枯れない花

南都

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第三章 「好転」と「安らぎ」

第五話

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「運命、ですか」

 俺がそれを否定的に捉える反面、モノクロームは肯定的にその言葉を捉えているようだ。

 『運命を肯定的に捉える』から『運命が味方をする』のか、『運命が味方をする』から『運命を肯定する』のか。
 卵が先か鶏が先か。俺も運命が味方をしたのならば、その類のものを肯定していたかもしれない。

「ありますよ、きっと。面白い話をすれば、アスピレーションの主の能力は、運命操作に近しい。彼は知らずの内に『世界を書き換えている』。おそらく……彼が能力の起源。彼がそう望むから、能力者は増え続ける」

――だからこそ、鼓を主人公と例えるのは妥当です。

 モノクロームは鋭くそう言い放った。冷酷ささえ感じる断固とした口調で。

「言い得て妙な話です。彼はおそらく彼の力によって『主人公』の役割が与えられた。そしてあなたは不条理な不幸を背負う被害者となった」

 突飛で超越的な能力だ、これまで見てきた能力とは系統が違う。
 容易く世界を滅ぼしうる能力。ある意味では、リーダーとしてはふさわしい能力なのかもしれない。

「ならばアスピレーションのリーダーの能力を消せば、能力は消えるのですか?」

「……歯向かってはいけませんよ。鼓以上に偶然に愛されている。運命を書き換える、というのはそういうことです」

 何でもあり、ということだろう。彼が望むならば隕石の一つでも降ってきそうだ。
 いや、場合によってはそもそも存在が消えるか? 生半可な覚悟で立ち向かってはいけない相手、これまでの敵とは違う。

「言ってしまえば、この世界は彼が掌握している。しかしそんな彼も『神様』ではない。神様というのは、そんな彼に運命操作を与えた存在です。私は仕組まれた運命であなたと関わることも多かった。しかし確かに、本当の運命によってあなたを意識することも多かったのです。神様は案外、あなたには私と共に歩む道を望んでいるのかもしれませんね」

 ああ、そんな運命ならば、俺も肯定できるかもしれない。

 しかし同時に思うことがあった。

 神様はこの能力者たちの抗争にどんな結末を用意している? 運命を操作できる存在がいるアスピレーションと、それによって主人公が与えられたフォーチュン。その対立の行き先をどう思い描いている?

 そしてどちらにも属さない俺たちは……どういう結末に至るというのだ?

「余談ですが、アスピレーションのリーダーが、自分に都合の悪いフォーチュンという能力者集団が未だ現存しているあたり、彼は心の底には正義が残っているのかもしれませんね。それどころか、自分を打ち負かす『主人公』を求めているのかもしれない」

 自身を倒す主人公を求めているかはわからない。しかし、あまりに都合が良すぎて、その分の報いがあるのではないかと想像する気持ちはよくわかる。
 不幸慣れしていると、幸福を極端におそれてしまう。運命操作の能力者も、案外物事が順調すぎて、報いがあるのではないかと思っているのかもしれない。

その結果、生み出されたのが鼓という存在なのかもしれない。

「それでも、私はあなたを主人公にして見せる。運命操作で与えられた主人公でなく、本当の主人公に。それを……あなたが望むのだから」

 モノクロームが真っすぐに俺を見る。その瞳に曇りはない。

 本当にこの人は優しい人だ。
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