枯れない花

南都

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第一章 「花の入れ墨」と「開花」

第十五話

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「じり貧だ。私の能力の範囲内には近づくに近づけないのが現状だろう。対してこちらはこんな芸当も出来る」

 腕を横に振るう。しかし一見して何も起こりはしていない。

 ところが数秒経過すれば、女性は突如として腕を抑えて見せた。
 その抑えた手の指の隙間からは血が零れて落ちている。

「……何をした? いや、わかるわ。消滅による遠距離射撃ね。真似事を、攻撃が見えない分あんたの方が厄介だわ」

「場数が違う。開花したての人間には負けやしない」

 余裕のある笑みを浮かべる那附。女性はそれに対し、やるせなそうに空を見た。
 はぁと息を吐き捨て、一理あるとでもいうように「そうね」と口にする。

「確かに、こういうのは場数が大事ね」

 一瞬流れる不自然な間。流れたのは夜の栖寂。星や月が見下ろす住宅地の路地、よくある道だ。
 その一般的な光景こそ、地に不自然に空いた空洞の異常さを際立たせている。

 空気は乾き、寒さは時間を重ねるごとに厳しくなっている。丑三つ時にも近くなっているのだろう。

 その間を切り裂いたのは女性だった。キッとこちらを睨みつけ、鋭い口調でこういった。

「けどね、開花したてだからこそバレないことっていうのもあるのよ。情報は大きなアドバンテージ、それに気が付くべきだったわね」

 再び女性の周囲に次々と浮かんでいく光球。それは光線と代わりこちらに向かってくる。

 もう幾度と見た芸当だ。那附もそれへの対応は容易く行っている。
 光で視界こそ遮られるものの、手前で消滅させている以上は光線がここまで届くことはない。

「こうしていても埒が明かないな。悪いがこちらも手を出すぞ」

 那附かそう告げ、右手のひらを正面に向けたその時だった。

 地から貫通して走る一筋の光。地を削り、空へと向かう光線が那附をとらえた。

 那附から二メートルと離れていない地面から、光線が湧き上がってきたのだ。
 正面方向の光線を見ていれば自ずと視界は狭くなる。暗闇になれた目で長く光を見るだけでも、目がおかしくなりそうだった。ましてや地面から出る光線になど、気が付くはずもない。

突然の奇襲に左半身を引く那附。しかしその光線をよけるすべなどない。
 那附の左腕を掠め、その光は上空へと走っていく。真っすぐに、減衰などすることもなく。

 咄嗟に抑えた左腕、見るも無残な有様だ。無理やりに削り取られたコート、掠めた範囲に対してその焼け方は甚だしい。
 左腕の一部は喪失し、離れていた左頬まで皮膚がただれている。直撃せずともこれなのだ、容易く落命しかねない。

 容赦などない、これは命の奪い合いだ。

 異常性を実感する。これまでは加減があったのだ、あくまでも「組織に入れる」という意思が。
 先ほどもそうだ、那附は女性を殺めようと思えば殺められたはず。それでもあえて致命傷を避ける攻撃をしていた。しかし……今はもうその加減などない。


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