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22.なかなか見つからない。
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「最近、かーさんがあやしんでるんだよな」
ポスターをはって何日かたった日、コータが困ってる顔で言った。
目の前ではギンシロが給食の残りのパンを食べてる。もうそろそろコータがもらってきたっていうキャットフードのお試し品がなくなるから、仕方なくパンをあげてるの。
「毎日遅いだろ? でもミキッペもいるから美化委員会って言えないしさ」
毎日怒られて最悪だとか言ってため息をつく。
「そっちは? おばさん、平気か?」
わたしは首を振る。
「え。何も言われないのかよ」
「うちのママはパートに行ってるからね」
「あれ、うちのかーさんと一緒で二時まだじゃなかったっけ」
「ううん。最近遅いんだ」
「へえ。いいな。うちなんかオレが帰るの待ち構えてるからなあ。なんか、どっかの進学塾の入塾テスト受けろってうるさいんだよ」
「え。研伸学院に行くんじゃないの?」
「駅前の進学塾に落ちたら研伸学院だってさ。あーあ、塾なんか行きたくねえよ」
猫はいいよなあとか言いながらギンシロを撫でる。
意外だった。
「みんな研伸学院だと思ってた」
「あ? ああ、そんなことないんじゃないかな。結構テスト受けるやつ多いんだぞ。でもおっこちた時にかっこ悪いから研伸学院って最初から言ってるだけだって」
「そうなの?」
「うん。この前かーさんに無理やり受けさせられた塾があってさ。うちの学校のヤツ、結構見かけたなあ」
びっくりした。全然知らなかった。
それと、ショックだった。コータがそんなテストを受けに行ってたなんて。
「ミキッペもどっか受けるんだろ?」
「え……ううん。研伸学院に行きたいなって……でも、もしかしたら駅前の方のに行くかも……」
引越しのことはばれないようにごまかした。
コータはただ、「ふうん」とうなずいただけだった。
みんなずっと同じだと思ってたけど、本当は違うのかもしれない。
わたしが思っていたのとは違う「みんな」の像があったんだって知って、なんだか複雑な気分だな。
うまく言葉にならない何かが心の中でもやもやしてる。
「いいね、ギンシロは」
ご飯が終って毛づくろいしてるギンシロをながめてると、ため息がもれた。なんだか平和そうでうらやましいよ。
だけど、そんな風に見ていたらにらまれたような気がした。
「……なんてね。ギンシロだって大変なんだよね。飼い主探さなくっちゃ」
そうそう。
ギンシロだって何も問題がないわけじゃないんだもんね。
コータもうなずく。
「だよな。ごめんな、ギンシロ。大変なのはオレらだけじゃないよな」
そしてわたし達は顔をあわせて盛大にため息をついた。
ため息だって出るよ。
だって、飼い主は全然見つからない。
ポスターをはってから今日までのことを思い返してみる。興味があるらしい人は割といるんだけど、飼ってくれそうな人は誰もいない。
音楽を教えてくれてる中田先生が飼ってくれそうな感じがしたんだけど、やっぱり無理だって言われちゃった。
一年生の男の子が飼いたいって言ってたけど、それって親は許してないみたいだったし。
あとは担任の加藤先生が心配してあちこちに聞いてくれてるけど、そっちもダメっぽい。
先生たちはポスターを見てとっても誉めてくれたし、内容にも感心してくれたけど、それ以上のことを言ってきてくれたのは中田先生と加藤先生だけだった。
だけどその二人も飼ってくれるわけじゃない。
ギンシロを飼ってくれそうな人が見つかる気配はまるでなかった。
ポスターをはって何日かたった日、コータが困ってる顔で言った。
目の前ではギンシロが給食の残りのパンを食べてる。もうそろそろコータがもらってきたっていうキャットフードのお試し品がなくなるから、仕方なくパンをあげてるの。
「毎日遅いだろ? でもミキッペもいるから美化委員会って言えないしさ」
毎日怒られて最悪だとか言ってため息をつく。
「そっちは? おばさん、平気か?」
わたしは首を振る。
「え。何も言われないのかよ」
「うちのママはパートに行ってるからね」
「あれ、うちのかーさんと一緒で二時まだじゃなかったっけ」
「ううん。最近遅いんだ」
「へえ。いいな。うちなんかオレが帰るの待ち構えてるからなあ。なんか、どっかの進学塾の入塾テスト受けろってうるさいんだよ」
「え。研伸学院に行くんじゃないの?」
「駅前の進学塾に落ちたら研伸学院だってさ。あーあ、塾なんか行きたくねえよ」
猫はいいよなあとか言いながらギンシロを撫でる。
意外だった。
「みんな研伸学院だと思ってた」
「あ? ああ、そんなことないんじゃないかな。結構テスト受けるやつ多いんだぞ。でもおっこちた時にかっこ悪いから研伸学院って最初から言ってるだけだって」
「そうなの?」
「うん。この前かーさんに無理やり受けさせられた塾があってさ。うちの学校のヤツ、結構見かけたなあ」
びっくりした。全然知らなかった。
それと、ショックだった。コータがそんなテストを受けに行ってたなんて。
「ミキッペもどっか受けるんだろ?」
「え……ううん。研伸学院に行きたいなって……でも、もしかしたら駅前の方のに行くかも……」
引越しのことはばれないようにごまかした。
コータはただ、「ふうん」とうなずいただけだった。
みんなずっと同じだと思ってたけど、本当は違うのかもしれない。
わたしが思っていたのとは違う「みんな」の像があったんだって知って、なんだか複雑な気分だな。
うまく言葉にならない何かが心の中でもやもやしてる。
「いいね、ギンシロは」
ご飯が終って毛づくろいしてるギンシロをながめてると、ため息がもれた。なんだか平和そうでうらやましいよ。
だけど、そんな風に見ていたらにらまれたような気がした。
「……なんてね。ギンシロだって大変なんだよね。飼い主探さなくっちゃ」
そうそう。
ギンシロだって何も問題がないわけじゃないんだもんね。
コータもうなずく。
「だよな。ごめんな、ギンシロ。大変なのはオレらだけじゃないよな」
そしてわたし達は顔をあわせて盛大にため息をついた。
ため息だって出るよ。
だって、飼い主は全然見つからない。
ポスターをはってから今日までのことを思い返してみる。興味があるらしい人は割といるんだけど、飼ってくれそうな人は誰もいない。
音楽を教えてくれてる中田先生が飼ってくれそうな感じがしたんだけど、やっぱり無理だって言われちゃった。
一年生の男の子が飼いたいって言ってたけど、それって親は許してないみたいだったし。
あとは担任の加藤先生が心配してあちこちに聞いてくれてるけど、そっちもダメっぽい。
先生たちはポスターを見てとっても誉めてくれたし、内容にも感心してくれたけど、それ以上のことを言ってきてくれたのは中田先生と加藤先生だけだった。
だけどその二人も飼ってくれるわけじゃない。
ギンシロを飼ってくれそうな人が見つかる気配はまるでなかった。
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