朝起きたら、願ったことが叶う世界になっていた件

神永 遙麦

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「ハッハハハハハハッ」
 帰り道も笑いが止まらない。
 カレーを頭にぶちまけてやっただけで、あんなにギャーギャーギャーギャーと大騒ぎしやがってよ。女は弱いよえーな。明日はどうしよっかー。
「カッハハハッハハハハ」

 思わず漏れた高笑いが響く世界から、太陽が音もなく隠れていく。黒い黒い影絵のような町だけを残して。今宵は月も人々を照らさない。とうの昔の悟っていたように、もう人々は月明かりを必要としていないことを。

 制服を着たままぬうっと眠ってしまった克人は、目覚ましの音で目が覚めた。
「っるせぇ」と机の角にスマホの電源ボタンを叩き込んだ。モゾモゾと起き上がると克人は、気怠げに宙を睨んだ。
「学校なんてなくなっちまえばいいのに」
 多大なる重力の影響を受けながらも学校の準備を終え、カタツムリのようにノロノロと学校に向かった。


 *

 急がないと。早く学校につかないと。荻野さんより先に学校に着かないと。今度は何がなくなるか。机がどうなるか。早く着かないと。

 たったたタッタタ。ビルディングの向こう側に学校が見えたその時、クラクションがなった。

 14歳の日向は生まれてはじめて走馬灯を見た。初めて自分を抱き上げたパパの泣きじゃくる顔 ――「おめでとう」、そう誰もが両親と私に言っていた頃のことを初めて思い出した――。初めてお友達が出来た時のは3歳だった。みんなが私を「かわいい、かわいい」と褒めてくれたあの頃。5歳の誕生日を祝ってくれたママの笑顔。7歳で終えた七五三参り。桜舞う中初めて告白されたこと。去年、初めて振り袖を着たこと。昨日、田村 優香さんに机に落書きをされたこと……。荻野 克人に「死ね」と言われたこと。

 ドンッと鈍く鋭い音がなり、朝っぱらから流れ星が流れ、一瞬で小さなきらめきが彼方へ運び去られていった。
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