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第六章 死を許さない呪い
252 可愛くて
しおりを挟む明け方までうとうとしていて、つい眠ってしまったみたいだ。
ふと、背中に温かな手のひらを感じて瞼を開けた。その目の前に、じっと僕を見つめているアランの顔。びっくりして、思わず目を見開いた。
「あ……アランッ」
「おはよ」
「目が覚めて……」
「少し前だ。可愛くて眺めてた」
嬉しそうに囁きながら、優しく微笑む。
明け方までは僕がアランを胸に抱いていたはずなのに、気が付けばアランの腕枕で眠っていたなんて。背中の手は僕を抱き寄せるアランのものだ。
「すげぇな……お前の寝顔をゆっくり見ることができるなんて、もっと……時間がかかるかと思っていたのに……」
「アラン……熱は?」
ひたいや首筋に僕は手を伸ばして確かめる。
まだ熱い。
けと、夕べみたいな高熱じゃない。微熱といった感じた。峠は越えたのかもしれない。
「気持ち悪くない? 苦しいところは無い? 喉渇いてる? 痛いところもない?」
体を起こして矢継ぎ早に尋ねる僕に、アランが笑う。
「大丈夫だ。こんなに心配させるなんて、番失格だな」
「そんなことない。僕のために無理にしてきたんだ。その反動なんだって聞いた。いっぱい休んで、早く元気になって――」
くい、と腕をひっぱられ、その勢いでアランの上に倒れた僕はそのまま唇を奪われる。
びっくりする僕に、アランはくすくす笑うばかりだ。
「ちゃんと大人しく休むからさ。ザカリー殿や王城の治癒師に魔法師まで、こぞって俺を回復させようとしてるんだろ。さすがにこの包囲網からは逃げられないって」
笑いながら、僕の姿を視線で舐め回す。
「それよりお前……ずいぶん色っぽいかっこうしてるよな。俺を誘ってるのか?」
覚えていないのかな。夢と現実がごっちゃになって、僕の胸の傷痕を舐めたってこと。
だとしたら……口にしない方がいい。アランが心に押し込めていた不安や恐怖がさせたことなのだから。夕べの出来事は僕の胸の中だけにしまっておこう。
「……そうだよ。我慢できなかったんだ」
「マジかよ……」
「少しでもアランの体温を感じたくて」
「嬉しいな。でもここから先は、ちゃんと婚姻の儀をしてからだな」
優しく僕の頭を撫でる。
首を傾げる僕にアランは苦笑した。
「あの出来事が起こる前のことだが……釘を刺されてるんだ。ザハリアーシュや王国騎士団の団長にさ。初夜はお前の戴冠式の後、婚姻の儀を済ませてからにしてくれと。これ以上王様に怒られるようなことはしたくない」
あの凶事があたせいですっかり頭から飛んでいたけれど、僕らは婚姻の許しを国王陛下のに求めていたんだ。
アランの凶行をお赦し下さって、ゆっくり休めと言って王城に入れてもらった。
これは……僕らの婚姻も許してくださっということなのだろうか。
「僕……ちゃんと、アランと婚姻できる?」
「俺が元気になったら陛下が今までのこと全部話してくれるんだろう? だったら今は全力で俺の回復が大優先だ。そして結婚はダメだって言われたら……まぁ、夜逃げするか?」
町にメシでも食いに行くか? とでもいうようなノリでアランは言う。
僕はくすりと笑い返して頷いた。
「うん。ここまで来て許してくれないなら、玉座も投げ出して逃げちゃう。精霊たちにも怒られるかもしれないけど、知らないよ」
頷く僕に、部屋に飾っていた花瓶の花に宿る精霊たちが笑っている。
たぶん……今言ったようなことにはならない。温かな胸で笑う僕に、アランは呟くように口にした。
「お前を守ってくれていた精霊たちを裏切るようなことはしたくない」
「うん……」
「けれど、お前を手放すのも嫌だ」
「僕も」
答えて見つめ合ってもう一度キスをする。
もう、アランと別れるなんて考えられない。ロビンを始めとした王の人たちだってこれだけ僕らのことを認めてくれているんだ。大丈夫……と、僕は心の中でもう一度呟く。
しっかりと僕を抱きしめたアランが、ふと思い出すように呟いた。
「……そう言えば、ザハリアーシュはあの後、どうなって――」
その時、ドアをノックする音が響いた。
僕らの声を聞きつけつて誰かが様子を見に来たのだろう。返事をすると静かにドアが開いて、従者のロビンと使用人たち、そしてはハヴェル殿が入って来た。
直ぐに僕らの様子を見て、皆がほっと胸を撫で下ろす。
ベッドサイドまで来たハヴェル殿は、安心したように声をかけてきた。
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