230 / 281
第六章 死を許さない呪い
230 アラン・必ずやりとげる
しおりを挟むギチッ! と鎖を鳴らし目の前の男を引き裂こうとする。
だが魔法で強化された拘束は硬く、びくともしない。
「ふふっ、あはははは! 笑っちゃうよね! 王城で大切に育てて、出来上がったのは性奴隷ってこと。あの子らしい結末じゃない?」
マロシュが声を上げる。
「ボクからアランを奪った報いだ。ざまぁみろ」
「殺してやる……」
「誰を? アランは誰も殺せないよ。もうその拘束具から逃げられないんだから。ねぇ……それよりボクに感謝してもらいたいな。王を殺せなかったアランは処分しろってズビシェクは言ったけど、ボクが止めたんだよ」
一歩、一歩と俺に近付ていて来る。
「これからはボクだけを相手にすればいいんだ。サイコーに幸せでしょう? こんなにかわいい子を抱けるんだから……」
そう言って俺の顔を両手で包み、顔を近づけて来る。
唇を……重ねようとするその瞬間、俺はヤツに噛みついた。
「――っ!」
バシッ! と頬を張り倒される。
俺は無抵抗のまま殴られた頬を向け、口から噛み千切った肉を吐き出した。唇を押えたマロシュの指の間から、鮮血がしたたり落ちいる。
「腐肉より臭ぇな」
マロシュの瞳が怒りに燃えている。
笑う俺に口元を抑えたまま、怒鳴り返した。
「二度と鎖を外してやるものか! アランは一生僕の性奴隷だ。繋がれたまま、自我が無くなるまで魔法をかけてやる!」
吐き捨てて、マロシュは牢を飛び出していった。
やれるものならやってみろ、だ。その前に俺はここから逃げ出してやる。どれほど魔法で強化された鎖だろうと、引きちぎってやる……。
「精霊たち。これはお願いではなく取引だ。サシャを守れ」
俺に精霊の声を聞く力は無い。
それでも、俺の声は精霊たちに届いているはずだ。
「俺はここから逃げ出し、呪いを解いてサシャの元に駆けつける。あいつを守ると誓ったんだ。命ある限り、必ずやりとげる。それまでの間、サシャを守れ」
ギチ、と鎖を軋ませながら言う。
「もしサシャが穢され命を失うことがあったなら……俺は、世界を亡ぼす狂戦士――いや、魔王になってやる。一人残らず、殺し尽くしてやる」
ざわり、と大気が揺れる。
人々が敬う精霊すら、俺は利用してやる。
「サシャ……」
愛しい者の名を囁いてから、俺は渾身の力をこめて鎖を引きちぎり始めた。
◆
信じられない! アランが、ボクの唇を噛み千切るなんて。
砦の別室にいる老婆の元へ行く。
カサルの町の最下層で、違法な魔法実験を繰り返していた希代の魔術師だ。 ボクがカサルの町を出る時に連れ出した。
魔法を使いすぎて、人の姿をしてはいるけど魔物のような性質を帯び始めている。すでに百数十年を生きているのだという。ボクの美貌を保つための道具だ。
足が悪く自分からは動けないが、利用価値がある間は面倒を見てあげないと。
「唇に噛みつかれた! 今すぐ治して!」
「マロシュか。ほっ、これは酷い」
ボクの顔を見て老婆が笑う。
つべこべ言うなと叱りつけて、僕は老婆から治癒の術を受けた。強力な魔法は傷口を跡形もなく治してしまう。便利な術だというのに、この魔法は禁じられている。
あまり急激に強力な魔法をかけられると、その反動が出る。体の中に魔素がたまり、魔物化していくという。
けど僕は、それを魅力に変換する術を身に着けた。
これで誰も僕の状態には気づかない。
体の中は魔物みたいでも、見かけが普通の……いや、カワイイ獣人ならいいじゃないか。
「ねぇ、早くアランの自我をどうにかしてよ。ちっとも言うことを聞かないんだ。あんなに反抗的だと扱いずらくて」
「自我を奪えは人形と変わらなくなるぞ。無反応の人形を相手にしても、つまらないじゃろう」
「そうだけどさ……」
ボクは口を尖らせる。
「サシャが死んでしまえば、大人しくなるかな」
あいつが生きているから、アランはついまでも僕になびかないのかもしれない。
獣人はこれと決めた相手を生涯追い求める。ボクがアランをあきめきれないように。けどさすがに死んでしまえば、ボクに従うかもしれない。
「そうだよね。うん、そうしよう。サシャを殺してしまえばいいんだ。魔法で自我を奪うより、ずっとカンタンだ」
別室ではズビシェクとその仲間たちが、次の計画を練っている。
サシャが奴隷になるか処刑され、現王も倒れたなら、次の者――カエターンが王位につくことになる。そうなればボクらはこの国で、大きな顔をして動き回ることができる。
もしカエターンがボクらを排除しようとすれば、今までの関係を暴露して失脚させればいい。もちろん他の王の血筋も皆殺しだ。
「そうなれば、次の王様はきっとボクだよね」
ボクはこっそり古い砦を抜け出した。
ガダル砦から王都までは百ルイの距離。馬を使っても二日はかかる。行動するなら早い方がいい。
「サシャ、待っていて。今度は確実に息の根を止めてあげる」
明け方の空を見上げて、ボクは馬を走らせ始めた。
◆
一睡も眠れないまま、夜明けを迎えた。
北の塔の最上階で、たった一人、手の届かない場所にある窓を見上げる。
アランは無事だろうか。
そしてアーシュは。お祖父さまは……。
こんな場所で、鎖に繋がれたまま心配していても仕方がないのは分かっている。今はただ、精霊たちに祈るばかりだ。
「お願い……アランを守って。アランを助けて……」
呪文のように繰り返す。
その時、石の階段を上って来る足音と気配に顔を上げた。
先頭はカエターン・バルツァーレク。そして続くのは彼の私兵として働く、屈強な騎士たちだ。どの顔も見覚えが無い。皆、カエターンの側近、ということなのだろう。
「さて……一晩たって頭も冷えたかな。エルフの血を継ぐ者」
「カエターン」
「私の言葉に従うか、無駄な抵抗で苦しみを長引かせるか。お前の命も私が自由にできるのだということ、理解してもらおう」
23
あなたにおすすめの小説
僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる