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番外編 ハロウィン〜序〜
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ギャグです。Rの話は一切出ません。
楽しんで下されば幸いです。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
まだ、ジリジリと肌に降り注ぐ太陽の光は熱く、着ている軍服は夏仕様と言えど、熱いものは熱い。
そんな日の昼休み、夜神は食堂に行き、一人、昼御飯を食べていた。
庵君は虎次郎にどこかに連れて行かれた。きっと、二人仲良く稽古に励んでると思い、特に探すことはしない。
━━━━━異種対抗稽古・・・・・きっと庵君の力になること間違いなしなので、ここは温かく見守ろう。
夜神は自分の中で完結させ、溜まっていた書類仕事をし、昼休みの合図とともに部屋から食堂に移動した。
一番乗りといきたかったが、既に先客がいた食堂は賑やかで、ここだけ見ると軍の中とは思えない程だ。どちらかと言えば学生の食堂のような賑やかさである。
そんな、活気ある中を進み、自分が今、食べたいものを注文する。今日の気分は揚げ物で、隠れファンも多いメンチカツを注文し食べていた。
二つあるうちの一つのメンチカツを食べ切ろうとする頃に、虎次郎と一緒に庵君も食堂にやって来て、夜神の席に来る。
「お~お~夜神!今日はメンチかぁ~~ど~しようかなぁ~・・・・・庵青年、我々は何を食べようかね~」
「迷いますよね・・・・・・」
七海の言葉に真剣に悩みながら、夜神のいた席から一旦、離れ食事の受け渡し場所に二人で相談しながら歩いていく。
夜神は食事を中断し、二人が戻ってくるのをお茶を飲みながら待った。
数分後、お盆を持った二人は戻って来て、空いている椅子に座る。
二人のお盆は夜神と同じくメンチカツが乗っていたが、夜神と違うのはご飯と漬物が大盛りなぐらいだろう。
「いただきます」
七海が行儀良く手を合わせ挨拶する。一歩遅れて庵も挨拶をし食べ始める。
「庵君は虎次郎と何していたの?稽古?」
二人が食べ始めたので、中断していた食事を再開する。庵達は余程お腹が空いていたのか、メンチカツが一つ瞬く間に胃の中に収められてしまった。
「はい。稽古をしてもらいました。あと、一歩だったんですが・・・・・・」
「何を言う。一歩も何もないだろう。まだまだだよ青年」
「えっ?あの時は「惜しい!あと一歩」って褒めてくれましたよね?」
「言葉の綾だ。忘れろ、青年!」
二人はやりとりをしながらも、しっかりと食事を胃に収めていく。夜神は二人のやりとりを見ながら自分のペースで食事を平らげていく。
そして、同じぐらいのタイミングで、三人は食事を終わらした。
食後の一服を楽しむようにお茶を飲んでいると、七海が思い出したように夜神に話しかける。
「そう言えば、もうすぐあれの季節だなぁ~夜神?」
「あれってなんですか?」
「・・・・・あれってなに?」
ニヤニヤ顔の七海に、気味悪いと顔に思いっきり描いた夜神は胡乱げな視線を向ける。
「あれは、あ・れ・だよ~・・・・・楽しい、楽しい仮装パーティー。軍恒例の「ハロウィンパーティー」だろう?」
頬杖をし、下から夜神を見上げる視線は、思いっ切り楽しんでいる。
「軍恒例のハロウィンパーティー」・・・・・何とも凄いパワーワードに庵は目を白黒させた。
けど、一旦、落ち着いてみると聞いたことあると思い出す。
いつしか、どこからか、始まったもので、軍の人間が仮装してパーティーを楽しむ。
最初はこじんまりしたものだったが、規模が大きくなり今では体育館を丸々会場にする程だ。
常に、緊張と命の危険との隣り合わせ。たまの息抜きぐらい・・・・・・で、上も認可していると聞いたことがある。
「・・・・・・・・もう、そんな時期なの・・・・」
七海の言葉に暫くたって夜神は、トーンダウンした言葉で明後日の方を見て話していた。
庵から見ても分かる。あきらかに様子が可笑しい。必死に何かを隠すような雰囲気も感じてくる。
「そうだよ~そんな、時期ですよ。でっ!恒例の仮装抽選大会が一週間後にあるからヨロで!」
仮装に抽選?又しても不思議なワードに庵は七海の方を見てしまった。すると、庵の疑問と戸惑いの視線に気づいた七海は、庵の方を見て笑った。
「抽選が気になるんだろう?みんなで仮装しても楽しいんだけど、万が一があるだろう?仮装したまま吸血鬼討伐はなぁ・・・・・・吸血鬼の仮装して吸血鬼討伐も悪くないが、マントは邪魔だしな~・・・・・で、そこでだ!仮装する人間を抽選で決めるんだよ。くじで決めるんだけど、くじのついでに仮装するお題も一緒に決めるんだよ。なんて懇切丁寧なくじだろう。そして、我らが夜神大佐は、学生の時から今に至るまでずっ~~と、見事なまでにくじを当て続ける強運の持ち主でございます!」
夜神に向かって両手をひらひら~とさせながら、何かのエフェクトをしている七海と、思いっ切り苦虫を噛み潰したよう顔をする夜神を、交互に見ながら庵は引っつた顔をした。
けど、そこで違和感を覚えた。学生の時から?それは、つまり・・・・・・
「七海少佐・・・・・「学生の時から」とは?」
「そう、学生諸君は強制的にくじに参加が決まっている!だから、庵青年はくじ決定~・・・・・安心しな!俺も相澤も式部も参加するから!」
屈託のない笑顔でサムズアップをする七海を見て庵は乾いた笑いをするしかなかった。
と、なると夜神大佐は学生の強制参加からずっとくじを引き、何らかのコスプレを毎年しているのか・・・・・見てみたい気もする。
庵の少し邪な気持ちになりかけつつあることなど、一切気づく事なく夜神は顔を赤くして七海に食らいつく。
「元々は、ケルトの季節祭で、一年の終わりと新たな年の始まりを祝うサァオイン祭の・・・・・・」
「はい!ストップ!夜神のハロウィンの説明は耳ダコだから!聞き飽きた!」
手のひらを夜神に向け「stop」のジェスチャーをする。
「と・に・か・く・だ!くじの決定は覆せない。心して挑むんだな夜神~~」
ニヤニヤ顔で無精ひげを撫でる七海に、親の仇~と、言わんばかりの顔を向けていた夜神だったが、突然「あっ!!」と何かを思い出したように声を上げる。
「「?」」
その声に反応する庵達は、夜神を見た。赤くなったり、睨んだり、忙しい夜神の表情が突然、穏やかになり、そして、勝ち誇った顔になる。
何かを確信したその表情は、かえって不気味にも思える。
そして、庵は気づいた。自分達が「ハロウィン」の話をし始めた時から、食堂が不気味なぐらい静かになっているのを。
いつもなら賑やかで、時には変はジャンケン騒動も聞こえるのに、自分達の話を一つも漏らさない勢いで、聞き耳を立てて聞いている。
男女関係なく、学生さえも聞いている事に、庵は居た堪れなくなってきた。
「今年から私はくじを辞退できるもんね!」
「そうなんですか?」
夜神の突然の告白に庵は驚いた。軍のハロウィンは聞いたことあるが、細かな取り決めは知らない。だから、夜神の言葉に驚いた。けど、心のなかでは「残念」の二文字が過ったのは死んでも言わない。
「大佐クラスからはくじは自由参加。そして、私は大佐だもんね!」
自分の軍服の肩の記章を指差し、七海に見せつける。
ほら、見ろ!私は大佐だぞ!・・・・・そんな言葉が聞こえてきそうなほど、夜神の顔は自信に満ち溢れていた。
そして、七海は「しまった!!」と、明らかに焦った顔をする。
━━━━━━勝った!!やっと、やっと開放される。これで公開処刑のような地獄の一日から開放される!!私は勝ったんだ!!
年甲斐もなく夜神は喜んでしまった。毎年、毎年苦行だったパーティーが、今年からは心から楽しめる事に変わったからだ。
夜神が己自身の勝ちを高らかに宣言した途端、食堂の雰囲気は一気に暗く沈む。
ずぅ~~~ん・・・・・そんな効果音が聞こえてきそうなほどだ。中には深い、本当に深いため息も聞こえる。
勝利に酔いしれた夜神だったが、その酔いは七海の不穏な笑顔で掻き消される。
「フッフフふふふ~~この、俺が二手、三手を忘れるわけない!青年と稽古する前に、俺は藤堂元帥のところに行って直談判して来た!!」
その、一言で会場である食堂はどよめき始める。
「直談判?」「さすが、七海少佐!」「もしかして?」「今年もありがとうゴザイマス!」「カメラ買わなきゃ!」
「な、何を直談判したのよ!!」
「はっ、今年は元帥で在られる藤堂元帥もくじに参加することが決まったよ!!ついでに七海中将も!」
「「はいっ?」」「「「!!」」」
勢いで椅子から立ち上がった夜神と、庵の声がハモった。そして、七海達の会話に聞き耳を立ていた周りも、驚きどよめき始める。
「元帥自ら率先してくじをするのに、大佐の夜神は参加しないのか~?大将自ら出てんだぞ~?」
いちいち、語尾を上げて夜神を煽る七海を見て、夜神は色々なことが吹き飛んだ。
「虎次郎っっ!!あんたって人はっっ!!何、元帥達を巻き込んでるのよっ!!」
「俺は、自他ともに認める「お祭り男」だ。楽しい祭りの為なら、ありとあらゆる手を使って盛り上げるのが使命だ!!・・・・・・と、言うわけで夜神!!くじには参加しろよ!!」
七海は空になった食器が乗ったお盆を掴むと、夜神に参くじに参加することを伝えて、脱兎の如く食器返却口に持っていき食堂から消えた。
立ったままの夜神は華麗に退場する七海を只、呆然と見つめるしかできなかった。
七海が食堂からいなくなり、周りがハロウィンの話題で五月蝿くった頃にふっと、正気を取り戻し呟く。
「信じられない・・・・・・虎次郎のバカ!アホ!元帥も元帥だよ・・・・・・庵君・・・・・」
夜神の周りだけ、どんよりとした空気が漂う。何か助けを求める様にも見える夜神に、庵は正直、何と言えば良いのか分からなかった。
ずっと、くじを当て続けコスプレを強制されているのだ。本人的には絶対嫌だろう。そして、やっと免除されると思ったら、まさかの後出しジャンケン。軍のトップが参加するなら、そら、参加しないと、後々が大変だ。
本人は嫌だろうが、正直、俺は大佐のコスプレを見てみたい・・・・・口が裂けても言えないが。
けど、周りもきっと同じ事を考えているのは間違いないだろう。さっきから色んな意味で視線が痛い・・・・・
「神頼みしかないのかなぁ?」
無心になった状態で私は口にしていた。周りの人間が味方になってくれないなら、残りは神様しかいないじゃない・・・・・・・
━━━━━━神様!!そうだ、神様、仏様、キリスト様にも助けを求めるしかない!
「そうだよ、神様に、神社仏閣に行ってお祈りすれば良いんだよ!!」
何かの突破口を見つけた夜神の、どんよりとした周りの空気は一気になくなった。一筋の光が見えたからだ。
庵は夜神の顔色が、元の顔色に戻るのを確かめた。それどころか血色が良くなっているようにも見える。
「庵君!!私、くじをするまでに色々な神社仏閣に行ってお参りする。お賽銭も沢山すれば神様も聞いてくれるかな?そうだ!!庵君も一緒に行こう!!一人より二人の方が聞いてくれるよね!!」
白い瞳の中に、沢山の星が瞬いているようにも見える程、キラキラと輝かせ庵を見る。その勢いに逆らう事など出来るはずもなく、庵は頭がもげる勢いで上下に振る。
「はいっっ!!喜んで!!」
「よし!決まり!善は急げ!軍の中にある神社からお参りしてこよう!!庵も来る?」
テンションがやや上がり気味の夜神は、気付いていない。
周りの視線が痛いぐらいに庵を刺しているのを。中には刺すどころが貫通しているのもある。
そんな、視線の真っ只中に居座る庵は、全力で辞退した。
「すみません!!別件があるので・・・・・・その代わり次からは一緒に参加します」
「うん。分かった。じゃ、行ってくるね~」
夜神は立ったままだったので、そのままお盆を持って返却口に持っていき、食堂の入り口まで行く。軽く振り返り、庵の方に手を振り目的の神社に向かう為、食堂を出ていく。
「「庵海斗大学生!!」」
後ろから数人にフルネームで呼ばれ、庵はギギギィ・・・・・と、油のない機械のように振り返る。
血走った目、鼻息荒く、変なオーラまで見えてくるのは気の所為ではない・・・・・・そんな、様子の軍人達が仁王立ちで立っていた。
「先に言わせてください!!」
「なんだ!!」
ここは先手必勝、コレだけは言わせてくれ!!
「あの場で夜神大佐に逆らったら自分は間違いなく「床と壁と友達」になる運命です。なので夜神大佐に同意しました。けど、心の中は「是非、見せて下さい!!」と何万回も叫びました。そして、聞いた通り、間違いなく夜神大佐は事ある事に神社仏閣に行くでしょう。そして、自分も付き合う事は間違いないです。夜神大佐は絶対に阻止するために神頼みする事は間違いないです。そして、自分は「夜神大佐は絶対にくじを当てて下さい」と願います。願いを相殺させます。本当です!信じて下さい!!」
唾を飛ばし、大きくした身振り手振りで周りに力説する。その様子は鬼気迫るものだった。
その、圧倒的な様子に周りにいた軍人達も納得していく。
「分かった。庵大学生を信じよう」
その言葉にホッとする。そして、次に悩ましい問題を提訴する。
「ありがとう御座います・・・・・きっと夜神大佐は信じられない額の賽銭をするでしょうね・・・・・・・」
あの勢い・・・・・・きっと一万円とか平気で賽銭箱に投げ込みそうだ。
「なら、俺は千円カンパする」
「俺は、五千円!」
「「私も!」」
「千円でいい?」
庵の直訴を聞いた軍人達は財布から賄賂もとい、カンパのお金をテーブルに乗せ、お札の山が瞬く間に出来上がる。それだけ、みんなは本気で夜神大佐の仮装を楽しみにしているのが分かる。
吸血鬼の世界に無理矢理連れて行かれ、心身ともに傷付き帰ってきた。他の仲間に受け入れられるのかと不安がっていたが、この様子を見るとそれは杞憂だったのかもしれない。
庵は周りに与える夜神の凄さを改めて感じると共に、目の前のお札の山を見て、己のしなくてはいけない任務を改めて思い知る。
「絶対に、夜神大佐には仮装をしてもらいましょう!!みなさんの気持ちを!願いを!神様に届けます!!」
庵の高らかな宣言に、食堂は拍手喝采に包まれた。
そして、夜神と庵の不毛な戦いは静かに始まった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
元々、話の中に組み込んでいたハロウィンのネタでしたが、この話を入れると物語が余計に長くなると思い、断念したものです。
もうすぐハロウィンも近いので今回、番外編という形で描きました。
庵青年が七海達から渡された「大人の恋セット」の白いベビードールの回で「まるでハロウィンみたい」と言っているシーンがあります。その謎はこれから解き明かされるでしょう。最後まで楽しんでください!!
さて、ノリの良い「吸血鬼殲滅部隊」のみなさん。そして、話は仮装くじ引きに続きます。
引き続きお楽しみくださいね~
ここまで読んで下さってありがとうございます
宜しければ応援お願いします。応援で狂喜乱舞しております。
応援してくださる皆様方、本当にありがとうございます。
楽しんで下されば幸いです。
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まだ、ジリジリと肌に降り注ぐ太陽の光は熱く、着ている軍服は夏仕様と言えど、熱いものは熱い。
そんな日の昼休み、夜神は食堂に行き、一人、昼御飯を食べていた。
庵君は虎次郎にどこかに連れて行かれた。きっと、二人仲良く稽古に励んでると思い、特に探すことはしない。
━━━━━異種対抗稽古・・・・・きっと庵君の力になること間違いなしなので、ここは温かく見守ろう。
夜神は自分の中で完結させ、溜まっていた書類仕事をし、昼休みの合図とともに部屋から食堂に移動した。
一番乗りといきたかったが、既に先客がいた食堂は賑やかで、ここだけ見ると軍の中とは思えない程だ。どちらかと言えば学生の食堂のような賑やかさである。
そんな、活気ある中を進み、自分が今、食べたいものを注文する。今日の気分は揚げ物で、隠れファンも多いメンチカツを注文し食べていた。
二つあるうちの一つのメンチカツを食べ切ろうとする頃に、虎次郎と一緒に庵君も食堂にやって来て、夜神の席に来る。
「お~お~夜神!今日はメンチかぁ~~ど~しようかなぁ~・・・・・庵青年、我々は何を食べようかね~」
「迷いますよね・・・・・・」
七海の言葉に真剣に悩みながら、夜神のいた席から一旦、離れ食事の受け渡し場所に二人で相談しながら歩いていく。
夜神は食事を中断し、二人が戻ってくるのをお茶を飲みながら待った。
数分後、お盆を持った二人は戻って来て、空いている椅子に座る。
二人のお盆は夜神と同じくメンチカツが乗っていたが、夜神と違うのはご飯と漬物が大盛りなぐらいだろう。
「いただきます」
七海が行儀良く手を合わせ挨拶する。一歩遅れて庵も挨拶をし食べ始める。
「庵君は虎次郎と何していたの?稽古?」
二人が食べ始めたので、中断していた食事を再開する。庵達は余程お腹が空いていたのか、メンチカツが一つ瞬く間に胃の中に収められてしまった。
「はい。稽古をしてもらいました。あと、一歩だったんですが・・・・・・」
「何を言う。一歩も何もないだろう。まだまだだよ青年」
「えっ?あの時は「惜しい!あと一歩」って褒めてくれましたよね?」
「言葉の綾だ。忘れろ、青年!」
二人はやりとりをしながらも、しっかりと食事を胃に収めていく。夜神は二人のやりとりを見ながら自分のペースで食事を平らげていく。
そして、同じぐらいのタイミングで、三人は食事を終わらした。
食後の一服を楽しむようにお茶を飲んでいると、七海が思い出したように夜神に話しかける。
「そう言えば、もうすぐあれの季節だなぁ~夜神?」
「あれってなんですか?」
「・・・・・あれってなに?」
ニヤニヤ顔の七海に、気味悪いと顔に思いっきり描いた夜神は胡乱げな視線を向ける。
「あれは、あ・れ・だよ~・・・・・楽しい、楽しい仮装パーティー。軍恒例の「ハロウィンパーティー」だろう?」
頬杖をし、下から夜神を見上げる視線は、思いっ切り楽しんでいる。
「軍恒例のハロウィンパーティー」・・・・・何とも凄いパワーワードに庵は目を白黒させた。
けど、一旦、落ち着いてみると聞いたことあると思い出す。
いつしか、どこからか、始まったもので、軍の人間が仮装してパーティーを楽しむ。
最初はこじんまりしたものだったが、規模が大きくなり今では体育館を丸々会場にする程だ。
常に、緊張と命の危険との隣り合わせ。たまの息抜きぐらい・・・・・・で、上も認可していると聞いたことがある。
「・・・・・・・・もう、そんな時期なの・・・・」
七海の言葉に暫くたって夜神は、トーンダウンした言葉で明後日の方を見て話していた。
庵から見ても分かる。あきらかに様子が可笑しい。必死に何かを隠すような雰囲気も感じてくる。
「そうだよ~そんな、時期ですよ。でっ!恒例の仮装抽選大会が一週間後にあるからヨロで!」
仮装に抽選?又しても不思議なワードに庵は七海の方を見てしまった。すると、庵の疑問と戸惑いの視線に気づいた七海は、庵の方を見て笑った。
「抽選が気になるんだろう?みんなで仮装しても楽しいんだけど、万が一があるだろう?仮装したまま吸血鬼討伐はなぁ・・・・・・吸血鬼の仮装して吸血鬼討伐も悪くないが、マントは邪魔だしな~・・・・・で、そこでだ!仮装する人間を抽選で決めるんだよ。くじで決めるんだけど、くじのついでに仮装するお題も一緒に決めるんだよ。なんて懇切丁寧なくじだろう。そして、我らが夜神大佐は、学生の時から今に至るまでずっ~~と、見事なまでにくじを当て続ける強運の持ち主でございます!」
夜神に向かって両手をひらひら~とさせながら、何かのエフェクトをしている七海と、思いっ切り苦虫を噛み潰したよう顔をする夜神を、交互に見ながら庵は引っつた顔をした。
けど、そこで違和感を覚えた。学生の時から?それは、つまり・・・・・・
「七海少佐・・・・・「学生の時から」とは?」
「そう、学生諸君は強制的にくじに参加が決まっている!だから、庵青年はくじ決定~・・・・・安心しな!俺も相澤も式部も参加するから!」
屈託のない笑顔でサムズアップをする七海を見て庵は乾いた笑いをするしかなかった。
と、なると夜神大佐は学生の強制参加からずっとくじを引き、何らかのコスプレを毎年しているのか・・・・・見てみたい気もする。
庵の少し邪な気持ちになりかけつつあることなど、一切気づく事なく夜神は顔を赤くして七海に食らいつく。
「元々は、ケルトの季節祭で、一年の終わりと新たな年の始まりを祝うサァオイン祭の・・・・・・」
「はい!ストップ!夜神のハロウィンの説明は耳ダコだから!聞き飽きた!」
手のひらを夜神に向け「stop」のジェスチャーをする。
「と・に・か・く・だ!くじの決定は覆せない。心して挑むんだな夜神~~」
ニヤニヤ顔で無精ひげを撫でる七海に、親の仇~と、言わんばかりの顔を向けていた夜神だったが、突然「あっ!!」と何かを思い出したように声を上げる。
「「?」」
その声に反応する庵達は、夜神を見た。赤くなったり、睨んだり、忙しい夜神の表情が突然、穏やかになり、そして、勝ち誇った顔になる。
何かを確信したその表情は、かえって不気味にも思える。
そして、庵は気づいた。自分達が「ハロウィン」の話をし始めた時から、食堂が不気味なぐらい静かになっているのを。
いつもなら賑やかで、時には変はジャンケン騒動も聞こえるのに、自分達の話を一つも漏らさない勢いで、聞き耳を立てて聞いている。
男女関係なく、学生さえも聞いている事に、庵は居た堪れなくなってきた。
「今年から私はくじを辞退できるもんね!」
「そうなんですか?」
夜神の突然の告白に庵は驚いた。軍のハロウィンは聞いたことあるが、細かな取り決めは知らない。だから、夜神の言葉に驚いた。けど、心のなかでは「残念」の二文字が過ったのは死んでも言わない。
「大佐クラスからはくじは自由参加。そして、私は大佐だもんね!」
自分の軍服の肩の記章を指差し、七海に見せつける。
ほら、見ろ!私は大佐だぞ!・・・・・そんな言葉が聞こえてきそうなほど、夜神の顔は自信に満ち溢れていた。
そして、七海は「しまった!!」と、明らかに焦った顔をする。
━━━━━━勝った!!やっと、やっと開放される。これで公開処刑のような地獄の一日から開放される!!私は勝ったんだ!!
年甲斐もなく夜神は喜んでしまった。毎年、毎年苦行だったパーティーが、今年からは心から楽しめる事に変わったからだ。
夜神が己自身の勝ちを高らかに宣言した途端、食堂の雰囲気は一気に暗く沈む。
ずぅ~~~ん・・・・・そんな効果音が聞こえてきそうなほどだ。中には深い、本当に深いため息も聞こえる。
勝利に酔いしれた夜神だったが、その酔いは七海の不穏な笑顔で掻き消される。
「フッフフふふふ~~この、俺が二手、三手を忘れるわけない!青年と稽古する前に、俺は藤堂元帥のところに行って直談判して来た!!」
その、一言で会場である食堂はどよめき始める。
「直談判?」「さすが、七海少佐!」「もしかして?」「今年もありがとうゴザイマス!」「カメラ買わなきゃ!」
「な、何を直談判したのよ!!」
「はっ、今年は元帥で在られる藤堂元帥もくじに参加することが決まったよ!!ついでに七海中将も!」
「「はいっ?」」「「「!!」」」
勢いで椅子から立ち上がった夜神と、庵の声がハモった。そして、七海達の会話に聞き耳を立ていた周りも、驚きどよめき始める。
「元帥自ら率先してくじをするのに、大佐の夜神は参加しないのか~?大将自ら出てんだぞ~?」
いちいち、語尾を上げて夜神を煽る七海を見て、夜神は色々なことが吹き飛んだ。
「虎次郎っっ!!あんたって人はっっ!!何、元帥達を巻き込んでるのよっ!!」
「俺は、自他ともに認める「お祭り男」だ。楽しい祭りの為なら、ありとあらゆる手を使って盛り上げるのが使命だ!!・・・・・・と、言うわけで夜神!!くじには参加しろよ!!」
七海は空になった食器が乗ったお盆を掴むと、夜神に参くじに参加することを伝えて、脱兎の如く食器返却口に持っていき食堂から消えた。
立ったままの夜神は華麗に退場する七海を只、呆然と見つめるしかできなかった。
七海が食堂からいなくなり、周りがハロウィンの話題で五月蝿くった頃にふっと、正気を取り戻し呟く。
「信じられない・・・・・・虎次郎のバカ!アホ!元帥も元帥だよ・・・・・・庵君・・・・・」
夜神の周りだけ、どんよりとした空気が漂う。何か助けを求める様にも見える夜神に、庵は正直、何と言えば良いのか分からなかった。
ずっと、くじを当て続けコスプレを強制されているのだ。本人的には絶対嫌だろう。そして、やっと免除されると思ったら、まさかの後出しジャンケン。軍のトップが参加するなら、そら、参加しないと、後々が大変だ。
本人は嫌だろうが、正直、俺は大佐のコスプレを見てみたい・・・・・口が裂けても言えないが。
けど、周りもきっと同じ事を考えているのは間違いないだろう。さっきから色んな意味で視線が痛い・・・・・
「神頼みしかないのかなぁ?」
無心になった状態で私は口にしていた。周りの人間が味方になってくれないなら、残りは神様しかいないじゃない・・・・・・・
━━━━━━神様!!そうだ、神様、仏様、キリスト様にも助けを求めるしかない!
「そうだよ、神様に、神社仏閣に行ってお祈りすれば良いんだよ!!」
何かの突破口を見つけた夜神の、どんよりとした周りの空気は一気になくなった。一筋の光が見えたからだ。
庵は夜神の顔色が、元の顔色に戻るのを確かめた。それどころか血色が良くなっているようにも見える。
「庵君!!私、くじをするまでに色々な神社仏閣に行ってお参りする。お賽銭も沢山すれば神様も聞いてくれるかな?そうだ!!庵君も一緒に行こう!!一人より二人の方が聞いてくれるよね!!」
白い瞳の中に、沢山の星が瞬いているようにも見える程、キラキラと輝かせ庵を見る。その勢いに逆らう事など出来るはずもなく、庵は頭がもげる勢いで上下に振る。
「はいっっ!!喜んで!!」
「よし!決まり!善は急げ!軍の中にある神社からお参りしてこよう!!庵も来る?」
テンションがやや上がり気味の夜神は、気付いていない。
周りの視線が痛いぐらいに庵を刺しているのを。中には刺すどころが貫通しているのもある。
そんな、視線の真っ只中に居座る庵は、全力で辞退した。
「すみません!!別件があるので・・・・・・その代わり次からは一緒に参加します」
「うん。分かった。じゃ、行ってくるね~」
夜神は立ったままだったので、そのままお盆を持って返却口に持っていき、食堂の入り口まで行く。軽く振り返り、庵の方に手を振り目的の神社に向かう為、食堂を出ていく。
「「庵海斗大学生!!」」
後ろから数人にフルネームで呼ばれ、庵はギギギィ・・・・・と、油のない機械のように振り返る。
血走った目、鼻息荒く、変なオーラまで見えてくるのは気の所為ではない・・・・・・そんな、様子の軍人達が仁王立ちで立っていた。
「先に言わせてください!!」
「なんだ!!」
ここは先手必勝、コレだけは言わせてくれ!!
「あの場で夜神大佐に逆らったら自分は間違いなく「床と壁と友達」になる運命です。なので夜神大佐に同意しました。けど、心の中は「是非、見せて下さい!!」と何万回も叫びました。そして、聞いた通り、間違いなく夜神大佐は事ある事に神社仏閣に行くでしょう。そして、自分も付き合う事は間違いないです。夜神大佐は絶対に阻止するために神頼みする事は間違いないです。そして、自分は「夜神大佐は絶対にくじを当てて下さい」と願います。願いを相殺させます。本当です!信じて下さい!!」
唾を飛ばし、大きくした身振り手振りで周りに力説する。その様子は鬼気迫るものだった。
その、圧倒的な様子に周りにいた軍人達も納得していく。
「分かった。庵大学生を信じよう」
その言葉にホッとする。そして、次に悩ましい問題を提訴する。
「ありがとう御座います・・・・・きっと夜神大佐は信じられない額の賽銭をするでしょうね・・・・・・・」
あの勢い・・・・・・きっと一万円とか平気で賽銭箱に投げ込みそうだ。
「なら、俺は千円カンパする」
「俺は、五千円!」
「「私も!」」
「千円でいい?」
庵の直訴を聞いた軍人達は財布から賄賂もとい、カンパのお金をテーブルに乗せ、お札の山が瞬く間に出来上がる。それだけ、みんなは本気で夜神大佐の仮装を楽しみにしているのが分かる。
吸血鬼の世界に無理矢理連れて行かれ、心身ともに傷付き帰ってきた。他の仲間に受け入れられるのかと不安がっていたが、この様子を見るとそれは杞憂だったのかもしれない。
庵は周りに与える夜神の凄さを改めて感じると共に、目の前のお札の山を見て、己のしなくてはいけない任務を改めて思い知る。
「絶対に、夜神大佐には仮装をしてもらいましょう!!みなさんの気持ちを!願いを!神様に届けます!!」
庵の高らかな宣言に、食堂は拍手喝采に包まれた。
そして、夜神と庵の不毛な戦いは静かに始まった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
元々、話の中に組み込んでいたハロウィンのネタでしたが、この話を入れると物語が余計に長くなると思い、断念したものです。
もうすぐハロウィンも近いので今回、番外編という形で描きました。
庵青年が七海達から渡された「大人の恋セット」の白いベビードールの回で「まるでハロウィンみたい」と言っているシーンがあります。その謎はこれから解き明かされるでしょう。最後まで楽しんでください!!
さて、ノリの良い「吸血鬼殲滅部隊」のみなさん。そして、話は仮装くじ引きに続きます。
引き続きお楽しみくださいね~
ここまで読んで下さってありがとうございます
宜しければ応援お願いします。応援で狂喜乱舞しております。
応援してくださる皆様方、本当にありがとうございます。
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え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
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