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この手を伸ばす先:ティレアヌス
閑話 コナード6世
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ランドはエリザベス嬢を舐めるように見た。エリザベス嬢がエミリアに挨拶をした後、こちらに向きお辞儀をした。杖をついているのが気に掛かる。
「北風と民を治められる国王陛下に栄光と祝福を」
2年前が脳裏に蘇る澄んだ涼やかな声が室内に響く。削げたような声に聞こえたことが気にかかるが、恐らく気のせいだろう。
「頭を上げよ」
髪飾りが微かに揺れる音と共にエリザベス嬢は頭を上げた。私は息を呑んだ。
以前と比べると丸みが削げた顔。青みが減った瞳。顔の輪郭は一歩スヴェトラーナ后に近づいた。瞳の色は一歩スヴェトラーナ后から遠ざかった。くすんだピンクの薔薇色のドレスに黒褐色の帯を締めた彼女は大人びているように見える。スヴェトラーナ后は柔らかな色合いのドレスを好んではいなかったか?
「其方と会うのは2年前の新年の挨拶以来となる。息災であったか?」
「ええ……。陛下のご配慮により静かな日々を送っておりました」
エリザベス嬢の口角の上がり方はスヴェトラーナ后を彷彿とさせた。エミリアがこちらをチラリと見た。エミリアは困ったように微笑んだ。
「陛下、お話の途中ですが発言を許し願えますか?」
「どうした?」
「エリザベス様はお立ちになったままですと辛いのではないかと……」
エリザベス嬢の方を見ると、彼女はパッと体を強張らせた。辛いのか? 顔色に変化はないように見受けられる。だが女同士だから分かるものもあるだろう。
私は頷いた。エミリアはエリザベスに着席を勧めた。私も腰掛けた。
「ハイド伯爵は親切か?」
「ええ。とても良くしていただいております」
「アウリスにはいつごろ戻る予定となる?」
エリザベス嬢は首を傾げた。
「存じませぬ。体力が回復しないことには帰らぬよう言い渡されておりますので。故に早く回復出来るよう努めております」
「疾い回復を祈ろう」
どこかぎこちないエリザベス嬢の訪問の時間は過ぎ、彼女はいそいそと帰宅した。
夜の帳が降りた頃、私はベッドに腰掛けた。エミリアの寝台だ。なぜか? それはエミリアが屋敷の下賜を受けることを固辞したからだった。故に私がエミリアに会う時はエミリア個人が所有する屋敷まで足を運ぶこととなる。髪を梳かし終えたエミリアも寝台に腰掛けた。
「陛下、発言を許し願えますか?」
「許す」
「エリザベス様は夫ある身です。ですから彼女には……」
「黙れ」
エミリアは口を閉ざした。エミリアを睨んだが、彼女は平然と私を見ている。
「最初に彼女を見出したのは私だ。ハイド伯爵ではない」
エミリアは怪訝そうに眉間にシワを寄せた。
「エリザベス様はハイド家の出なのでは?」
違う。彼女はスヴェトラーナ后の、ヴィンス7世の……ひいてはデイヴィス王朝の末裔だ。「デイヴィス王朝最後の輝き」、そう称されたスヴェトラーナ后のただ1人の子孫。
私の隣にいる女を見やると、彼女は腕を枕にし私から背を向けていた。
「エミリア、悋気を起こしているのか?」
エミリアは体を起こし顔をこちらに向けた。
「私がなぜ悋気を起こすのですか?私は陛下に心を寄せたことなどありません」とエミリアは首を横に降った。
エミリアは美しい目元を持っている。そしてエリザベス嬢はエミリアなど及ばぬほどの素晴らしい美貌の持ち主だ。
私は窓を睨んだ。ここは海が美しい街だった。この街にエリザベス嬢を妻としているハイド伯爵が訪れる日は近い。私がこの地を離れる日も近い、3日後だ。エミリアの顔を見て、私は気づいた。彼女の目には、私の心を探るような不安が宿っている。しかし、私は答えを出さない。
「北風と民を治められる国王陛下に栄光と祝福を」
2年前が脳裏に蘇る澄んだ涼やかな声が室内に響く。削げたような声に聞こえたことが気にかかるが、恐らく気のせいだろう。
「頭を上げよ」
髪飾りが微かに揺れる音と共にエリザベス嬢は頭を上げた。私は息を呑んだ。
以前と比べると丸みが削げた顔。青みが減った瞳。顔の輪郭は一歩スヴェトラーナ后に近づいた。瞳の色は一歩スヴェトラーナ后から遠ざかった。くすんだピンクの薔薇色のドレスに黒褐色の帯を締めた彼女は大人びているように見える。スヴェトラーナ后は柔らかな色合いのドレスを好んではいなかったか?
「其方と会うのは2年前の新年の挨拶以来となる。息災であったか?」
「ええ……。陛下のご配慮により静かな日々を送っておりました」
エリザベス嬢の口角の上がり方はスヴェトラーナ后を彷彿とさせた。エミリアがこちらをチラリと見た。エミリアは困ったように微笑んだ。
「陛下、お話の途中ですが発言を許し願えますか?」
「どうした?」
「エリザベス様はお立ちになったままですと辛いのではないかと……」
エリザベス嬢の方を見ると、彼女はパッと体を強張らせた。辛いのか? 顔色に変化はないように見受けられる。だが女同士だから分かるものもあるだろう。
私は頷いた。エミリアはエリザベスに着席を勧めた。私も腰掛けた。
「ハイド伯爵は親切か?」
「ええ。とても良くしていただいております」
「アウリスにはいつごろ戻る予定となる?」
エリザベス嬢は首を傾げた。
「存じませぬ。体力が回復しないことには帰らぬよう言い渡されておりますので。故に早く回復出来るよう努めております」
「疾い回復を祈ろう」
どこかぎこちないエリザベス嬢の訪問の時間は過ぎ、彼女はいそいそと帰宅した。
夜の帳が降りた頃、私はベッドに腰掛けた。エミリアの寝台だ。なぜか? それはエミリアが屋敷の下賜を受けることを固辞したからだった。故に私がエミリアに会う時はエミリア個人が所有する屋敷まで足を運ぶこととなる。髪を梳かし終えたエミリアも寝台に腰掛けた。
「陛下、発言を許し願えますか?」
「許す」
「エリザベス様は夫ある身です。ですから彼女には……」
「黙れ」
エミリアは口を閉ざした。エミリアを睨んだが、彼女は平然と私を見ている。
「最初に彼女を見出したのは私だ。ハイド伯爵ではない」
エミリアは怪訝そうに眉間にシワを寄せた。
「エリザベス様はハイド家の出なのでは?」
違う。彼女はスヴェトラーナ后の、ヴィンス7世の……ひいてはデイヴィス王朝の末裔だ。「デイヴィス王朝最後の輝き」、そう称されたスヴェトラーナ后のただ1人の子孫。
私の隣にいる女を見やると、彼女は腕を枕にし私から背を向けていた。
「エミリア、悋気を起こしているのか?」
エミリアは体を起こし顔をこちらに向けた。
「私がなぜ悋気を起こすのですか?私は陛下に心を寄せたことなどありません」とエミリアは首を横に降った。
エミリアは美しい目元を持っている。そしてエリザベス嬢はエミリアなど及ばぬほどの素晴らしい美貌の持ち主だ。
私は窓を睨んだ。ここは海が美しい街だった。この街にエリザベス嬢を妻としているハイド伯爵が訪れる日は近い。私がこの地を離れる日も近い、3日後だ。エミリアの顔を見て、私は気づいた。彼女の目には、私の心を探るような不安が宿っている。しかし、私は答えを出さない。
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