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第一章 「花の入れ墨」と「開花」
第十三話
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「アスピレーションの歓迎は随分手荒じゃないか。おい少年、そんな集団に所属するつもりか?」
後方、聞こえた低い声。正面に立つ女性は俺の先を見て、驚愕したように目を見開いた。
「あんた、フォーチュンの……」
「全く、周囲に音が駄々洩れだ。アスピレーションの連中は人除けすらできないのか」
振り返ればそこには白髪の四十代に見える男性の影。
茶色のコートを着込んでいるものの、紳士服を着ていてもおかしくない容姿だ。
そのような紳士さを感じさせられる。オールバックの髪型、ゆったりとした動きには絶対的な自信が見え隠れしていた。
「那附だ。よろしく頼む」
こちらの視線に気がつけば、男性は微笑んだ。同時に見えた男性の『花』。頬まで来ているその花はラベンダーのような様相をしている。
その花の名前まではわからない、けれどもう開花している。決して蕾ではない。
「今回は前のようにはいかない」
「前の? ああ、君は前にあったことがあるな。『イノコヅチ』の入れ墨を持つ人間だったか。私の持つ『イカリソウ』と名称は少し似ていたから覚えがある。そしてこの少年が『紫苑』か」
「近づかないで。これ以上近づいたら、分かるでしょ」
「頷けない。それでもこの少年がこちらに来るまでは動かないでおこう。危険にさらすわけにはいかない」
「そうはいかないわ。あんた、こっちに来なければどうなるか分かっているでしょうね?」
睨みを利かせてくる。しかしどちらにつくべきかはわかっていた。
これ以上、アスピレーション側にいってはいけないことは。
ふらつく足で何とか立ち上がれば、男性側へとゆらゆらと向かって行く。那附はそれを見て「それでいい」と微笑み頷く。
しかしそれをただで見送る人間ではなかった。
「分からず屋ね。後悔すればいいわ」
女性の周囲、一つ一つ浮かんでいく光球。
先ほどとは打って変わって、その光球の形成速度は早い。三秒と経たず八個の光球ができたかと思えば、順々に放たれていく光線。
先ほどとは訳が違う。一本一本クールタイムもなく放たれ、その精度はずっと良い。
否、精度が良くなったわけではない、多少的から外れても問題ない巨大さになっているのだ。
死さえ覚悟をした、こんな光線直撃したのなら落命に間違いがない。
しかしその光線はこちらまで届くことがない。
俺の数メートル手前、その光線は途絶えている。その空間を切り取ったかのように、その光線は断絶しているのだ。
「振り返らなくていい。私の数メートル後ろにくれば安全だ」
信じて黙って頷く。真っすぐ、向かう先は那附の背の方だ。
一歩一歩着実に進む。やたらと重い足を動かし、暑さと寒さで狂いそうな感覚の中で前だけを見る。
そうして那附のもとへと辿り着いたころ、女性から聞こえてきたうんざりしたような声。
「消滅は相変わらずね。狡い能力だわ」
後方、聞こえた低い声。正面に立つ女性は俺の先を見て、驚愕したように目を見開いた。
「あんた、フォーチュンの……」
「全く、周囲に音が駄々洩れだ。アスピレーションの連中は人除けすらできないのか」
振り返ればそこには白髪の四十代に見える男性の影。
茶色のコートを着込んでいるものの、紳士服を着ていてもおかしくない容姿だ。
そのような紳士さを感じさせられる。オールバックの髪型、ゆったりとした動きには絶対的な自信が見え隠れしていた。
「那附だ。よろしく頼む」
こちらの視線に気がつけば、男性は微笑んだ。同時に見えた男性の『花』。頬まで来ているその花はラベンダーのような様相をしている。
その花の名前まではわからない、けれどもう開花している。決して蕾ではない。
「今回は前のようにはいかない」
「前の? ああ、君は前にあったことがあるな。『イノコヅチ』の入れ墨を持つ人間だったか。私の持つ『イカリソウ』と名称は少し似ていたから覚えがある。そしてこの少年が『紫苑』か」
「近づかないで。これ以上近づいたら、分かるでしょ」
「頷けない。それでもこの少年がこちらに来るまでは動かないでおこう。危険にさらすわけにはいかない」
「そうはいかないわ。あんた、こっちに来なければどうなるか分かっているでしょうね?」
睨みを利かせてくる。しかしどちらにつくべきかはわかっていた。
これ以上、アスピレーション側にいってはいけないことは。
ふらつく足で何とか立ち上がれば、男性側へとゆらゆらと向かって行く。那附はそれを見て「それでいい」と微笑み頷く。
しかしそれをただで見送る人間ではなかった。
「分からず屋ね。後悔すればいいわ」
女性の周囲、一つ一つ浮かんでいく光球。
先ほどとは打って変わって、その光球の形成速度は早い。三秒と経たず八個の光球ができたかと思えば、順々に放たれていく光線。
先ほどとは訳が違う。一本一本クールタイムもなく放たれ、その精度はずっと良い。
否、精度が良くなったわけではない、多少的から外れても問題ない巨大さになっているのだ。
死さえ覚悟をした、こんな光線直撃したのなら落命に間違いがない。
しかしその光線はこちらまで届くことがない。
俺の数メートル手前、その光線は途絶えている。その空間を切り取ったかのように、その光線は断絶しているのだ。
「振り返らなくていい。私の数メートル後ろにくれば安全だ」
信じて黙って頷く。真っすぐ、向かう先は那附の背の方だ。
一歩一歩着実に進む。やたらと重い足を動かし、暑さと寒さで狂いそうな感覚の中で前だけを見る。
そうして那附のもとへと辿り着いたころ、女性から聞こえてきたうんざりしたような声。
「消滅は相変わらずね。狡い能力だわ」
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