冒険者に拾われ聖騎士に求められた僕が、本当の願いに気づくまで。

鳴海カイリ

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第六章 死を許さない呪い

230 アラン・必ずやりとげる

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 ギチッ! と鎖を鳴らし目の前の男を引き裂こうとする。
 だが魔法で強化された拘束は硬く、びくともしない。

「ふふっ、あはははは! 笑っちゃうよね! 王城で大切に育てて、出来上がったのは性奴隷ってこと。あの子らしい結末じゃない?」

 マロシュが声を上げる。

「ボクからアランを奪った報いだ。ざまぁみろ」
「殺してやる……」
「誰を? アランは誰も殺せないよ。もうその拘束具から逃げられないんだから。ねぇ……それよりボクに感謝してもらいたいな。王を殺せなかったアランは処分しろってズビシェクは言ったけど、ボクが止めたんだよ」

 一歩、一歩と俺に近付ていて来る。

「これからはボクだけを相手にすればいいんだ。サイコーに幸せでしょう? こんなにかわいい子を抱けるんだから……」

 そう言って俺の顔を両手で包み、顔を近づけて来る。
 唇を……重ねようとするその瞬間、俺はヤツに噛みついた。

「――っ!」

 バシッ! と頬を張り倒される。
 俺は無抵抗のまま殴られた頬を向け、口から噛み千切った肉を吐き出した。唇を押えたマロシュの指の間から、鮮血がしたたり落ちいる。

「腐肉より臭ぇな」

 マロシュの瞳が怒りに燃えている。
 笑う俺に口元を抑えたまま、怒鳴り返した。

「二度と鎖を外してやるものか! アランは一生僕の性奴隷だ。繋がれたまま、自我が無くなるまで魔法をかけてやる!」

 吐き捨てて、マロシュは牢を飛び出していった。
 やれるものならやってみろ、だ。その前に俺はここから逃げ出してやる。どれほど魔法で強化された鎖だろうと、引きちぎってやる……。

「精霊たち。これはお願いではなく取引だ。サシャを守れ」

 俺に精霊の声を聞く力は無い。
 それでも、俺の声は精霊たちに届いているはずだ。

「俺はここから逃げ出し、呪いを解いてサシャの元に駆けつける。あいつを守ると誓ったんだ。命ある限り、必ずやりとげる。それまでの間、サシャを守れ」

 ギチ、と鎖を軋ませながら言う。

「もしサシャが穢され命を失うことがあったなら……俺は、世界を亡ぼす狂戦士――いや、魔王になってやる。一人残らず、殺し尽くしてやる」

 ざわり、と大気が揺れる。
 人々が敬う精霊すら、俺は利用してやる。

「サシャ……」

 愛しい者の名を囁いてから、俺は渾身の力をこめて鎖を引きちぎり始めた。


   ◆


 信じられない! アランが、ボクの唇を噛み千切るなんて。

 砦の別室にいる老婆の元へ行く。
 カサルの町の最下層で、違法な魔法実験を繰り返していた希代きだいの魔術師だ。 ボクがカサルの町を出る時に連れ出した。

 魔法を使いすぎて、人の姿をしてはいるけど魔物のような性質を帯び始めている。すでに百数十年を生きているのだという。ボクの美貌を保つための道具だ。
 足が悪く自分からは動けないが、利用価値がある間は面倒を見てあげないと。

「唇に噛みつかれた! 今すぐ治して!」
「マロシュか。ほっ、これは酷い」

 ボクの顔を見て老婆が笑う。
 つべこべ言うなと叱りつけて、僕は老婆から治癒の術を受けた。強力な魔法は傷口を跡形もなく治してしまう。便利な術だというのに、この魔法は禁じられている。
 あまり急激に強力な魔法をかけられると、その反動が出る。体の中に魔素がたまり、魔物化していくという。
 けど僕は、それを魅力チャームに変換する術を身に着けた。

 これで誰も僕の状態には気づかない。
 体の中は魔物みたいでも、見かけが普通の……いや、カワイイ獣人ならいいじゃないか。

「ねぇ、早くアランの自我をどうにかしてよ。ちっとも言うことを聞かないんだ。あんなに反抗的だと扱いずらくて」
「自我を奪えは人形と変わらなくなるぞ。無反応の人形を相手にしても、つまらないじゃろう」
「そうだけどさ……」

 ボクは口を尖らせる。

「サシャが死んでしまえば、大人しくなるかな」

 あいつが生きているから、アランはついまでも僕になびかないのかもしれない。
 獣人はこれと決めた相手を生涯追い求める。ボクがアランをあきめきれないように。けどさすがに死んでしまえば、ボクに従うかもしれない。

「そうだよね。うん、そうしよう。サシャを殺してしまえばいいんだ。魔法で自我を奪うより、ずっとカンタンだ」

 別室ではズビシェクとその仲間たちが、次の計画を練っている。
 サシャが奴隷になるか処刑され、現王も倒れたなら、次の者――カエターンが王位につくことになる。そうなればボクらはこの国で、大きな顔をして動き回ることができる。
 もしカエターンがボクらを排除しようとすれば、今までの関係を暴露して失脚させればいい。もちろん他の王の血筋も皆殺しだ。

「そうなれば、次の王様はきっとボクだよね」

 ボクはこっそり古い砦を抜け出した。
 ガダル砦から王都までは百ルイの距離。馬を使っても二日はかかる。行動するなら早い方がいい。

「サシャ、待っていて。今度は確実に息の根を止めてあげる」

 明け方の空を見上げて、ボクは馬を走らせ始めた。


   ◆


 一睡も眠れないまま、夜明けを迎えた。

 北の塔の最上階で、たった一人、手の届かない場所にある窓を見上げる。
 アランは無事だろうか。
 そしてアーシュは。お祖父じいさまは……。
 こんな場所で、鎖に繋がれたまま心配していても仕方がないのは分かっている。今はただ、精霊たちに祈るばかりだ。

「お願い……アランを守って。アランを助けて……」

 呪文のように繰り返す。
 その時、石の階段を上って来る足音と気配に顔を上げた。

 先頭はカエターン・バルツァーレク。そして続くのは彼の私兵として働く、屈強な騎士たちだ。どの顔も見覚えが無い。皆、カエターンの側近、ということなのだろう。

「さて……一晩たって頭も冷えたかな。エルフの血を継ぐ者」
「カエターン」
「私の言葉に従うか、無駄な抵抗で苦しみを長引かせるか。お前の命も私が自由にできるのだということ、理解してもらおう」
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