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ほとんど関係がない18歳女子の遺品コスメを、引き取ることになった14歳の話。
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お兄ちゃんの友達のお隣さんの従伯父の同僚の伯父の従兄の息子さんの従弟の、妹が事故で亡くなった。だから私にその女の子のコスメを引き取って欲しいらしい。
正直、関係が遠すぎる人のお下がりなんて気が引けるけど、今の私は金欠。とても、すごく魅力的な提案だ。おまけにその子は私よりちょっと年上の18歳。もしかしたらいいコスメを1つ2つ持っているかも。
「そう言えばお兄ちゃん、なんで私なの? 関係が遠すぎじゃない? 他にいなかったの?」
「それがさ、あの辺異様に女っ気がなくってさ。関係が近い上にお下がりを引き取ってくれそうな年代の子を探したら、梦に白羽の矢が立ったらしい。あそこの一族、女が嫁しかいないんだぜ。おまけに嫁使いが荒くて離婚率が高いらしい」とお兄ちゃんは頭を掻いた。
それはそれは……。
*
まあまあ大きめのドレッサー。クローゼットから出てきた3個のメイクポーチと、2つのメイクボックス。バッグに入っていたという2つのメイクポーチ。
「と、まあこんな感じ。こうやって見ると美紅ちゃんが持ってる……持ってたコスメ多いねぇ。もう、唯一の女の子だから可愛くて可愛くて、みんな揃って買っちゃうんだから。可愛いものだけをあげたかったのにねぇ、あの子ったら男の子みたいなものが好きで、そこの本棚も可愛いのは私達が贈ったものだけど、金属ラックとか黒いのはあの子が自分で選んだやつなのよ~。もったいないねぇ。だから、あの子がメイクに興味を持った時はすごかったわよぉ」と、美紅ちゃんの義理の伯母さんはすごい勢いで話した後、そっと目頭を指で抑えた。
それから、おばさんはまた明るいけど湿った調子で言葉を続けた。
「そのリュックに入んなかったら、こっちにも紙袋あるからね」と、部屋の隅っこに可愛らしい紙袋をいくつか置いた。
「あ~、そうそう気に入った本があれば持っていっていいからね。もともと少年マンガばっかり置いてあったんだけど、男の子たちが引き取ってくれたのよ。だけど、赤本はたくさんあってね~。あの子、慶応に合格したのよ。すごいでしょ~。梦ちゃんも今度で中3でしょ? 受験頑張ってね」と、出ていった。
そっか、私にとってはラッキーだったけど、このおばさんにとっては……。とりあえず、気を取り直そう。じゃないと、門限に遅れちゃう。チラッと時計を見た。11時だから、4時間もあれば十分でしょ。ついでに商店街を探しに行って、たこ焼き買おっかな~。
コスメを見るのは時間掛かりそうだから、まずは本棚を見てみた。鎮座するコスメコーナーより、本棚の方がすごいんだけど。
まずちょっと年季が入ってそうな可愛らしい本棚、次もまたホワイト木製の本棚、ナチュラルな木製の本棚にはレース付き。黒く塗られた木製の本棚。背が高い金属ラックの本棚。
何冊か抜けているけど、昔懐かしい「少年少女のための世界名作」まである。普通の小説も何冊か。すごい、ボーモン夫人の『美女と野獣』や『三銃士』まである。ん? 語学系の本多くない? 英語、フランス語は分かる。ドイツ語もギリ分かる。ラテン語の辞書とギリシャ語会話の本がある。ロシア語の本もあるし、なんか外国語で書かれた本もある。表紙では男女がキスしてるからたぶん小説。パスカルだ! 英語の小説見っけ、表紙を見ただけで分かる。中東の女性問題を扱った話だ。
あ、もう20分経ってた。意味分かんない。
頭をブンッと振ったら、女雛様と目があった。もうすぐひな祭りだから? なんで女雛様だけ? 多分めちゃくちゃいい女雛様なのに、頭に折り紙で折った兜が乗っけられていてクスッとした。
まず、このリバ○ィで作られたであろうポーチ。
中から大量にアイシャドウが出てきた。全部プチプラ。この子もイエベなのかな? 春っぽい色が多い。あ、赤茶色のアイシャドウだ。こういうの欲しかったんだけど、バキバキに割れてるのを切り絵を蓋に貼って隠してる。でも、潰せば使いそうだから頂こう。と、言うか粗方頂こう。使用期限いつまでだろう?
次は麻で作られた籠っぽいポーチ。タグがついてないから手作りかな? 中身はチーク、こっちのポーチはあまり入ってない。これもプチプラ。蓋を開けてみると、クリームっぽかった。サーモンピンクだけで3つあるんだけど。しかも、2つは同じやつ。気に入ったからもう1個買ったのかな? とりあえず未開封のサーモンピンクを頂こう。
3つ目は多分本革。メイクポーチに本革とは……。こっちはリップで、チャックを開けた途端2本飛んできたくらいギチギチに詰まっている。うわぁ……。あ! これ今流行ってるやつだ! いいな~5本もある! あ、でもめちゃくちゃブルベの色もある。なんで? って思ったらほとんど使ってない。
ポーチがちょっと多いから、ドレッサーを見てみよう。
もう1つの引き出しを開くと、ファンデーションが出てきてきた。しかも最近めちゃくちゃ流行ってるクッションファンデだ! 欲しいものを取って積み重ねた。
ガガガと引き出しを開けると、バースデーカードが出てきた。18歳の誕生日、17歳の誕生日、16歳の誕生日……ぎっちりと詰まっている。ドレッサーの棚にはハーフバースデーのカードが額縁に入れてある。家族・親戚に大事に思われていたように、この子も家族・親戚を大切に思っていたのかな。
ふと目を上げると鏡の中の私と目があった。光のせいか鏡が良いのか、いつも私が、私の鏡を通して見る私と、少し顔の感じが違うように見えた。
引き出しをガガガと閉めると、震えでファンデーションが音を立てて崩れた。
正直、関係が遠すぎる人のお下がりなんて気が引けるけど、今の私は金欠。とても、すごく魅力的な提案だ。おまけにその子は私よりちょっと年上の18歳。もしかしたらいいコスメを1つ2つ持っているかも。
「そう言えばお兄ちゃん、なんで私なの? 関係が遠すぎじゃない? 他にいなかったの?」
「それがさ、あの辺異様に女っ気がなくってさ。関係が近い上にお下がりを引き取ってくれそうな年代の子を探したら、梦に白羽の矢が立ったらしい。あそこの一族、女が嫁しかいないんだぜ。おまけに嫁使いが荒くて離婚率が高いらしい」とお兄ちゃんは頭を掻いた。
それはそれは……。
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まあまあ大きめのドレッサー。クローゼットから出てきた3個のメイクポーチと、2つのメイクボックス。バッグに入っていたという2つのメイクポーチ。
「と、まあこんな感じ。こうやって見ると美紅ちゃんが持ってる……持ってたコスメ多いねぇ。もう、唯一の女の子だから可愛くて可愛くて、みんな揃って買っちゃうんだから。可愛いものだけをあげたかったのにねぇ、あの子ったら男の子みたいなものが好きで、そこの本棚も可愛いのは私達が贈ったものだけど、金属ラックとか黒いのはあの子が自分で選んだやつなのよ~。もったいないねぇ。だから、あの子がメイクに興味を持った時はすごかったわよぉ」と、美紅ちゃんの義理の伯母さんはすごい勢いで話した後、そっと目頭を指で抑えた。
それから、おばさんはまた明るいけど湿った調子で言葉を続けた。
「そのリュックに入んなかったら、こっちにも紙袋あるからね」と、部屋の隅っこに可愛らしい紙袋をいくつか置いた。
「あ~、そうそう気に入った本があれば持っていっていいからね。もともと少年マンガばっかり置いてあったんだけど、男の子たちが引き取ってくれたのよ。だけど、赤本はたくさんあってね~。あの子、慶応に合格したのよ。すごいでしょ~。梦ちゃんも今度で中3でしょ? 受験頑張ってね」と、出ていった。
そっか、私にとってはラッキーだったけど、このおばさんにとっては……。とりあえず、気を取り直そう。じゃないと、門限に遅れちゃう。チラッと時計を見た。11時だから、4時間もあれば十分でしょ。ついでに商店街を探しに行って、たこ焼き買おっかな~。
コスメを見るのは時間掛かりそうだから、まずは本棚を見てみた。鎮座するコスメコーナーより、本棚の方がすごいんだけど。
まずちょっと年季が入ってそうな可愛らしい本棚、次もまたホワイト木製の本棚、ナチュラルな木製の本棚にはレース付き。黒く塗られた木製の本棚。背が高い金属ラックの本棚。
何冊か抜けているけど、昔懐かしい「少年少女のための世界名作」まである。普通の小説も何冊か。すごい、ボーモン夫人の『美女と野獣』や『三銃士』まである。ん? 語学系の本多くない? 英語、フランス語は分かる。ドイツ語もギリ分かる。ラテン語の辞書とギリシャ語会話の本がある。ロシア語の本もあるし、なんか外国語で書かれた本もある。表紙では男女がキスしてるからたぶん小説。パスカルだ! 英語の小説見っけ、表紙を見ただけで分かる。中東の女性問題を扱った話だ。
あ、もう20分経ってた。意味分かんない。
頭をブンッと振ったら、女雛様と目があった。もうすぐひな祭りだから? なんで女雛様だけ? 多分めちゃくちゃいい女雛様なのに、頭に折り紙で折った兜が乗っけられていてクスッとした。
まず、このリバ○ィで作られたであろうポーチ。
中から大量にアイシャドウが出てきた。全部プチプラ。この子もイエベなのかな? 春っぽい色が多い。あ、赤茶色のアイシャドウだ。こういうの欲しかったんだけど、バキバキに割れてるのを切り絵を蓋に貼って隠してる。でも、潰せば使いそうだから頂こう。と、言うか粗方頂こう。使用期限いつまでだろう?
次は麻で作られた籠っぽいポーチ。タグがついてないから手作りかな? 中身はチーク、こっちのポーチはあまり入ってない。これもプチプラ。蓋を開けてみると、クリームっぽかった。サーモンピンクだけで3つあるんだけど。しかも、2つは同じやつ。気に入ったからもう1個買ったのかな? とりあえず未開封のサーモンピンクを頂こう。
3つ目は多分本革。メイクポーチに本革とは……。こっちはリップで、チャックを開けた途端2本飛んできたくらいギチギチに詰まっている。うわぁ……。あ! これ今流行ってるやつだ! いいな~5本もある! あ、でもめちゃくちゃブルベの色もある。なんで? って思ったらほとんど使ってない。
ポーチがちょっと多いから、ドレッサーを見てみよう。
もう1つの引き出しを開くと、ファンデーションが出てきてきた。しかも最近めちゃくちゃ流行ってるクッションファンデだ! 欲しいものを取って積み重ねた。
ガガガと引き出しを開けると、バースデーカードが出てきた。18歳の誕生日、17歳の誕生日、16歳の誕生日……ぎっちりと詰まっている。ドレッサーの棚にはハーフバースデーのカードが額縁に入れてある。家族・親戚に大事に思われていたように、この子も家族・親戚を大切に思っていたのかな。
ふと目を上げると鏡の中の私と目があった。光のせいか鏡が良いのか、いつも私が、私の鏡を通して見る私と、少し顔の感じが違うように見えた。
引き出しをガガガと閉めると、震えでファンデーションが音を立てて崩れた。
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