ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

文字の大きさ
142 / 325

120

しおりを挟む
庵に向けられた微笑みをみて、庵は改めて自分の実力で掴んだ結果をしみじみと感じた。そして、一歩前進したと思った。

━━━━舞台が出来た。あとは想いを伝えるのみだ━━━

七海の顔を真剣な眼差しで見る。その目線に気が付いた七海はふざけるのをやめた。庵がこれから何をするのかを悟ったのだ。

「夜神大佐!」
「どうしたの?」
庵は夜神の名前を呼ぶ。七海中佐が以前「イメトレしとけよ」と言われて、本気で何回かイメトレしてしまった。それが現実になってしまう。

「今から、剣術稽古をお願い出来ませんか?今、すごく体を動かしたいんです!解放された喜びなんですかね?いいでしょうか?」
夜神に分からないように、連れ出すのはこれが一番だと考えての言葉だった。

夜神は少しだけ考えてしまったが、本人がしたがっているのだから、特に止める理由もないので了承する。
「いいよ。解放されたから動きたいんだもんね。長谷部室長、学生はこの後何か予定はあるのでしょうか?」
夜神は長谷部室長に今後の予定を確認する。記憶だと特に何もなかったと思うが、念の為の確認だ。
「いや、特にない。体を動かすのはいいが、程々にするように。特に夜神大佐」

無表情の長谷部は夜神を見て話す。幾らかはましになったと言え、夜神の教育方法は嵐山大佐と似ているのだ。やり方は、他の人間なら逃げ出す。ついてこられたのは、後にも先にも夜神ただ一人だ。

「分かってます。ちゃんと程々にしてますから、安心して下さい」
七海に言われて以来、加減はしている。それでも足りないのだろうか?
「ならばいい。庵学生も体を動かすのはいいが程々に」
「分りました。それでは失礼します」
「私も失礼します」
二人で敬礼をして部屋を出ていく。その時、七海は庵に向かってサムズアップしていた。それもかなりの良い笑顔付きで。
それを見ていた式部大尉以外は、怪訝な顔を七海に向けていたが、式部大尉だけは何故かキラキラとした目を庵に向けていた。

第二剣道場に向かった庵の後を夜神は歩く。「個人練習の所でいいですか?」と言われて、特に断る理由もなかったので了承したが、今更ながら「なぜ?」と思ってしまう。

道場に着いて、防具を身に着けるのかと思ったら「このままでお願いします」と言われ益々、庵の行動が分からなくなったが、真剣な顔で見つめるので、この話も了承する。

竹刀同士が打ち合う、乾いた音を道場に響かせて、軍服姿の男女が竹刀を振るう。
鍔迫り合いが続いたが、勝負はすぐに決着がついた。
夜神が竹刀を弾いて、寸止めで喉元に剣先を突き付ける。
庵は一瞬「当たった!」と錯覚してしまったが、皮膚一枚のスレスレの所で止まり、「ゴクリッ」と唾を飲んでしまう。

「勝負ありかな?」
「そのようです。ありがとうございます」
互いに礼をする。そして、夜神は口を開く。
「どうして防具なしにしたの?体を動かしたかったのでは?」
疑問だったことを聞く。部屋では「体を動かしたい」と言っていたが、これでは本末転倒である。動かすどころか、当たらないように気にして逆に動きづらい。

「すみません。どうしても防具があると色々とありまして・・・・」
言葉を濁す庵に、益々怪訝な顔をする。庵は気まずそうだったが、何かを決意したのかいきなり正座をする。

「夜神大佐も座っていもらえませんか?」
「うん、いいけど・・・・?」
庵に促されて、夜神も向かい合わせで正座をして、庵をジッと見る。
「以前、テストで一位を取ったら、伝えたいことがあると言いましたが、覚えてますか?」
庵君が以前、剣道場で言った言葉だ。もちろん覚えている。
「覚えているよ?もしかして一位になったご褒美の事?」
考えられそうな事を、夜神は口に出す。結果が良かったのだ。何か褒美を強請るのは考えられる事の一つだ。

「それに似ているかもしれませんが、違います」
庵は少し困った表情をするが、すぐに真剣な表情になる。
「四月の初め、第一室に自分が来た時の印象は、大佐から見てどうでした?」
「四月?」
庵から、初めて見た時の印象を聞かれる。それは今でも覚えている。けど、懐かしくもある。
「覚えているよ。自信なさげで「ここにいても良いのだろうか?」って顔に書いていたのを覚えている」

それを聞いて庵は苦笑いをした。あの時は本当に自信がなかったし、場違いなのではと本気で思っていたからだ。
「あの時は運命の悪戯とか本気で思いました。特に教育係を誰にするかと言う時に、まさか夜神大佐が挙手するとは思ってもみなかったんです。「軍最強」の夜神大佐が「教育係」なんて、今でも時々信じられないんですよ?」

「あの時は、自信のない庵君を見ていて「そんな事ない」と思ってしまったんだよね。少しでも力になりたくて「教育係」になったんだけど、どうだった?少しは自信ついた?」
正座しているがそれでも身長差がある為、少し見上げている夜神の表情は、いつもの表情だが、少しだけ不安の色が見える。

「最初は戸惑うばかりでした。けど、夜神大佐が想像していた人と違って、なんと言いますか・・・・・流されないと言うか、周りを気にしないと言うか・・・・・」
物凄く、言葉に詰まる。自分が周りからどんな目で見られているか、分かってないのだ。
強さからの憧れもあるが、それ以上のものもある事に全く分かってない。
本人も「強さ」での「尊敬」は分かっているみたいだが、「女性」や「異性」の部分を理解していないのか、しないようにしているのかはあやふやだが、それに関しては全くもって皆無だ。

どもる庵を見て夜神は「?」になってしまったが、何とか言葉を出そうとしている様子を見て、声をかける事はやめて続きを待つことにする。
「・・・・そんな夜神大佐と一緒に、勉強や稽古をしていくうちに憧れも大事だけど、自分に自信がないと次に進まないことを教えて貰ったと思います。とくに、前半のテストで大佐が「五位以内」と言っていたことが、現実になった時は本当にそうだと思いました」

「あれは庵君が頑張ったからだよ。私達はその手伝いをしただけ。けど、良かった。自信がついたのなら、この先何処に配属されても頑張れるね」
希望が叶うなら第一室に配属されて欲しい。テストで一位になった者は、希望の所属先を伝えることは出来る。ただ、受け入れるところが拒否するとそれは叶わない。
けど、もし、庵君が第一室と希望するならば、私は全力で部屋の皆を説得して、配属を願い出るつもりでいる。

庵の真剣な眼差しと、夜神の優しい眼差しが絡まる道場で、庵は更に言葉を続けていく。自分の想いを伝えるために。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

つかまえた 〜ヤンデレからは逃げられない〜

りん
恋愛
狩谷和兎には、三年前に別れた恋人がいる。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

処理中です...