かあったけれど、今日はもう、本当にダメだ。抱き潰された。上半身を起こすのすら辛い。
 今日だけじゃなく、明日になっても起きられるかどうか……。
 けれどヴァンは微笑みながら言う。

「かまわない、僕が抱いて行くから」

 そう言って軽く衣服をまとうと、俺を新しいシーツに包んで抱きかかえた。
 いつもの肩担ぎじゃなくて、お姫様抱っこみたいな横抱きで。

「わぁぁ……ヴァン!」
「リクは軽いね」
「軽くなんかないよ、普通、だよ!」
「軽いよ。羽根のようだ」

 そう答えるヴァンの声は嬉しそうで、俺は恥かしさに声を失いながら肩に抱きついた。
 なんかもう、あれだけ一晩中俺を抱きまくっていたのに、ヴァン……体力おばけだよ。魔法酔いを治しながら、人体改造までしたんじゃないかと思うぐらい。

「ヴァン……すごい、ね」
「ん?」
「元気だ」
「もうリクを心配させたくないからね」

 笑いながら、ヴァンは裸足のままコテージを出て湖の方へと向かう。
 朝の、ひんやりした空気が熱を持った身体に心地いい。俺は清らかな朝の大気を胸いっぱいに吸い込んで、明るい森の向こうに視線を向ける。
 やがて樹々の間から、朝靄あさもやの漂う湖が見え始めた。

「わぁ……すごい」

 遠く水鳥たちが羽を休めている。
 透明な湖は底まで見えるようで、対岸には赤や黄色の鮮やかな色に染まった樹々がある。間をおかず朝日が顔を出し、湖面は宝石をちりばめたように輝き始めた。
 今まで見た、どんな景色より美しい。

「綺麗……ヴァン、すごい綺麗だよ!」

 きゅ、と肩にしがみつく手に力を込めて、声を上げた。
 子供みたいに「綺麗」と繰り返す、そんな俺にハタと気づいて振り向くと、ヴァンは眩しいものを見るように俺を見つめていた。
 恥ずかしさに顔が熱くなる。

「あ……ヴァン……」
「リクの、その顔が見たかったんだよ。きっと喜んでくれると思って」

 初めてベネルクの街を案内してくれた時のように。
 馬車に乗り、美味しいパン屋を訪れ、今まで見たことも触ったこともないようなものを体験させてくれる。新鮮な驚きをヴァンは俺にくれる。
 俺がただ、喜ぶことだけを考えて……。

「……うん、嬉しい」

 嬉しくて、本当に嬉しくて笑い返すと、ヴァンは瞳を細めて俺に軽く口づけた。

「……僕たちがたどり着ける、あらゆる場所をリクに見せたいな。この世界はもっと広くて不思議なものにあふれている。危険も多いが、魅了を持つリクと僕がいれば怖い物はない」

 冒険に行こうか。
 そう誘うような声に俺は頷いた。

「見たい、ヴァンと一緒に!」

 嬉しそうに微笑むヴァンが頷く。



「異世界の少年よ、この世界はあなたのものだ」



 囁く言葉に涙が溢れた。

 ――俺は、生まれた世界を捨てた。
 そんな俺に、アーヴァイン・ヘンリー・ホールという人は、生きる世界を与えてくれた。俺のそばで、俺を見つめ守り、溢れるほどの愛で包みながら。

「嬉しい」

 囁いて抱きしめた。眩しいほどの、朝の光の中で。






―― END ――
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