ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

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「遅い!!」
竹刀が面を直撃する。いつもよりも重い衝撃で一瞬、目の前に星が飛ぶ感覚がした。
「何度死ねば気がすむの?」
「すみません!!もう一度お願いします!!」
互いに任務をやり遂げると意思確認した後、早速竹刀を振り始める。

が、夜神の一方的な攻撃に庵が四苦八苦しているようにも見える。
竹刀同士がぶつかる音が道場に響く。そして、ドサッと重い音がする。
何度も果敢に挑む。竹刀を振り上げながら夜神に向かっていくが、構えたまま動かない夜神はまるで山のように見える。
そして、渾身の一撃を食らわそうと振り上げた竹刀をそのまま振り下ろすが、横に竹刀を構えてそれを受け流す。
受け流されてしまったがそのまま、抜けざまに胴を狙おうとしたが、横に構えた竹刀をそのまま切っ先を下にするように、縦に構えて庵の竹刀を受けてそのまま打ち上げて、その反動を利用して、反対のがら空きの胴に思いっきり打ち込む。

防具をしてるとはいえ、その衝撃はかなり重く、立っているのも困難でまたもやドサッと尻餅をついてしまう。
普段の稽古がいかに優しい稽古なのか、その身に起こった事で改めて知らされる。

あれだけ動いているのに息一つ乱さず、静かに構える夜神を見て少し恐怖する。
例えるなら山だ。動かすことをが困難な山に立ち向かうなど愚かにも等しい。
「風林火山」この言葉が今の夜神にはピッタリと当てはまる。

けど、立ち向かわないといけない。これから相手するのは人の倍の身体能力をもつ吸血鬼だ。
それも、吸血鬼の中でも「高位クラス」と言われる更に強い吸血鬼に立ち向かっていく。
生半可な覚悟は「死」に直結している。

「もう一度お願いします!!」

庵は限界に近づいた体を奮い立たせてもう一度立ち上がる。
例え、何があろうと守りたいものがあるから。
自分のように、大切な人を失う悲しみを繰り返してはいけない。父親のように・・・・・・

そして、愛している人にこれ以上の苦しみを味あわせたくない。家族を集落を先生を、目の前で奪われて自分も辛い目にあったのに、それでも立ち上がり続ける夜神凪に・・・・・


「ありが、とう・・・ございま、した・・・・・」
何とかして挨拶するとその場に突っ伏してしまう。
「い、たい・・・・死ぬ・・・・」
ゼーゼー、ハーハーと荒い息を繰り返しながら呼吸する庵を見て夜神は普段と変わらない微笑みをする。
「頑張ったね。けど、まだまだ序の口だからね?明日も頑張ろうね」
息一つ荒れることなく、普段と変わらない態度に庵は改めて夜神の凄さに敬服してしまう。

あれだけ打ち込んだのに、夜神には一切当たらなかった。それどころか、打ち込んだら打ち込むだけ倍の力で打ち込まれる。そして、その一撃一撃が重い。
軍最強の呼び名は伊達じゃないと身に染みる。
その、軍最強は少しだけ寂しそうに笑いながら手を差し出す。
「大丈夫?庵君」
「大丈夫じゃないです。けど、ありがとうございます。明日もお願いします」
夜神の手を握り上半身を起こしていく。

「明日は七海中佐の隊の人達にお願いして訓練していこう。相手は槍も使うからね。色々と想定しておくことは大事だからね」
「分かりました。もう少しだけ休んでから部屋に戻りますので、夜神大佐お先にどうぞ。防具等は片付けますのでその場に置いておいて構いませんから」

体が回復しない為、少しだけ休まないと無理だと思い庵は夜神に訴える。
それを聞いた夜神も理解したようで、その訴えを聞き入れる。
「分かった。ゆっくり休んでね。あとの事はお願いね」
そう言って甲手と竹刀を置いて道場を後にする。

夜神は防具は甲手しか身に着けなかった。最初見た時は驚いたが、打ち合いをしだして分かった。
一切当たらなかったのだ。「当たる!!」と思ってもギリギリのところで躱されてしまい、結局は自分が打たれるの繰り返し。
夜神も分かっていたから、念の為の甲手のみで庵と打ち合いをしていたかと思うと少しだけ歯痒い。
いつになったら近づけるのか、少しでも追いつきたいのに・・・・・
その背中に追いつくのはまだなのかと思うと、ため息が勝手に漏れていた。



それから夜神に言われた通り、七海隊をはじめとした第一室の人達や長谷部中佐が時々訓練に手を貸してくれる。
それも、今までと比べると明らかにパワーもスピードも違う。

それについていくのが精一杯で、反撃の一つもしてやりたいと気持ちはあっても、体が追い付かない。
常に床に突っ伏しているような気がしていた。

そして、それが続いたある日、とうとう、庵が覚悟を決めないといけない日が訪れた。
それは、相澤中佐と久慈学生と三人で射撃訓練をしている時だった。

けたたましいサイレン音と共に吸血鬼が現れたことと、担当する部屋が繰り返し放送される。
その中に庵の名前も繰り返し言われ続けた。
「っ・・・・・とうとうか」
それを聞いて一人呟いていた。
覚悟を決める時だと・・・・・・
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