枯れない花

南都

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第三章 「好転」と「安らぎ」

第六話

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「確かに、作られた主人公でない、本当の主人公になる余地はあるかもしれない」

「そうでしょう? 強制開花は未来視よりも運命操作には抗えそうじゃないですか。開花させれば、能力を消滅させられる。案外、神様だってあなたが主人公になることを――――」

 そこで言い淀む。そして彼女は続けてこう告げるのだ。

「いや、私たちは鼓の能力の本質を誤解していたのかもしれない」

 モノクロームが足を止める。家まですぐ目の前だというのに、彼女はピタと体をとめ、そして顎に指を添える。眉をひそめ、目は据わっている。

 未来視の意味、この能力には俺の気づかない何かが隠されているというのか? 

「……そうか、だから鼓は未来視の能力を得たのですね」

 一人で納得するモノクロームに俺は戸惑うばかりだ。

「モノクローム?」

「あっ、いえ。何でもありません」

「その否定ではむしろ気になりますよ」

 眉を顰める。それでもモノクロームは「何でもありません」の一点張りだ。
 雑念を捨てるように首を横に振るい、気を落ち着ければ息をつく。白い息、空へと消えていく。風に吹かれ、夜空へとかき消されていく。

「何でもないです。ただ……どこまでも世界とあなたは相いれない。それでもシオン、一矢報いましょう。私達だって『生きている』のだと」

 セーターの上、胸元に当てられたかじかんだ両手。訴えかけているかのようにモノクロームは俺を見上げる。今にも揺れ動きそうな瞳は何とか栖止している。受け止めたくない現実を、必死に見ているかのようだ。

 切実に聞こえた、その声色は。

 きっと結末を……モノクロームは思い描いた。そしてその結末は、おそらく素晴らしいものではなかったのだろう。

 それでも、俺が死にゆく結末だとしても。

「そうですねモノクローム。俺はモノクロームと一緒なら、どんな結末でも向かい入れます」

……本当は、死にたいだけなのかもしれない。

 手を差し出す。そうすればモノクロームは目を伏せ頷く。そうして自身の手を差し伸べ、その手を取った。重なった手のひら、握りしめれば柔らかなぬくもりを感じる。

 モノクロームの手は自分の手よりもずっと暖かい。手に伝わるのは壊れてしまいそうなか細さとしなやかさ、強く握れば壊れてしまいそうだ。
 俺は……この女性の盾ぐらいにはなれるだろうか。

「ええ、私もです」

 微笑む。見飽きない笑顔だ。
 彼女が握っていた手のひらを下ろせば、愛おしそうに腹部で指同士合わせる。そんなちょっとした仕草さえ魅力的に見えた。
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