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第五章 「結末」
第一話
しおりを挟む――宣言された日が来た。
いつにもまして寒い日だった。
肌を刺すような冷気で目を覚まし、気温を見れば氷点下。昨日の寝つきの悪さも相まって体はふらつきを覚えた。抗争の地、天気予報が告げるは雨。
宿泊拠点の付近には雪が降っている。開戦の時は夜だ。
追加の情報が入っていた。しかしどうにも寝付けない、だからと俺は居間へと出る。そこで待ち受けるのは、もはや日常の一部となった女性だった。
席に着く。そうして俺は流れゆく景色を眺めた。移りゆく景色、その様をモノクロームと共に。
そうしてただただ、俺たちはその時が来るのを待ち続ける。
「俺の戦いというのは、どうにも夜に愛されていますね」
きょとんとしたモノクローム。もう見慣れたものだ、その表情も。
小さく笑い、フロントガラスから前を見る。運転席、ハンドルを握る手には震動が伝わっていた。
こまごまとした揺れ、手の感覚が鈍くなっていくのを感じる。取り忘れた手袋は暖まった車内には暑いくらいで、手のひらには汗ばんだ感覚。
雪の中の運転には慣れていない。ホワイトアウトするほどではないが、向かってくる雪に視界が狭まる。
若干の不安感があるが慣れた道だ、スリップなどに気をつければ危ない道ではない。
「なんですか突然。他意はありませんよね?」
モノクロームが自身の身体を見下ろし、もの言いたげな半目でこちらを見る。両手を両鎖骨に交差させずに真っすぐ触れさせ、むぅと表情だけでこちらに主張している。
着込んだ少し大きい白いセーター、モノクロームが俺を助けに来た時の服だ。
首元まわりが大きめに開けたセーター。モノクロームは袖から手を出しているが、その手を覆うことができるほどに袖は長い。
スカートはタータンチェックのハイウエストスカート。黒を基調に置いたスカート、その丈は短い。裾からしなやかに伸びる脚、その脚は透け感のある薄手の黒いストッキングに覆われている。
「心外です、ないですよ」
きっぱりそう言い放つ。するといたずらに笑い、「あってもいいんですよ」と意地の悪い返し。同時に腰を持ち上げたかと思えば、手をさっと動かしスカートを整える。
揺れるスカート、それを見て、「短いスカートは浮遊するのに不便でないか」と投げかけた過去を思い出す。
答えは「これで動揺してくれれば儲けものです」とのことだ。それどころか「嫉妬してくださっています?」とカウンターを受ける始末。
「多少はしていますよ」と返せば、次にはスカートを抑え「今さら短いスカート如きで嫉妬しないでくださいよ」と照れくさそうに笑うのだ。
この人は本当に人をからかうのが上手い。こちらの身にもなって欲しいものだ。不快にさせないからかい、これもモノクロームらしさなのかもしれない。
そんな過去を振り返っている間にも、モノクロームは不思議そうにこちらを見ている。
そんな純粋にどうにも俺はバツが悪くなり、気を取り直すように一度目を伏せた。そして言い訳がましく左後頭部を掻けば、「話を続けます」と告げ、愛らしく首を傾げたモノクロームを見る。
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