文学家志望と哲学的彼

Mr.恐山

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言うことを聞かない者に対する誘導的哲学

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 「最近ねぇ……弟が言うこと聞かなくって……」
「へぇ、啓介くん反抗期?」
「かもねぇ…なんだか危険な事に憧れてるみたいで……横断歩道も赤信号で渡ろうとするの……」
「それはいただけないな。」
「赤場くん!?」
この妙に馴れ馴れしい態度はどうしたのだろう?
昨日までとはまるで別人。
あんなにクールな赤場くんが意気揚々と話しかけてきた。
これは仲良くなるチャンス、そう感じた。
 「今の話聞いてたの?」
「頭から爪先まで、な。」
「それでどうすればいいと思う?」
素直に出た言葉だった。
このまま、時が過ぎればきっと啓介は事故に遭ってしまう。
もしくは世の中の常識やしがらみを一切考えずに非行に走るかもしれない。
それだけは避けなければ、姉としての責任感が混じり合った真実の言葉だった。
 「そうだ、こういう時こそ哲学的に解釈するんだ。危険な事のベクトルを変えてやること、それが重要なんだ。なぜなら君の弟は危険な事をしたいという前提条件があるからだ。無理に言って聞かせようとしても効果は無いだろう。それは自分の意思に反する事をしろと命令されているからだ。そこを逆手に取り良い方向へと誘導してやる。それが我々、先を行く者の宿命だと思うのだが……これいかに?」
「……うん。」
「よし、今日の放課後に真坂家に行こう。そこで教えてやろうじゃないか。素晴らしい、逆転の発想、 考えの極みをな。」
「……」
えっ!?私の家に来るの!?
 そして、放課後。私が帰ろうとすると即座に赤場くんが近づいてきた。一緒に行かなくてはダメじゃ無いか。と言われた。
これはどうやら本気でついてくるようだ。初めて男の人を家に招くけど何というタイミング。
部屋がとても汚いのだ。とても見せれた物では無かった……
しかし、そうこうしている間に家に着いてしまう。
ああ、これからどんな公開処刑が始まるのだろう……絶望で胸がパンクしかけたその時、玄関のドアが開いた。
 「あれ?ねーちゃん、その人誰?」
「ほほう、どうやら君が啓介か……最近危ないことにのめり込んでいるらしいな?」
「えっ、お兄さん誰?」
「みなまで言うな。教えてやろうじゃ無いか。真の[危険]とは何かをな……」
「は、はあ……」
「まず啓介よ。」
あっ……呼び捨てなんだ……クール……
「[危険]って何だと思う?」
「え?[危険]ですか……?危ないっていうか何て言えば良いのか……自分の身に何かが起こることですか?」
「まあそういうことだな。実際には自分に関わる何かが対象となる。そして啓介よ。最近のお前は信号無視をするそうじゃ無いか?」
「まあ……危険でしょ?信号無視って……多分ですけど日常における危険度のランクを跳ねあがらせることができると思うんですよ……」
「甘いな、啓介。」
二人とも……何でこんなにガチで話してるんだろう……
「いいか、世の中ってのは量より質だ。仮に啓介の言う危険度を上げる行動を実行し、そして事故に遭ってもある特別な状況における事故の方がよっぽど質が高く、真の意味での危険度が最高の域にまで達する方法があるんだよ。」
「何ですか……その方法って……」
「それは[安全]だよ。」
「……は?」
啓介の気持ちも思わず口にした言葉もわかる。
マジでは?だった。
「いいか、安全こそが最も危険度を上げる方法なんだよ。」
「意味がわからないです……」
「つまりは危険な状況に身を置いて危険に出くわしてもそれはあり得ることで、確実安全ほぼ100%大丈夫な状況で危険な目にあう事はほぼ100%ありえないことだろう?その状態での事故は最高潮に危険な事だろう?」
「確かに……その定義上で起こったならばそれは最高に危険行為になる……いや、存在自体が危険そのものになる……これは……革命だ!」
「そうだ、だからそんなちょこちょこ危険を稼ぐのではなく、もっと大胆に質にこだわった危険な男になるといい。これは断定はできないが他の危険行為よりも上の位置にある試みのはずだ。励めよ。」
「はい!ありがとうございます名も知らないお兄さん!」
「ああ、さらばだ。」
「はい!」
こうして啓介は駆けていった。
あの美しい夕日に向かって……
「啓介~!もう直ぐ夕飯だから帰ってきなさいよ~!」

 後日、赤場くんに啓介の様子はどうかと聞かれた。
普通に元のいい子に戻ったよ。ありがとう赤場くん。
赤場くんもびっくりしていたようだ。
まさか子供と思ってたら年齢が一つ下の男の子だった事。
さらに言えば学校まで同じだった事。
そうです、啓介は私の一つ下の弟で同じ学校にいます!
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