魔界小噺(仮)

ありす

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団欒の夜

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 「ふぁ…」とミセス・ライトストーンはとても優雅に、そして大きな欠伸をした。

「まぁ、もうこんな時間…うとうとしちゃったわ」 

「珍しく夜更かししちゃったね」

   テーブルを挟んだ正面で紅色の髪の青年、息子ヴィオラが優しく微笑む。テーブルの上にはたくさんの大皿とワイン瓶。それらは大半が空っぽで、彼らの過ごした楽しい団欒を物語っていた。
 「今日は…」
言いながらヴィオラが視線を移す。その先には食卓に突っ伏して眠っている青年。長い髪が隠しているものの、そこから覗く顔立ちは凛として整っている。

「リズが来てくれたからね」

  リズと呼ばれた青年、リゼットの前には、まだ少し残った杯が置いてある。中身は甘めのワインだ。夫人はもうひとりの『息子』の微笑ましい姿に目を細めた。
 
「リズったら少ししか飲んでないのに」

「リズはお酒弱いからね」

「分かってるのに飲ませるなんて、悪いお兄さんね」

   夫人は、ふふっ…と笑いながら、透けるようなふわふわのプラチナブロンドを揺らして立ち上がる。

「もう遅いし、リズには泊まって行ってもらいましょう。私のベッドを使うといいわ」

「そうしたら、母さんはどこで寝るの?」

「ソファで寝るから大丈夫よ」

「そんなダメだよ!レディをそんな所で寝かせられないな」

「じゃあ、リズをソファーに?」

「僕と一緒に寝るから大丈夫だよ」

「まぁ!窮屈ではなくて?もうふたりとも大きいのに…」

夫人は驚いた顔でヴィオラを見たが、息子はどうってこともないように返事を返す。

「大丈夫だよ、昔からそうしてたもの」

その言葉に夫人は、彼ら『兄弟』の小さかった頃を思い出しクスクスと笑った。

「貴方たちは本当に仲がいいのね」

「まぁね」ヴィオラも嬉しそうに微笑んだ。

「じゃあ、お言葉に甘えて私は自分のベッドで寝るわ。ベッドから落ちないでね」

「気をつけます」

婦人は寝支度を整えに行った。

 
「さて…と」

   婦人が自室に入ったのを確かめて、ヴィオラはゆっくりと立ち上がった。眠っているリゼットの椅子を引き、身体の下に手を入れ抱き上げる。ちょうどお姫様抱っこの形だ。細身なヴィオラだが、自分と同じくらいの身長のリゼットを抱き抱えてもふらつくことはなかった。

 「リズ…眠っているの?」

   耳許で囁く。返事はない。ときおり聞こえる寝息と静寂が、たいして広くない部屋をつつみ込む。眠る青年の顔を見つめて、ヴィオラはそっとキスを落とした。

「かわいい…」

   起こさないように、落とさないように、細心の注意を払いながら自室のドアを開ける。ベッドと書き物用のテーブルセット、小さなクローゼットだけの簡素な部屋。そのベッドにリゼットを横たえると、ヴィオラは上着を脱いだ。
   リゼットに背を向け、クローゼットに上着を仕舞いながら独り言のように呟く。

「ねぇ、リズ。本当は起きてるんじゃない?」

ベッドの上の青年は気持ちよさそうに寝息を立てている。ヴィオラはひとつため息をつくと、背を向けたまま、ギシッと音を立ててベッドの端に腰掛けた。

「強めのお酒を混ぜたんだ。良くないよね?でも…君に拒絶されたらと思うと…とても怖いんだ」   

    大丈夫、嫌ならとっくの昔に逃げ出してる。  

 「君がすべて分かって寝たフリをしているのならいいのに」

   ヴィオラはくるっと身体の向きを変えると、リゼットの上に覆い被さるようになった。二人分の体重を支えるベッドが軋む。眠っているのを確かめるように、ヴィオラはリゼットの頬をそっと撫でる。 

「リズ、今はそのまま眠っていてね」

 ああ、寝たフリは得意なんだ。 僕だって、こんなことされちゃ次の日、貴方をどんな顔で見ればいいか分からない。

「いつか、きちんと伝えるから」

そうだ、いつも順番が逆なんだ。

 「好きだよ、リズ。愛してる」

ヴィオラは眠るリゼットに口付けると、慣れた手つきでそのシャツのボタンを外し始めた。

   


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