枯れない花

南都

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第四章 「戦闘」と「曼殊沙華」

第八話

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 しかしその瞼が降ろされることはない。
 聞き逃せないような情報が、この小型のテレビから車内へともたらされた。

「臨時ニュースです。フォーチュンと呼ばれる団体に所属する一人の男が、急遽団体の意思の表明を行いました」

 満ち溢れた緊張感。

 息をのんだ、運転もおざなりになりそうだ。
 最悪の情報ではないか、そもそもフォーチュンという能力者集団があることが、これで世界に知らしめられたのだ。ひそひそと過ごしていた能力者などお構いなしだ、これで世間に能力者の概念が行き届いてしまう。

 暗に揶揄されていた状況とは訳が違う。

 推測から確信に変わる。これまでの事件が能力者によって引き起こされていたという確信に。

 モノクロームも目を見開いている。彼女の眠気など彼方へ消え去っていた。
 彼女の頬から零れ落ちる冷や汗、それは喉元へと流れていく。

 そんな俺たちなどお構いなしだ。画面が切り替わり、写されたやせ型の日本人男性。百九十センチもありそうな高身長、つかみどころのなさそうな男だ。そんな黒いコートを着た彼はこういうのだ。

「これから二週間後、私たちはアスピレーションと大規模な抗争を行います。フォーチュン、この言葉に心当たりがある人に協力を要請します。場所は……俺を見ればわかるはず。この固有種のある地区、その首都で会いましょう」

 一瞬指さした首元、そこには確かに『花の入れ墨』がある。

 そして彼は姿をくらます。アナログテレビをシャットダウンしたようだ、ぷつんと光が中心に集まる。そうして彼はいなくなる。
 通常あり得ない現象、俺たちは能力を保有しているのだと世間に知らしめている。

 瞬間移動、透明化、幻影、はたまた分身。能力の正体はわからない。どの能力かは判別などつかない。

 分かることは……彼が能力者であるという事実だけだ。

「なんて……無謀なことを。しかしこんなことをして、場所が分からなくては意味がない。もちろんどこで行うかを伝えるわけにはいかないのでしょうが……」

 確かに場所は濁されていた。俺を見ればわかる、と。

 しかしあの男を見て能力者だけが分かる情報など限られている。そう例えば……。

「花です、おそらく花の入れ墨で伝えている」

「……そうですね。確かにその線が濃厚です。タンジーでした、あの花は。ヨモギギク。固有種といえば、北海道でしょうか。そして首都というのはわかりにくいですが、県庁所在地のことを濁しているのかもしれません」

「人が山ほどいる、そこで戦うと?」

 これまでの小規模な抗争とは話が別だ。開花した人間が多数争い合うなど、町への甚大な被害は予測がつく。

 これまで見てきた光線や消滅といった攻撃的な能力、それに浮遊や瞬間移動といった移動的な能力、加えて分身や未来視、思考共有といった戦術的な能力。それらが一つの都市で交戦する。

 災害と変わりがない。何人の犠牲者を出すつもりなのだ、彼らは。
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