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少年期編

訓練

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午後。
とりあえず、クルスさんの所にお邪魔しに来た理由の一つは片付いたので、もう一つの方だ。
今、リリナはカレンと買い物という名の散歩に行っているので、クルスさんと二人だけの部屋になっている。

まあ、もちろん二人程度の監視はいるのだが。


「それで、クルスさん」

「なんだろうか?」

「何があったんですか?」

「どういうことだ?」

「最近、軍が動いているのは知っているんです。何故か、というのを聞きたいのですよ」

「やはり、気付かれていたか。簡単だよ。戦争が起きる」

「何時ですか?」

「早くて今日、遅くても五年程度の猶予しかないだろう」


そういうことか。
これが、俺の知りたかったもう一つの事だ。
しかし、戦争か。


(珍しい魔法もあるのかな?)


そんな事を考えられる程度には、俺には余裕がある。
なにせ、各国の大まかな状況は理解しているのだ。
すぐに攻め込んで来るはずが無いのは分かりきっている。


「そうなれば、この国は勝つしかなくなる」

「・・・・・・・・・貴族義務、ですか」

「そうだ」


つまり、俺も貴族なのだから強制的に戦争に出ると。
まあ、あまり問題も無いから大丈夫だろう。
問題があるとすれば、強い敵がいる場合か、異常イレギュラーな場合だ。

恐らく、前者は大丈夫だろう。
しかし、後者はまったく分からない。
まあ、分からないから異常と呼ぶのだが。

とりあえず、この問題は無視するしかないだろう。


「まあ、戦争に出るのは大丈夫ですよ」

「それは助かる!此方としても、リュウ殿がいればほぼ勝利は確定なのだから」

「ははは。戦争が始まるまでは、頑張って強くなりますよ」

「・・・・・・・・・・・・それこそ、理不尽な戦いになりそうだ・・・・・・・・・」


若干引き攣った笑みを浮かべるクルスさんは、本当にそんな状態が想像出来るのだろうか。


「五年の猶予があれば、戦いなんて起きませんよ。虐殺です」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・ははっははは・・・・・・・・・・・・・・」


もう既に、引き攣りまくった笑みになったクルスさん。
これ、本当に頬とか痛くないのだろうか。
それが一番心配な俺は、少しだけ異常なのだと理解した。

とりあえず、これで用件は終わったのだし、訓練でもしようかと思った。











という訳でやってきた、庭。
今、俺は一人で庭の中央に立っているが、変な目で見られることは無い。
既に、公爵家の全員には知れ渡っているからだ。


「”焔剣””限界突破”それと、”雷剣”」


右手に握られた、鮮やかな炎の剣と、左手に握られた迸る雷の剣。
両の剣が対を成して同調し合う中、風は止み、空が曇ってきた。

_刹那。


「フッ!!」


飛来した雷撃を、同じく雷剣で切り裂く。
と同時に反対と後方から飛来する焔弾と魔力弾も、焔剣と雷剣を用いて切り裂いていく。
それは、次第に山のように膨れ上がっていくのだ。


「ハァッ!!!!」


ほぼ一秒の中に迫り来る、三つ以上の魔法。
それを、二刀流でなんとか切り裂き、防いでいく。
どうしても無理な場合は、魔法で対抗している。

しかし、今回は手加減無しで魔法が飛来する。


「粒子砲ッ!?」


俺自身が驚くような声を上げたのも無理は無い。
なにせ、これは俺の取得している魔法が”自動”で迫り来る状態なのだ。
粒子砲なんて威力の高い魔法を防ぐのは、一筋縄じゃ無理だ。

なのに、飛来する魔法は増えるばかり。


「クソッ!!」


自身を叱咤すると共に、飛来する粒子砲の”核”周辺目掛けて雷剣を置く。
迫り来る他の魔法は、勘に任せて魔法で防いでいるのだ。
粒子砲の先端が、雷剣に触れた瞬間__


「クッ!!!」


_物凄い圧力が、俺に掛かった。
これは、勝てなきゃ重傷だと一瞬で理解した。
ならば、焔剣にも頑張ってもらおうではないか。


「フンッ!!」


焔剣と雷剣を、交差するように持ち、粒子砲を受け止める。
それでも尚、若干押し負けているようにも感じられるのだから、この攻撃は凄い。
流石、”龍の魔法の再現”だろう。

これは、自然の魔力を使っているのだから。


「魔技”焔雷瞬華”!!!」


そう告げた瞬間、焔剣と雷剣から、膨大な魔力が溢れる。
それは、形を成すように振り上げられ、粒子砲に向けて、振り下ろされる。

_刹那。

大爆発が起きる。


ドゴオオオオオオォォォォォォン!!!!!!


魔力と魔力の、膨大な衝突は、これ程大きな爆発を起こすのだ。
前方に出来た、深い穴を見て、俺はこう思った。
この技、確実に今は封印だわ。と。

幸い、庭の件は弁償だけで許してくれた。
それだけが、救いである。
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