枯れない花

第五章 「結末」

第十四話

　どうやら律義に待っていてくれたようだ。鼓に感謝をするのはこれが初めてになるだろう。

「俺とお前は、どう足搔いても敵対する運命だったのかもしれないなッ！」

　鼓が叫ぶ、そして構えたのは異様に刃が広い剣。体を覆い隠しさえできる剣、それを目にするのは二度目だ。もう驚くことはない。

　不本意ながら同感だった。
　俺とお前は互いに相いれない、お前は俺に敵対し、そうしてなんとしてでも剣を振るう。俺は……お前にとってそこまで都合が悪い存在なのか？　本当に、嫌になる。

　両手に機械を纏わせていく。いつか店長が行っていたものの真似事だった。体を覆い隠せるほどの巨大な機械腕、鋭利な爪と複数の銃口がついた機械腕だ。これならば、鼓の剣にでもある程度は対応できるだろう。

　こちらへと駆けてくる鼓、彼に楔状の障壁を放つ。連続して放つ不規則な障壁、回避は容易ではない。
しかし鼓は容易くその楔を躱す。剣を高跳び棒に使い、空へと跳ぶことで回避する。

　それでもその回避方法は不用意だった。無防備になった身体、追撃を加えるには絶好の機会だ。空中で動くことなど出来ないはずだ。
　思い、放ったのは楔状の障壁。空に投げ出されたその体、四肢を狙うように楔を向ける。

　しかし鼓はそれさえも無傷で回避して見せる。楔の側面に剣を振り下ろし、あたかも楔を踏み台のように伝ってくるのだ。

　未来視というのは本当に卑怯臭い能力だ。今となっては使用後の休息期間もない、その証として鼓の目が常に青く光っていた。

　空から舞い降りる勢いに乗り、鼓は剣を振り上げる。いつでもその剣を振り下ろせるようにと。それに合わせて正面に厚い障壁を発生させれば、鼓はそれを知っていたかのように地に降り立つ。
　剣を振るわずに真っすぐ着地し、そして屈んだ状態から勢いに任せて剣を振るう。下方部、右わきから左方向へと、巨大な剣を加減なしに。

　殺意にあふれているな、この男は。

　左手、機械腕を走らせその剣を弾く。伝わってきたのは重い震動、中にある肉体にもその痺れるような衝撃が伝わってきた。火花が散り、響き渡った金属音。
　『機械生成』さながら、鼓の剣も人智を凌駕した物質でできているらしい。

　軽く体勢が崩れる。しかし同様に鼓も態勢を崩している。この機会を逃すわけにはいかない。

　右機械腕を振り下ろす。それは後方に下がることで避けられる。

　しかしその動きは予想できる範疇だった。自分の狙いは、続けて放つ右腕の機関銃による発砲にある。この機械腕には仕込み銃が多く搭載されている、それが一発でも当たればいい。

　放たれる銃弾。こんな不意打ち、通常ならばよけようがない。
　それでも、鼓はその銃撃を回避する。最低限の動きで銃弾を弾き、弧を描くように俺の周囲を駆けていく、その巨大な剣を携えながら。

　とはいえ、幾つかの銃弾は確かに鼓を捉えている。足や腕を掠めていた。
　だというのに、その傷は瞬時に治癒されている。治癒の能力者、彼女も開花していた。その力で鼓は不死身のような再生力を持っているようだ。
　麻酔も効いていない、解毒まで兼ねている。

　本当に、この男は仲間に恵まれている。モノクロームがいる自分を棚に上げるわけではないが、ここまでの人間は見たことがない。