空の果てへのガッカリと期待

神永 遙麦

文字の大きさ
1 / 1

空の果てへのガッカリと期待

しおりを挟む
 雲が動いて見えるのは、地球が回っているからだと思っていた。

 だから、ベランダから空を見るのが好きだった。
 動き続ける雲を見ては、回り続ける地球に思いを馳せた。地球の未知の地に行ってみたい、と憧れた。人類未踏の星々を小さな脳裏に描き続けた。
 4歳から6歳までのとてつもなく長い、「永遠」と等しく思うほどに長い時間。燃え続ける星に、生きる地球ほしに僕は、夢を見ていた。

 でも、7歳の頃。父さんが言った。
「雲が動くのは、風が吹いてるからだよ」

 *

 3年生になる少し前。人はみんな優しいものだと思っていた。
 
 小さな村で育った僕は人を疑ったことがなかった。起きた事件と言えば、たまにお爺さんお婆さんの運転する車が田んぼに突っ込むくらい。みんな親切で面倒見のいい人たちだった。

 でも、3年生になるのを期に引っ越した。今度はまぁまぁ大きくて、冷ややかな町だった。
 子どもの笑い声が聞こえれば、匿名で苦情。僕と1年生の妹がいる家にも、たくさん苦情が来た。赤ちゃんが生まれれば、騒音対策で追い出される。1回、裁判沙汰になった。
 

 *
 中学2年の時、僕は思った。
 
 結局、期待と幻滅を繰り返しながら、人は成長していくんだな。
 誰かさんが、ダイヤモンドは紫だと想像していたように、冷ややかな光を放つダイヤモンドを見て、幻滅したように。
 ワクワクと、大きなガッカリを繰り返して、人は程よい期待と心の強さを身に着けていくのかもしれない。

 そう、失恋したばかりの僕は思った。
 
 
 *
 
 飛行機は、怖いものだと思っていた。
 
 あんな大きな鉄の塊を浮かせていることが怖い。飛行機の事故は少ないらしいけど、「今回も大丈夫」なんてありえやしない。バスと違って、事件・事故が起きたとしても、脱出が難しい。前聞いた話だと、飛行機の整備は0.何ミリの世界らしい。もし、ほんの小さな、誰も気付かないようなミスが起きたら?
 
 そんな風に、パイロットも整備士さんも信頼できないまま、僕は沖縄行きが決定した。
 カノジョが誕生日は沖縄に行きたいって……。すんげぇ怖いけど、蛙化現象よりはマシ。と、いうことで行く羽目に。せっかくの高2の夏休みが……。

 ボーディングブリッジをるんるんで渡っていく美玲を尻目に、僕は窓から空を見た。ひょっとしたら最後に見る地上の景色かもしれないから。
 飛行機が動き始めた。ブゴォォォってすごい音がする。ジェットコースターのそうな圧にやられながら、僕は心の中で十字を切った。
 ネットによるとパイロット様たちも、離陸の方が緊張するらしい。異常があっても一定の速度を超えると中止できない上に、燃料が満タンだから。

 飛行機がふわっと浮いた。ゴォォォという音が聞こえなくなった。さっきまでいた所がみるみると小さな島のようになっていく。
 気がつけば、僕は飛行機から雲を見下ろしていた。空の果ては、まだまだありそうだ。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ

海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。 あぁ、大丈夫よ。 だって彼私の部屋にいるもん。 部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

遺産は奪わせない

広川朔二
ライト文芸
十年にわたり母の介護を担ってきた幸司。だが母の死後、疎遠だった兄と姉は勝手に相続手続きを進め、さらには署名を偽造して幸司の遺産を奪おうとする。しかし、母が残していた公正証書遺言と介護記録が真実を明らかにする――。

処理中です...