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愛しさがあふれだす【エヴァン】※
しおりを挟む彼から溢れたもので、手の平の滑りがよくなってきた。
ゆっくりと……時に緩急もつけて、駆り立てていく。
細い首を逸らしながら私の肩にのけぞっていくセシルは、心がざわめくほど美しく、可愛くて……応急処置としての行為だということを忘れそうになる。
「だぁ……め……ぁあ……」
「かまわない。このまま、いつでも吐き出していい」
「だめ、だめ……いって、しま……う」
「いいんだ」
頑なに衝動を押しとどめようとする。
私も男だ、このような状態で大切なものを駆り立てられたなら、堪えられないことぐらい分かる。だというのに、セシルは無意識の中でも自分を押しとどめようとしている。
「このまま、全部吐き出してくれ」
「いや、あ……許して……い、ってしまう」
首を振り、背中から抱きかかえる私の腕を掴んで握りしめる。
何度も「いっていい」と囁くのに、セシルは「許して」と呟き堪えている。
もしや彼は、自由に自分の欲望を吐き出すことすら、許されていなかったのか?
「セシル……」
胸がえぐられるようだ。
彼の心をここまで拘束して、いったい何が楽しいのか。
はらはらと涙を零す瞼を見つめ、私は背中から抱きしめる。
「イっていいんだ。私に……その姿をみせておくれ……」
「……ぁあ、あ」
「あなたが気持ちよくなった姿を見たい」
しごき上げる手の動きを速めていく。
快感に抵抗できず、セシルの腰が浮かんできた。こぼれ溢れる雫で音を立てる。それすら愛おしくて、私の頭もおかしくなってしまいそうだ。
「イっておくれ、セシル」
「……も、もぅ……これいじょう……ぁあ」
「可愛いよ」
囁き、溜まらす彼の耳に唇をよせ舌先で触れた。
「ひ、あぁ!」
上と下との刺激に耐えきれなくなったのか、喘ぎ声を上げたセシルの体がピクリと痙攣する。そのまま、パタリ、パタリと白濁の雫を吐き出していった。
「あぁ……ひうっ……う、ぁあ」
悲鳴にも似た声。
彼の中で溜まりに溜まっていたものが、全て押し出されていく。
呼吸すら止めて震える体を、ただ抱きしめる。
彼への、愛しさがあふれだす。
もう、誰にも渡したくない。
彼の全てを守りたい。
何とも何度も同じ想いを心の中で繰り返し、ただひたすら私は願う。
もうこれ以上、苦しまなくていいと。
びくんっ、とひときわ大きく震えて全てを吐き出したセシルは、ゆっくりと体の力を抜いていった。
そのまま私の胸に頭を預け、まだ少し浅い呼吸を繰り返す。体中、しっとりと汗に濡れていたが、悪寒のような痙攣は止まっていた。
全ての毒を吐き出せたわけではないだろうが、応急処置として最善の状態には至ったようだ。
「セシル……」
このまま朝まで休ませてあげたいところだがそうもいかない。
直ぐにでも神殿に運び、神聖魔法で処置をしなければ。それも一度で完全には回復しないだろう。既に中毒の状態になっているのだから繰り返し解毒を施し、時間をかけて回復していくしかない。
体だけではなく、精神的にも。
「セシル……」
静かに、何度となく呼びかけると、セシルは一度大きく息を吐いてから、ふ……と瞼を開いた。
まだ意識がもうろうとしているのか、目の焦点が合っていない。
それでも、二度、三度と大きく呼吸を繰り返し、ゆっくりと背中から抱く私を見上げた。
「……あ、エ……ヴァン……さま」
「よかった、やっと意識が戻ったね」
囁き微笑む。
ぼーっと見上げたセシルは、自分を抱きかかえている相手だ誰か分かったのだろう。目を見開き、そして胸から下肢まで前をはだけさせている自分の状況に気が付いた。
驚きに息を呑み、飛び起きようとする体を離さない。
「落ち着いて」
「これは! あ、ダメです」
「いいんだ」
「ダメです。あぁ……手を、エヴァン様の手を汚してしまった」
「いいんだ。私がこうしたかったのだから」
左腕でしっかりと抱きしめながら、もう一度彼の分身を右手で包み込んだ。
慌てるセシルは「ダメ、ダメ」と言いながらも逃げ出そうとはせず、気持ちよさに声が甘くなる。
「自分がどんな状況に陥っていたか、記憶にある?」
「わ……たしは……触手の、魔物に……」
「そう、囚われていた。そして駆け付けた私たちが救い出した。魔物は……倒したから安心して」
耳に唇を寄せながら囁く。
セシルの呼吸が甘く答える。
「……いけ、ません。汚れてしま……う」
「魔物から救出はしたが、あなたは麻痺毒に冒されていた。解毒魔法をかけたが、上手く働かなかった」
「ダメ……ぁあ」
くぷ、ちゅっ、と音が響く。
再び私の腕を掴み、気持ちよさに喘ぐセシル。その姿が愛しくてたまらない。
「ふぁ……あっ……」
「繰り返し、あなたに使われていた薬との作用で、危険な状態になっていたのです」
「……ふぁ、あ……エヴァン、さま……」
「吐き出すこともできず、応急処置としてこのような真似をした。セシル」
再び快感に翻弄される。
そんなセシルが可愛くて、愛しくて、意識のある状態でもう一度気持ちよくさせたい。これからあなたの全てを守るのは私なのだと、知らしめるために。繰り返し。
「セシル、私は……あなたを護りたい」
抱きしめながら耳元や首筋にキスを重ねる。
「あぁっ……あ、は……ぁあ!」
「我が片翼として」
「……エヴァン……」
命果てるその時まで、いや、命果て魂だけになろうとも、あなたを守りたいのです。
ふるふる、と首を横に振る。
それは私の言葉を拒否するというよりも、抑えきれない快感に抵抗する様子に見えた。だから、「大丈夫」と囁き、彼を再び導く。「気持ちいいかい?」と問うと、涙声で彼は答える。
「……き、もちいい……です」
なんて可愛いんだろう。
「嬉しい」
こんなに素直な気持ちを口にできたのは初めてかも知れない。
「エヴァン……さ、ま……」
「いつでもイって。もう、何も我慢しなくて……いいから」
「あぁ!」
駆り立てていく。
一度目は無意識の中での条件反射だっただろう。けれど今度は違う。
セシルは相手が私と知ったうえで全てをゆだね、気持ちを高ぶらせ、身を任せている。心地よさに沈み、解放する。
「ふぁああ! あ、あぁっ……」
再び白濁のものを溢れさせ、飛び散らせた。
びくんっ、びくんっ、と震えた体はやがて力を失い、私の胸の中に倒れていく。その体の重みすら、嬉しくて。
頬はほんのりとバラ色になり、呼吸も落ち着いてきた。
応急処置以上の効果になったのかも知れない。だったら、今……伝えなければ。
私は呼吸を整えようとするセシルに囁きかけた。
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