はずれものの恋、ユーラシアのはぐれ島で

アイザッカ

文字の大きさ
15 / 89
現代から不思議の国へ:少女時代

結婚式の準備と緊急の知らせ

しおりを挟む
『赤毛のアン』の翻訳をしているうちにクリスマスも過ぎ、年も明け2月となった。ウェディングドレスの仮縫いが終わった。
 試着をしてみると仕立て屋さんが無言でウエストのあたりを摘んでいる。フリーダはあらあらと右手を頬に当てている。痩せちゃったの。

「エルサ様、結婚式までにウエストを3cmほど戻せますか?」

 フリーダの言葉に私はぶんぶんと首を振った。

 私は「なぜ勝手に細くなってしまうのかしら? たまに太ってしまう時もあるけれど」と首を傾げた。
 仕立て屋さんは「どうしましょう」と困っている。

 私のウエストのサイズがちょいちょい変わってしまうせいでドレスをピッタリに合わせられないから。今回仕立てるのは普段着じゃなくて一生に1度きりのウェディングドレス。
 フリーダは私の周りを一周してドレスの様子を確認した。ここで調整したところでどうせまたウエストのサイズは変わる。私はゆっくりと鏡に映る自分の姿を見た。
 
 このドレスのふんわりと広がった裾には繊細なレースが重なり合っている。裾は後ろに長く伸びていてトレーンには花や植物をモチーフにした青と金の刺繍がされていて、小さなダイヤモンドが散りばめられている。胴にもホワイトゴールドで同じ刺繍がされている。薄いレースのオフショルダーで肩が露になっているし、胸元はハートみたいな形。
 私は一生この国から出られないのかな?

 小さなため息が漏れそうになり押し殺した。フリーダは少し視線を落とし、また視線を上げ仕立て屋に向けた。

「トレーンの下にサテンか何か……光沢のある生地を仕込み、ドレープをしっかりと寄せたほうはいいかもしれません。それからウエストはリボンで締めますか。濃ゆい青がいいかしら」

 仕立て屋は石板にメモをした。

「そうですね。濃ゆい青っと……。素材はオーガンジーでよろしいでしょうか」
「そうね」

 すごい。フリーダ。いつも思うけどフリーダはデザイナーになれそう。

「エルサ様にご希望の点はございますか?」

 私は首を傾げた。分からない。鏡を見て、これでいいのかな、とは思う。けれどどうしたいのかは分からない。

「ありません」
 フリーダは「エルサ様……」と複雑そうな心配そうな視線を私に向けた。だがすぐに「いえ、何でもございません」と首を振った。

 どうしたんだろう?
 仕立て屋が帰ると私は本棚に近づいた。本を取ろうとすると、フリーダがそっと私の手を止めた。そして人払いをした。

「エルサ様。お悩みのことがございましたらお聞かせ願いませんか?」

 悩み? 小さなエリザベスがどうやってこの国を脱出したのかは気になるけど、悩みではない。私はくくいと首を傾げた。

「悩みなんてないわ。見ての通り私は楽しんでいるじゃないの。読書に翻訳におしゃべりに……」

 フリーダがなおも口を開こうとすると、激しいノック音が響いた。マカレナの声だ。

「お嬢様! お祖母様! 緊急の知らせがございます!」

 フリーダは「なんですか、騒がしい」とゆっくりドアを開けた。マカレナが小さな紙を手に部屋へ飛び込んできた。

「閣下が、ヨハネス様が暗殺の危機に遭いました!」
「なんですって!?」とフリーダはドアノブにしがみついた。

 閣下が?

「息はあるようですが、容態は重いそうです。あとは分かりません」

 マカレナは私に紙を渡した。電報のようだ。
 
 私は「知らせをありがとう、マカレナ」と電報を受け取った。

 国王陛下との宴会の場で刺客に遭ったらしい。太ももをやられたそうだ。太ももはヤバい、だって太い血管があるから。

「フリーダ。ロイス様は今すぐ本邸へ来て欲しいそうよ」

 私の言葉を聞き、マカレナは部屋を飛び出して行った。伝令だろうか?
 
 動揺してもいいはずなのに、心はつぅんと動かない。何かで蓋をされているように悲しみも怒りも沸かない。奥底で何かが蠢いているようで苦しい。微かに震える指先が胸元のペンダントに触れた。

 フリーダの顔が真っ青になっているが「いますぐ用意をいたします」とゆっくり頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...