2 / 8
最高の仲間たちと別れ
戦争
しおりを挟む「断固として! 獣人のような醜い種族を受け入れることなど出来ません!」
「何を言う! この魔王討伐軍の中で、共に戦った戦友ではないか!」
「殿下は理解しておられぬのです! あの卑しき種族は知能も低くただ無謀に突撃することしか出来ない野蛮な種族ですぞ! 我らエルフの高貴な姿が穢れてしまう!」
ダン! と強く机が叩かれた。
酷く攻勢に出ていた宰相の顔が、僅かに青くなる。しかし、すぐに反論を口にした。
「そ、そうやって武力でしか解決できないのでしたら、この国は滅亡しますぞ……」
「……」
反論の余地が無い正論。この国の、エルフの宰相は有能だ。高い知略から多くの利益を生み出せる人物であり、現国王からも信頼を置かれている。
しかし同時に、酷く排他種族の価値観を持ったヒトでもある。エルフ至上主義であり、エルフこそが最も高貴な存在だと信じて疑わない。
「……ゆ、勇者様からも殿下に何か言ってください!」
「……ん?」
(ああ、俺に言ったのね。……ったく)
突然の呼びかけに思わず適当に返してから、ロシュエフの顔を見つめる。そこには、強い意志と僅かな不安を滲ませた、到底次期国王とは思えない顔が浮かんでいた。
「あぁそうだな。エルフは優秀な種族だ。そのほとんどが優れた魔法の技術と冴え渡る剣技を用い、高い頭脳を持っている。それに美男美女が多いときた」
「その通りでございます! やはりエルフこそが至高なのですぞ殿下!」
「だがしかし、それは他種族が居るからこそ優秀だと認められているに過ぎない。もしこの世界に人族も獣人も存在せず、魔族とエルフ、そして竜人しか居ない世界だとしたら、最も劣っているのは間違いなくエルフだ」
「なッ、あ……!」
俺の暴論ともとれる意見に、宰相は即座に反論しようとした。しかし、それが叶うことは無かった。
宰相本人の意思で、その口は開く寸前に閉じられたからだ。
まがりなりにも優秀な頭脳だ。俺の暴論が空想で屁理屈だとしても、筋が通っていることは理解できるらしい。
「わかりました……勇者様の崇高な考えと、殿下の意見を無視する訳にもいきません」
「そ、そうか!」
宰相の言葉に、顔を輝かせるロシュエフ。
「しかし、2年です。2年の間に獣人と人族のもたらす明確な利益を私に見せ、そして対等な関係であると認めさせてください。それが出来なければ、私は再び反対致します」
「……! …………ああ! 絶対に認めさせてみせよう」
そう返すロシュエフの瞳は、先ほどよりも数倍は輝いていた。
(一件落着、っと……)
俺も気楽に、その場を後にした。
「まぁ、そうだよ…な……」
あんな理想、そりゃあ達成するのは難しいに決まってる。アニメだったり漫画なら、ここから至難を乗り越えて和平を築いていくんだろうが、現実は綱渡りだ。
そして、この世界は負けた。
(テンプレだなぁ……)
きっかけは、エルフの強いプライドに虐げられていた獣人が反発し、それに対抗したエルフが続き――。
やがてそれは、世界規模の戦争を巻き起こしていた。
悲しいことに、戦争の開始日は、あの日からちょうど2年がたった今日だった。
既にロシュエフの言葉を聞き入れる貴族も居らず、宰相の進言と国王の一言で、全面戦争がその火蓋を切ったのだ。
俺は……何もしなかった。
勇者の責務から解放された今、もはや俺は一般人と同様だ。ただちょっと、戦闘に関しては世界にも挑めるくらいの自信はあるけど。
(…………)
長い沈黙だった。ひたすらに俺は、思考の天秤を揺らし続ける。
「帰る?」
「ッ!?」
突然の言葉に、俺は腰に差した聖剣へと手が伸びかけた。しかし、振り向いた先にいたのがネミだとわかって、手を離す。
「本当に全然わかんないから止めてくれ」
「無理。私は、普通にしてる」
コテン、と首を傾げて言うネミ。この子レベルの可愛さだともはや許してしまいそうになる俺の心が恨めしい。
だがしかし、彼女の意見はここ1年、俺が考え続けていることでもあった。
帰るか、残るか。一般人の俺が輝ける世界に居るか、一般人らしく平穏な日々を暮らせる日々を目指すか。
「どうする?」
思わず、目の前の少女の瞳を見つめる。透き通るような白銀の色をしていた。
その奥に映る俺の顔は、なんだか怯えているようでも、困っているようでもある。
「少し、考えさせてくれ」
今の俺には、そう言うことしか出来なかった。
「ん、私は待ってる」
答えを出せない俺を前に、彼女はそう言ってくれた。その言葉が、嬉しかった。
答えの出ないまま、エルフの国を歩き回る。どうしようもない思いが頭の中をぐるぐると駆け回っていた。
この世界で、俺は友ができた。掛け替えのない戦友ができた。
アイツらを置いて帰る決断が、俺にはまだ出来ていない。
日本には、家族がいる。向こうにも、やり残したことがあった。
何よりも、戦闘の毎日でいつ死んでしまうか分からない日々が少し、怖かった。
俺は――俺は―――。
気付けば、どこかの宿でまどろみの中へと吸い込まれていった。
明日には、答えが見つけられるだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
異世界配信〜幼馴染みに捨てられた俺を導く神々の声(視聴者)
葉月
ファンタジー
コルネ村で、幼なじみであり恋人でもあったユリアナと、ささやかな幸福を分かち合って生きていたロイド。
だがある日、ユリアナは女神の愛子として目覚め、国王の命により王都へと連れ去られる。
突然、日常を奪われ、運命に引き裂かれたロイドは、抗う術も持たぬまま、否応なく大きな流れへと呑み込まれていく。
これは、奪われたものを取り戻すため、そして理不尽な運命に抗おうとする、一人の少年の物語である。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる