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英雄と王女。学園まで1ヶ月
破邪ノ英雄は、キスにて王女を(3)
しおりを挟む女なら、誰しも人生で一度は想像してしまうはずです。
「大丈夫か?」
誰にも救えなかった命を、自身を助けてくれる、そんな存在を。
「もう少しだな」
そんな、皇子に会うお姫様に成りたいと。
「最後は……んっ……」
初めてのキスが、そんな存在とであることを。
_意識を取り戻した私が見たのは、体験したのは、そんな光景と、唇に残る僅かな感覚でした。
「……皇子様」
これが、英雄であるレイと、王女である私の出会いです。
____________________________
塔の中は、最上階を除いて全てが階段で構成されていた。
元から、あまり広くは無いだろうと予想していたが、逆に少し驚きだ。
階段が、大きな螺旋階段だったからだ。
階段を上り切り振り返ったが、2人とも思ったよりかは疲れていないようだった。
第三王女に至っては、未だ俺に警戒の視線を向けてくる始末である。
_まあ、自分の姉の居る部屋の前まで来たんだから当然か。
そう勝手に納得した俺は、部屋の前に鎮座する扉に手を掛けた。
瞬間、掌に違和感が走る。
_やはり……
「【解呪】」
そう呟き、光が違和感を消し去ったのを感じた。
「予想通り、部屋全体にも呪いが掛けられているな。この部屋に結界や魔法を使った者はいるか?」
「確か、宮廷魔術師のレーテインという男だったはずです。……まさかっ!?」
「ああ。恐らくソイツも黒だな」
そう答えると、男性は信じられないような顔を此方に向けてくる。
それに対し、俺もまだ分からないと趣旨を含んで頭を振った。
「まだ決まった訳では無い。しかし、この部屋には一度も結界の類は施されていないようだ」
魔力の流れを視ながらそう告げると、少女がバッ、と立ち上がった。
その瞳には、憤怒が見えている。
「貴方にッ!!貴方に何が分かるんですか!?先ほどからレーテイン様を犯人のように話して!!大体、貴方に何の「黙れ」――!!」
怒鳴り散らす少女に対して、ただ一言、俺はそう告げた。
自分でも驚くくらい、久しぶりに怒っているはずだ。
「今、この場にお前は必要無い。俺が全て行って、無理だったらそのレーテインとかいう奴が正しかった。それだけだ」
そう、バッサリと少女を切り捨てた。
常人から見たら、10人中10人が可愛いと答えるような美少女だ。
だが、それがどうした。
「なっ!?あ、貴方はフィーリアがッ!!お姉さまがどうなっても良いと言うんですか!?」
「そうは言ってない」
「なら!!どうして「黙れと俺は言ったはずだ」――ッ!!」
尚も詰め寄ろうとしてくる少女へ、俺は再度声を上げた。
第一、話を理解しようともこの少女はしていない。
「俺が、何の覚悟も無いとでも思っているのか?お前に、数万人の命を奪う覚悟があるのか?お前に、幾万の命を奪った身で、英雄と称えられる責任が分かるか?分からないだろうが!なら、黙って見てろ」
_珍しいな。俺がこんなに腹立たしいのは。
自分でも、あまりこの感情が理解出来ていなかった。
何時もなら、無視していたであろう言葉が、感情が、今は制御の効かない水の様に流れて来る。
_不味いな。早く、終わらせるか。
そう決めた俺は、呆然とする男性と少女を置いて、扉を開けた。
「ヨウコソ。ワタシノ「死ね」―――」
中で立っていた黒い瘴気の怪物を、その姿さえ見ずに消滅させる。
行ったのは、ただの威圧と殺気だけだ。
_脆い、な。
改めて、自分の力の異常さを身に染みる。
_っと。早く治さないとな。
目前で、うめき声を上げる少女を見て、俺は思考を中断した。
まずは、この少女を治すことが優先事項だ。
――視界の隅で、翡翠の髪色へと変貌していく第三王女を無視ながら、俺は詠唱を開始した。
「『舞い戻れ 希望の翼よ 咲き誇れ 輝きの華よ その蜜を求めし者達を かの者達の下へ 集い在れ 【禁呪解呪】』」
光が少女を包む。その身体の痛みを和らげる。
苦しそうだった表情が、楽になったように治った。
_さて。最後の仕上げだな。
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