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1話

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 夕飯を作ろうとした。もう中校生なんだから夕ご飯くらい自分で作れないとダメだ。背伸びをして棚からパスタを取って、グツグツと煮立っている鍋に突っ込んだ。今夜はツナマヨ・パスタ。
 
 お母さんはパート。お母さん、「今日帰りが9時過ぎる」って言っていたからお母さんの分は軽めでいいや。あ、今日は「一緒に夜ふかしして、一緒に軽い調子で大事な話をしよう」って言われたんだった……。っていうか明日学校あるんだけど! お母さんは「1日くらいいいでしょ」って言ってたけど、中2の秋だよ、内申点のことも頭に入れてよ! お母さんは高校に行かなかったから知らないのかな?
 でもあんなキラキラな目で「一緒に年越しパーティーしようよ」なんて言われたら断れない! つくづく思うんだけど、私ってお母さんのあの目に弱いなぁ。

 うんうん、唸りながらツナ缶を開けたらうっかり手を切っちゃった。でもあっという間に血と傷は消える。いつものように。鬼のように。
 よし、茹で上がった。茹で汁を捨てて、ツナマヨと混ぜてからお皿に盛り付ける。うん、いつもながらの映えない料理。お母さんの分はサラダでかさ増し。そうだ、この間作ったユッケ漬け卵、そろそろ食べごろだよね? 1個乗せちゃえ。
 もう6時。ちゃっちゃと食べ終わって、お皿洗おう。

 *

 宿題終わったら9時半になっていた。そろそろ帰ってくるかな? 遅いのはきっと仕事が長引いているから。宿題終わっちゃったから、予習をしよう。

 *

 2学期分の予習を全部やっちゃったのに、お母さんはまだ帰ってこない。どうしよう、このままだと3学期分に突入しそう。 ――奨学金を使っての高校入学希望だから、それでいいんだろうけど――。
 スマホでググってみた、電車の事故があったらしい、もしかしたら引っかかったのかも。尤も、10時に起きた事故だから引っかかりそうもないんだけど。後10分で11時になる。寝ちゃったら合鍵ないからお母さんが家に入れなくなる。だから寝るわけにもいかない。

 ピンポーンと鳴った。期待に心臓が高鳴ったが、時間が時間だから、足音を立てずにそっとドアスコープを覗き込んだ。お母さんだ!
 ガチャッと勢いよくドアを開けた。
「おかえり。遅いよ!」
「ごめん、ごめん」
 お母さんはケラケラ笑いながら、何か荷物を隠しながら風呂場に入った。

 洗濯機を回そうと、洗面所に入った。鏡に私の姿が写った。サファイアと栗が混ざり合うような私の目も写った。

 *

 シャワーを終えたお母さんはサッパリしたようにビールを一杯飲んだ。
 私はチラッと時計を見た、もう11時半。
「お母さん、時間が時間だからもう寝るね」
 
 お母さんは私が「時間が時間だからディスコに行ってくるね」とでも言ったかのようにギョッと目をひん剥いて私を見た。何か言い間違えた?
「ちょっと、大事な話とパーティーがあるのに」
「もうすぐ12時だよ」
「じゃあ、ケーキを食べながら大事な話をしよっか。だって賞味期限明日の朝1時なんだよ。せっかく電車一本逃して買ったのに」
 さっき隠してたのケーキかい! それに電車に乗り遅れた理由ケーキかい! そんで風呂場にケーキ持ち込むな!
 色々面倒くさくなって「分かった~」と気怠げな返事を返してやった。

 お母さんはまるで秘宝のようにケーキ箱の蓋を開けた。あ、モンブランとチョコケーキだ。ありがとう、お母さん。

 フォークを持ってきて、お母さんが音量を限りなく絞ったバースデーソングを歌うと、2人で「いただきます」と手を合わせた。モンブラン、なんて美味しいんだろう。幸せ。

 お母さんは私の表情を見ているうちに、フフッと笑った。蕩けきった表情になってる私の表情。
「かーわいい」と小声で呟くとお母さんは前髪を直した。居住まいも直した。
「あのね、綺星あやせ。あなたのお父さん、もういないの」
「知ってる」と、あっさり答えた。
「いつ知ったの?!」と、お母さんが立ち上がった。隠してるつもりだったん?
「そりゃ分かるよ、お父さんいない時点で」と、私は残り少なくなったモンブランを突っつきはじめた。
「そっか……」お母さんはショボンと椅子に座った。が、また立ち上がった。「あのね、お父さんがいないのは、捨てられたわけじゃないからね」
「お母さんが捨てたの?」んな訳ないけど。
「まさか! 殺されちゃったのよ!」

 思わず麦茶を噴き出した。机がびちゃびちゃになったが、気づかなかった。
「へ⁈ 嘘でしょ⁈」
「本当。皇太子だったから、命を狙われていてね……」
「夢小説?」
「本当のこと。ただ見つけるのは難しいし、きっともう滅んじゃったかもしれないけど」
「待て待て待て、どこの皇太子?」
「さあ。私が15歳だった時に夕涼みに出ていたら、何か知らない道があって、そこを通ってみたの。そしたら何か知らないとこがあったし……」


 何かフラフラして来た。
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