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恋の終わり
閑話 ラシッドの覚書
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ラシッドはキーボードのエンターキーを押した。ここひと月も悩んでいたことへの問いがようやく出たのだ。
ゴーディラック王国のジュリア王女を息子モハメドの妻として受け入れることが決まったのは2ヶ月前だった。まだ15歳になったばかりの少女を息子の妻として受け入れる。あちらではどうなのかは知らないが、私の感覚だと児童婚のようにしか感じられなかった。そもそも王女の年齢を知ったのは婚約が決まったあとだから、騙し討ちを食らったような感覚だった。舞踏会で会った時、あまりにあどけない顔立ちなので驚いた。私に娘はいないが、姪はいる。
先月まで悩んだ末、ジュリア王女が18歳になるまでは私の養子とすることとした。彼女がヴァロワールの法の下でも成人した時に、養子縁組を解消。その時になってもヴァロワールとゴーディラックの関係に変化がなければ結婚させるしかないだろう。
次の問題は、ジュリア王女を養子として受け入れたあと、3年間彼女をどうするか。真っ先に考えたことは彼女を高校に入れることだった。だが彼女はフランス語を解さない。学校へ行っても意味がないだろう。
そこで彼女のヴァロワール入りを3年後にするよう、申請したがハイド伯爵に断られてしまった。一体、あの男は何を考えているのだ? 子どもだった頃は賢く素直な子だったのに。
脳裏に幼かったころのヨハネス・ド・ハイドが浮かぶ。年に1度しか来ない、母を亡くしたばかりだったモハメドのことも可愛がってくれたいい子だった。よく2人で大使館中を使ってかくれんぼしていたな。ヨハネスは、兄が亡くなった時に家へ帰って行ったが……。その頃から漏れ聞こえた彼の家の状況を聞くたび、何度心を痛めたことだろうか。伯父伯母を事故で亡くし、父を病で亡くし、継母はさっさと再婚した。叔父すらも不審死だった。ヨハネスより1つ下の妹は父の腹心の息子と婚約したそうだが、その妹も成人を目前にして亡くなった。
「あの子も、あの頃は……」
私はパソコンを閉じ、眼鏡を外した。眼鏡拭きのクロスを取ろうとした手が、ふと止まる。デスクの隅、ジュリア王女の入学申請書が目に入った。
言語の問題が解決しない限り、学校には行かせられない。フランス語を教える教師を、家庭教師として雇うしかないか……。
「ああ、頭が痛い」
彼は手帳を開き、何人かの候補を並べた。だが、ページの途中で目が留まる。ある名前が目に入ったのだ。
――ハイド。
そうだった。ヨハネス……ハイド伯爵が侍女の1人にフランス語を教え、輿入れに同行させると聞いた。だがその侍女も数ヶ月で帰国する。せめてその侍女に1年間でも滞在してもらうことはできないものだろうか?
私は曖昧な息を吐いた。
モハメドは今年で21歳。高校を卒業後は旅行やボランティアなどで各国を回り、その後進路を定め進学した。国際関係学を専攻しつつ、今なお各地をふらふらしている。
ジュリア王女は先々月15歳の誕生日を迎えた。舞踏会が終わる頃、ゴーディラックの国王に願いにより歌っていた。細い印象を与えるが美しいソプラノだった。通訳を介した上で少し話したことがあるが、「愛らしい少女」という印象を受けた。
ノック音が響き、事務のフワンが「閣下、電報です」と入ってきた。
「ありがとう。フワン」と電報を受け取った。
フワンは一礼し、部屋を出ていった。ふぅと息を吐いた。わざわざ電報を寄越すのだからゴーディラックの連中だろう。一読すると、昂ぶる息を吐いた。再びパソコンを開いた。20文字ほどタイピングした後、数文字消した。10文字ほどタイピングした、消した。タイピングし、そのままモハメドにメールを送信した。
1分後、モハメドから「マジで言ってる!? 何があったんだよ?」と返信が来た。私は首を横に振った。私も詳細を知らない。さきほどモハメドへ送ったメールに目を通した。
モハメドへ。
大学での勉強はどうだ?
早速、本題に入る。
お前とジュリア王女の婚約の件だ。ジュリア王女の出奔により、マカレナ・ド・ローレンスと結婚することになった。お前と仲が良かった例の女性の通訳官だ。不在となった第13王女の穴を埋める形で、彼女が国王陛下の養女となったそうだ。
尚、輿入れの予定日に変更はない。
ゴーディラック王国のジュリア王女を息子モハメドの妻として受け入れることが決まったのは2ヶ月前だった。まだ15歳になったばかりの少女を息子の妻として受け入れる。あちらではどうなのかは知らないが、私の感覚だと児童婚のようにしか感じられなかった。そもそも王女の年齢を知ったのは婚約が決まったあとだから、騙し討ちを食らったような感覚だった。舞踏会で会った時、あまりにあどけない顔立ちなので驚いた。私に娘はいないが、姪はいる。
先月まで悩んだ末、ジュリア王女が18歳になるまでは私の養子とすることとした。彼女がヴァロワールの法の下でも成人した時に、養子縁組を解消。その時になってもヴァロワールとゴーディラックの関係に変化がなければ結婚させるしかないだろう。
次の問題は、ジュリア王女を養子として受け入れたあと、3年間彼女をどうするか。真っ先に考えたことは彼女を高校に入れることだった。だが彼女はフランス語を解さない。学校へ行っても意味がないだろう。
そこで彼女のヴァロワール入りを3年後にするよう、申請したがハイド伯爵に断られてしまった。一体、あの男は何を考えているのだ? 子どもだった頃は賢く素直な子だったのに。
脳裏に幼かったころのヨハネス・ド・ハイドが浮かぶ。年に1度しか来ない、母を亡くしたばかりだったモハメドのことも可愛がってくれたいい子だった。よく2人で大使館中を使ってかくれんぼしていたな。ヨハネスは、兄が亡くなった時に家へ帰って行ったが……。その頃から漏れ聞こえた彼の家の状況を聞くたび、何度心を痛めたことだろうか。伯父伯母を事故で亡くし、父を病で亡くし、継母はさっさと再婚した。叔父すらも不審死だった。ヨハネスより1つ下の妹は父の腹心の息子と婚約したそうだが、その妹も成人を目前にして亡くなった。
「あの子も、あの頃は……」
私はパソコンを閉じ、眼鏡を外した。眼鏡拭きのクロスを取ろうとした手が、ふと止まる。デスクの隅、ジュリア王女の入学申請書が目に入った。
言語の問題が解決しない限り、学校には行かせられない。フランス語を教える教師を、家庭教師として雇うしかないか……。
「ああ、頭が痛い」
彼は手帳を開き、何人かの候補を並べた。だが、ページの途中で目が留まる。ある名前が目に入ったのだ。
――ハイド。
そうだった。ヨハネス……ハイド伯爵が侍女の1人にフランス語を教え、輿入れに同行させると聞いた。だがその侍女も数ヶ月で帰国する。せめてその侍女に1年間でも滞在してもらうことはできないものだろうか?
私は曖昧な息を吐いた。
モハメドは今年で21歳。高校を卒業後は旅行やボランティアなどで各国を回り、その後進路を定め進学した。国際関係学を専攻しつつ、今なお各地をふらふらしている。
ジュリア王女は先々月15歳の誕生日を迎えた。舞踏会が終わる頃、ゴーディラックの国王に願いにより歌っていた。細い印象を与えるが美しいソプラノだった。通訳を介した上で少し話したことがあるが、「愛らしい少女」という印象を受けた。
ノック音が響き、事務のフワンが「閣下、電報です」と入ってきた。
「ありがとう。フワン」と電報を受け取った。
フワンは一礼し、部屋を出ていった。ふぅと息を吐いた。わざわざ電報を寄越すのだからゴーディラックの連中だろう。一読すると、昂ぶる息を吐いた。再びパソコンを開いた。20文字ほどタイピングした後、数文字消した。10文字ほどタイピングした、消した。タイピングし、そのままモハメドにメールを送信した。
1分後、モハメドから「マジで言ってる!? 何があったんだよ?」と返信が来た。私は首を横に振った。私も詳細を知らない。さきほどモハメドへ送ったメールに目を通した。
モハメドへ。
大学での勉強はどうだ?
早速、本題に入る。
お前とジュリア王女の婚約の件だ。ジュリア王女の出奔により、マカレナ・ド・ローレンスと結婚することになった。お前と仲が良かった例の女性の通訳官だ。不在となった第13王女の穴を埋める形で、彼女が国王陛下の養女となったそうだ。
尚、輿入れの予定日に変更はない。
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