15 / 19
魂の解放
しおりを挟む
何とか、近付かなければならない。
エルフィは距離を詰めるべく、アンデッドに向かって走った。
男が両手を広げる。パン! という乾いた音と共に発せられる、なにか。その衝撃を横に飛び退いて、避ける。
「ちょこまかと煩いなぁ。お前、ただの人間だろ? ナダリア・マルス・ゲレンドーラやマキアルス・ウィリ・ベテルゼンとは格が違うよ。お前みたいな虫けら、俺に勝てるわけないじゃん」
抑揚はないのに、バカにされてることは嫌というほどわかる。彼はあの二人を封印するための道具に過ぎないが、その、封印している人物に対しての敬意は忘れていない。これは古き時代の習慣。力あるものには相当の礼賛を、というものだろう。
「それはどうかな?」
エルフィは口の端を少し上げると、剣を握り直す。と、勢いを付けて飛ぶ。
「アディ!」
クルルァ~
エルフィの声に反応し、アディが火焔を放った。
「え? ええ? なんでっ」
リオンは慌てふためいた。テイムした魔獣が主人以外の命令を聞くことなど、ないに等しい。ましてや戦闘の最中に。しかしアディはまるでエルフィのしようとしていることが分かるかのように、応える。
アディの火焔が男の足元に落ちる。一瞬気を取られる、その僅かな隙をついてエルフィが斬りかかった。
ザシュ、という音と、落ちる、腕。
イルミナルクがいない方の腕を狙ったのだ。
驚いたイルミナルクが飛び立つ。
「今だ! シア、アディ、行け!」
またしてもエルフィが命を下す。しかし具体的には何も言っていない。が、二匹の魔獣は全てわかっているかのように陸と空からアンデッドに襲い掛かる。エルフィも続いた。
「バカな! お前はテイマーではないだろうっ? なぜ魔獣を動かせるっ? あのテイマーは強くない! だから、問題ないとっ、」
アディからの火焔を受け、焼ける体。シアの牙に引き裂かれる体、両手を広げようとして、片腕がないことに気付く。
「再生も出来ないっ。くそっ、魔剣め!」
悔しそうに顔を歪ませた。
「あるべき姿に戻りなさい!」
エルフィが叫ぶと、横一文字に剣を凪ぐ。
スパンッ
アンデッドの首を刎ねる。
「何故っ! 何故だ!」
首を刎ねられてもなお、悔しがる男。
「甘く見ていたようだが、リオン様の魔獣は優秀なんだ。それに、私もね!」
にっこり微笑んで言い切った。
「まさかこの私が、こんなにあっけなく……」
さらさらと消えてゆく。まるで初めから何もなかったかのように、そこには、塵一つ残ってはいない。
これで彼は自由になれたのか、それはわからない。が、少なくとも、もう利用されるだけの操り人形ではなくなるのだ。消えてしまうことにはなったが。
「リオン様、イルミナルクを!」
エルフィに言われ、はっとする。そうだ、鳥!
「任せろ!」
木の枝に止まっている金色の鳥に向け、魔法陣を描く。
「汝の名はハディレニシルダ。我がリオン・レミエル・メイナーの名において汝をテイムする!」
リオンがイルミナルクに向かって宣言する。魔法陣が光り、イルミナルクがテイムされた。
「よし!」
リオンが拳を握り締めた。
「やりましたね、リオン様!」
エルフィが魔剣を鞘に納め、駆け寄った。
「エルフィのおかげだよ。大丈夫か?」
「ええ、私は大丈夫です」
さっきまで剣を振り回していた嫁は、可愛らしい笑顔を見せた。しかし……、
「いつの間にアディとシアをあんな風に使えるようになってたんだ?」
「あ、それは、」
少し恥ずかしそうに顔を伏せる。
「シアもアディも、私を同類だと思っているのです」
「……は?」
「シオン様に仕える魔獣だと思っているようでして」
「えええ!?」
テイムされた仲間だと認識している、ということか。
「だから、協力的なんです」
そんな理由、あるのだろうか? 赤竜やブラックドッグが人間を仲間だと思うのかは到底疑わしいのだが……。
「あ、それってもしかしてエルフィの祖先が関係してるのか?」
遠い昔のこととはいえ、どうやらエルフィには魔物の血が流れている。もしかしたらシアやアディにはそれが感じられるのかもしれない、と考えたのだ。
「かもしれませんね」
ふふ、とエルフィが笑った。
「それより、これで無事にイルミナルクをテイム出来ました。ナダ様のところに戻りましょう、リオン様」
エルフィがリオンの腕を掴み、森を見た。
封印を解くカギである鳥を、手に入れたのだ。
「そうだな。ハディをどうすれば封印を解くことができるのか、教えてもらわないと」
ハディレニシルダ、と名付けられた金色の美しい鳥は、リオンの肩にちょこんと乗っている。
「こいつの生態も調べなきゃならないな。見たことも聞いたこともない鳥だ」
「古の鳥、って言ってましたもんね」
古い文献を漁るなら、国境を越えなければならないかもしれない。
「まずはナダに話を聞こう」
二人と三匹は、元来た道を急いで引き返すことにしたのである。
エルフィは距離を詰めるべく、アンデッドに向かって走った。
男が両手を広げる。パン! という乾いた音と共に発せられる、なにか。その衝撃を横に飛び退いて、避ける。
「ちょこまかと煩いなぁ。お前、ただの人間だろ? ナダリア・マルス・ゲレンドーラやマキアルス・ウィリ・ベテルゼンとは格が違うよ。お前みたいな虫けら、俺に勝てるわけないじゃん」
抑揚はないのに、バカにされてることは嫌というほどわかる。彼はあの二人を封印するための道具に過ぎないが、その、封印している人物に対しての敬意は忘れていない。これは古き時代の習慣。力あるものには相当の礼賛を、というものだろう。
「それはどうかな?」
エルフィは口の端を少し上げると、剣を握り直す。と、勢いを付けて飛ぶ。
「アディ!」
クルルァ~
エルフィの声に反応し、アディが火焔を放った。
「え? ええ? なんでっ」
リオンは慌てふためいた。テイムした魔獣が主人以外の命令を聞くことなど、ないに等しい。ましてや戦闘の最中に。しかしアディはまるでエルフィのしようとしていることが分かるかのように、応える。
アディの火焔が男の足元に落ちる。一瞬気を取られる、その僅かな隙をついてエルフィが斬りかかった。
ザシュ、という音と、落ちる、腕。
イルミナルクがいない方の腕を狙ったのだ。
驚いたイルミナルクが飛び立つ。
「今だ! シア、アディ、行け!」
またしてもエルフィが命を下す。しかし具体的には何も言っていない。が、二匹の魔獣は全てわかっているかのように陸と空からアンデッドに襲い掛かる。エルフィも続いた。
「バカな! お前はテイマーではないだろうっ? なぜ魔獣を動かせるっ? あのテイマーは強くない! だから、問題ないとっ、」
アディからの火焔を受け、焼ける体。シアの牙に引き裂かれる体、両手を広げようとして、片腕がないことに気付く。
「再生も出来ないっ。くそっ、魔剣め!」
悔しそうに顔を歪ませた。
「あるべき姿に戻りなさい!」
エルフィが叫ぶと、横一文字に剣を凪ぐ。
スパンッ
アンデッドの首を刎ねる。
「何故っ! 何故だ!」
首を刎ねられてもなお、悔しがる男。
「甘く見ていたようだが、リオン様の魔獣は優秀なんだ。それに、私もね!」
にっこり微笑んで言い切った。
「まさかこの私が、こんなにあっけなく……」
さらさらと消えてゆく。まるで初めから何もなかったかのように、そこには、塵一つ残ってはいない。
これで彼は自由になれたのか、それはわからない。が、少なくとも、もう利用されるだけの操り人形ではなくなるのだ。消えてしまうことにはなったが。
「リオン様、イルミナルクを!」
エルフィに言われ、はっとする。そうだ、鳥!
「任せろ!」
木の枝に止まっている金色の鳥に向け、魔法陣を描く。
「汝の名はハディレニシルダ。我がリオン・レミエル・メイナーの名において汝をテイムする!」
リオンがイルミナルクに向かって宣言する。魔法陣が光り、イルミナルクがテイムされた。
「よし!」
リオンが拳を握り締めた。
「やりましたね、リオン様!」
エルフィが魔剣を鞘に納め、駆け寄った。
「エルフィのおかげだよ。大丈夫か?」
「ええ、私は大丈夫です」
さっきまで剣を振り回していた嫁は、可愛らしい笑顔を見せた。しかし……、
「いつの間にアディとシアをあんな風に使えるようになってたんだ?」
「あ、それは、」
少し恥ずかしそうに顔を伏せる。
「シアもアディも、私を同類だと思っているのです」
「……は?」
「シオン様に仕える魔獣だと思っているようでして」
「えええ!?」
テイムされた仲間だと認識している、ということか。
「だから、協力的なんです」
そんな理由、あるのだろうか? 赤竜やブラックドッグが人間を仲間だと思うのかは到底疑わしいのだが……。
「あ、それってもしかしてエルフィの祖先が関係してるのか?」
遠い昔のこととはいえ、どうやらエルフィには魔物の血が流れている。もしかしたらシアやアディにはそれが感じられるのかもしれない、と考えたのだ。
「かもしれませんね」
ふふ、とエルフィが笑った。
「それより、これで無事にイルミナルクをテイム出来ました。ナダ様のところに戻りましょう、リオン様」
エルフィがリオンの腕を掴み、森を見た。
封印を解くカギである鳥を、手に入れたのだ。
「そうだな。ハディをどうすれば封印を解くことができるのか、教えてもらわないと」
ハディレニシルダ、と名付けられた金色の美しい鳥は、リオンの肩にちょこんと乗っている。
「こいつの生態も調べなきゃならないな。見たことも聞いたこともない鳥だ」
「古の鳥、って言ってましたもんね」
古い文献を漁るなら、国境を越えなければならないかもしれない。
「まずはナダに話を聞こう」
二人と三匹は、元来た道を急いで引き返すことにしたのである。
21
あなたにおすすめの小説
氷の精霊と忘れられた王国 〜追放された青年、消えた約束を探して〜
fuwamofu
ファンタジー
かつて「英雄」と讃えられた青年アレンは、仲間の裏切りによって王国を追放された。
雪原の果てで出会ったのは、心を閉ざした氷の精霊・リィナ。
絶望の底で交わした契約が、やがて滅びかけた王国の運命を変えていく――。
氷と炎、愛と憎しみ、真実と嘘が交錯する異世界再生ファンタジー。
彼はなぜ忘れられ、なぜ再び立ち上がるのか。
世界の記憶が凍りつく時、ひとつの約束だけが、彼らを導く。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
(完)聖女様は頑張らない
青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。
それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。
私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!!
もう全力でこの国の為になんか働くもんか!
異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
新緑の光と約束~精霊の愛し子と守護者~
依羽
ファンタジー
「……うちに来るかい?」
森で拾われた赤ん坊は、ルカと名付けられ、家族に愛されて育った。
だが8歳のある日、重傷の兄を救うため、ルカから緑の光が――
「ルカは精霊の愛し子。お前は守護者だ」
それは、偶然の出会い、のはずだった。
だけど、結ばれていた"運命"。
精霊の愛し子である愛くるしい弟と、守護者であり弟を溺愛する兄の、温かな家族の物語。
他の投稿サイト様でも公開しています。
「最高の縁談なのでしょう?なら、かわってあげたら喜んでくれますよね!」
みっちぇる。
恋愛
侯爵令嬢のリコリスは20歳。立派な嫁きおくれである。
というのも、義母がなかなかデビューさせてくれないのだ。
なにか意図を感じつつも、周りは義母の味方ばかり。
そん中、急にデビュタントの許可と婚約を告げられる。
何か裏がある――
相手の家がどういうものかを知り、何とかしようとするリコリス。
でも、非力なリコリスには何も手段がない。
しかし、そんな彼女にも救いの手が……?
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる