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英雄と王女。学園まで1ヶ月

破邪ノ英雄は、キスにて王女を(4)

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「大丈夫か?」

 胸の中で眠る少女へ声を掛けるが、あまり効果は無いようだった。
 未だ、少女の意識は夢の中でも現実にも無い。
 何処か分からないが、異空間で自身が傷つけられる夢を見ているだろう。

 ただ、肉体は既に完璧にまで回復しており、あとは意識の段階で頓挫していた。

 _まぁ、起こす方法は1つだな。

「【理想郷ユートピア】」

「……ッ…………」

 この魔法は、対象者の夢を最も望むものにする魔法だ。
 それと同時に、身体への微量の媚薬効果もあり、これを使って寝ると起きた時が凄いらしい。

 術者と対象者の両方が幸せに浸かれる魔法!と聞いたことがある。

「もう少しだな」

 若干意識が戻ってきている少女を見て、俺はそう呟いた。
 横目で見やると、第三王女は驚愕に目を染めている。
 一方、男性にはあまり理解出来ていないようだった。

 _最後は確か……

「最後は……んっ……」

 胸の中でスヤスヤと眠る少女の唇に、唇を重ねる。
 柔らかい、心地良い感覚だ。

「~~~?~~~」

 そこで、少女の意識が戻ったのを確認した俺は、唇を離した。
 ゆっくりと瞼が持ち上がり、少女の視線が俺を捉えていた。

「……皇子様」

 そう少女が呟いた時、俺は失敗に気が付いた。



 ◆◇◆◇◆


 ※三人称視点

 公爵家のリビングにて、シュンとリィナはくつろいでいた。
 互いの好きな場所を知って以来、2人の仲はさらに縮まったように見える。

「それにしても、レイは今頃何してるのかな?」

「さぁ?でも、レイ様なら問題無いはずですよ」

「それは知ってるよ。そうじゃなくて、レイは今頃どんな問題に直面しているのかな?って」

 リィナの膝に頭を預けながら、シュンはそう語った。
 公爵家でシュンとリィナの間で最近流行っているのは、この膝枕だ。
 シュンがレイを語る時、本当に嬉しそうに、楽しそうに喋るのを見て、リィナは若干の嫉妬を抱いているが、それと同時に嬉しくもあった。

 _シュン君が、幸せで良かった。

 そう考えられる女性であることが、シュンにとっての幸いである。

「それなら、第二王女様の治療でしたっけ?そこで第二王女様に惚れられるんじゃないですか?」

「あ~。ありそうなんだよね。そういうの」

 リィナの発言に、シュンは同意とばかりに頷いた。
 実際、シュンの知る限りでも同じようなことは数回は存在する。
 その度に、レイが気付いた時点から何とかしているのだが。

 _まったく。主人公であるはずの僕よりも主人公やってるのはレイだよ。

 そう内心で主張するシュンは、自身がどれだけ幸せな状態なのかを知らない。
 この光景を世界中に拡散すれば、およそ7割の男性の怒りを買うことだろう。
 これこそ、シュンの主人公補正かもしれない。

「今度こそ、レイに恋人が出来るのかな?」

「分かりませんけど、何だかそれもありそうな気がします」

「本当。レイなら何しても納得しちゃいそうなんだもん。ホント、最強は良いなぁ」

 心底羨ましそうにそう呟くシュンに、ふとリィナは疑問を抱いた。

「シュン君も、最強じゃないんですか?」

「?違うよ」

 リィナの質問に、シュンは少し照れくさそうに、嬉しそうに答えた。

「僕は、神様によって絶対に死なない”無敵”。だけど、死なないだけで勝てるだけの力が無い。レイは、神様によって絶対に勝つ”最強”代わりに、最強じゃなくなった時点で死ぬ」

「??」

「まあ、リィナには難しいから理解しなくて良いよ。大事なのは、僕は最強じゃない。ってこと」

「分かりました」

 シュンは、この世界でこの様な話をしていて分かったことがある。

 _この世界の住人に、神様が絡んだ事柄を話すことは出来ない。または理解出来ないんだね。

 それが、この世界で覚えた常識の1つである。

「それにしても、リィナの膝枕は最高だよ~」

「~~~~!!」

 話を紛らわすためとはいえ、かなり恥ずかしいことを言ったシュンは、その顔を赤くしている。
 対して、不意打ちで言われたリィナも、その顔を真っ赤に染めた。

 それでも、シュンの頭を撫でていた手に若干の力が入ったのを、シュンは見逃さない。
 まるで、手放さないように力を込めた手で、嬉しそうに撫でられるのだった。

 既に、リィナの頭に先ほどの話の内容など残っていなかった。
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