ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

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チャプン・・・・・
猫脚のバスタブの湯船には強香種と言われる香りの強い薔薇の花びらが浮かんでいるせいか、お風呂場全体に薔薇の匂いがする。

部屋で一人、泣いていたが侍女長達が来ていつもの様にお風呂場に連れて行かれる。
そして、「綺麗にします」と一言、告げると顔色一つ変えず夜神の中の皇帝の残滓を掻き出していく。
そして、キメ細やかな泡で体を洗われて、湯船に浸かる。長時間入ることを考慮してるのか、温めの温度のお湯が心地良いと感じてしまう。
夜神が湯船に浸かると、今度は髪を洗われる。香油を垂らして丹念にマッサージされ、そこから洗髪していく。
その間、手は他の侍女がマッサージしたり、整えていく。

爪を整えていく行為に慄いてしまう。確かにあの行為は侍女長がしていた事だが、あの時の侍女長はいない。今、現在、侍女長と言われている人物はあの時、副侍女長の立場にいた人物だ。
あの時の侍女長は心神喪失で退職したと、目の前の侍女長に言われた。
けど、たとえ人物が変わろうとされた事は未だに心に残る。

何か緊張しながら、普段ならここまでされない長時間のお風呂に疲弊してしまった。
そして、湯船からあがると今度は体を拭われて、香油を丹念に塗り込まれていく。
それは髪も同じだった。髪を乾かしている間に食事を摂らされる。
食事が終わると化粧をされたり髪を結われたり、普段ならしないコルセットをされる。後ろの紐をギュウ、ギュウに絞められる。
慣れない締め付けに内心「やめてくれ」と思っていたが、逆らう事は出来ない。

結局はされるがままでいるしかない。どれだけ嫌がって足掻こうと、意味がないからだ。
もし、足掻けば、何かしらを人質にされる。人を、世界を。
なら、自分が傷付くだけならそれに越したことはない。
足掻けば足掻くほど、自分の首を締めていくからなら、いっその事従ったほうがいい。

コルセットをしていき、ストッキングを履いて、パニエを身に着けてと、ドレスを着るのもこんなに身につけないといけないものがある事に夜神は疲弊する。
いったい、なんの為にここまで私は着飾らないといけないのか?そんな疑問が山のように溢れてくる。
けど、そんな疑問も通り過ぎるように着々と、鏡の前の自分は完成されていく。

ドレスはサテン地のしっかりとした生地で、オフショルダーになっている。お腹辺りに印象的な薔薇の刺繍があり、よくよく見ると金糸、銀糸が混じり華やかな印象を与える。
ドレスは切り返しがあり、裾にかけてレースが大量に使われている。
手袋も同じレースを使った肘上までのフィンガーレスグローブで、所々お腹辺りの刺繍と同じものがこちらにも刺繍されている。
ネックレスとイヤリングは深い赤色のレッド・ジルコンを主に使っている。
ビブネックレスは華やかではあるけど、首輪のようにも見えて滑稽だ。

けど一番、印象的なのは、ドレスの「色」かもしれない。
朱殷色しゅあんいろのドレスなのだ。時間がたった血のように暗い朱色、血の色や血染めの色など、悲惨な様子を伝える色に使われる色なのだ。
これを選んだ皇帝は、どんな意味合いを持って選んだのか聞いてみたい。

最後の仕上げで口紅を塗られる。コーラル系の肌なじみのいい色合いだが、なにかチグハグするような印象を与える。けど、すでにどうでもいいと思っている夜神は気にすることもなかった。

全てが終わり、慣れない裾捌きに悪戦苦闘しながらソファに腰掛けて休憩していると皇帝がやって来る。
いつもの詰め襟の軍服ではなく、貴族、王族らしい格好だと余りファッションの知識がない夜神はチラ見して思った。

白いシャツにクラバット
クラバットには夜神と同じレッド・ジルコンの宝石が留められている。
ウエストコートやコートは黒地で、縁飾りに銀糸で蔦薔薇が刺繍されている。黒いトラウザーズに艶めく革靴、同色の黒いマントだが、裏打ちされたのはドレスと同じ朱殷色。

アイスシルバーの髪は普段のように緩くではなく、かっちりと結び、前髪も後ろに撫でつけている。
そのせいで、右目の傷が目立っている。

「あぁ、とても似合っているね・・・・・さぁ、行こうか?」
黒い手袋に包まれた手を差し出す皇帝に、感情のない瞳を向けると、無言で立ち上がる。
「最後まで、我儘な小鳥だね?凪ちゃん・・・・・まぁ、いいよ。行こうか」
無理矢理、手のひらを掴まれて一瞬、慄く。けど、それを気にすることもなく皇帝は夜神の腰回りに手を巻いていく。

完璧なエスコート
けど、夜神にとっては邪魔でしかない。可能ならば今すぐ引き離したい。そんな思いしていたが無常にもエスコートされて、部屋を出ていく。



重厚感ある扉の前で緊張してしまう。人の気配がすぐに分かる。それも沢山だ。
その気配は、どれも殺意あるものばかりで背中に冷たいものがの伝う。いつの間にか息を殺し、足を踏み込んでいた。
「大丈夫だよ、凪ちゃん。みんな歓迎してくれてるからね?」
明らかにこちらの感情を理解しているが、何が楽しいのか真逆のことを言ってこちらの反応を楽しんでいる。
皇帝程の実力なら扉の向こうの気配など、造作もなく分かるだろう。
分かっていながら、こちらの反応を楽しむなど、いったいどこまで貶めたいのか・・・・・

「・・・・・・・・」
何も言わず、飾り彫りされた飴色の扉を見ていた。
すると、ギィィ━━━と、重い音をたてて扉が開かれる。
眩しくて一瞬、顔をしかめる。そして、目の前には物語のような世界が広がっていた。

広い部屋には夜神のようなドレス姿の女性や、皇帝の着ている服装をした男性がいた。
自分達の歩くであろう所にはテレビでよく見る、緋色の絨毯が一直線で玉座まで伸びている。
その絨毯を境界線にして部屋に居た吸血鬼は、一斉にこちらに目を向ける。
「っぅ・・・・・」
余りの圧倒的な雰囲気に夜神は息を呑んだ。
その視線は歓迎の視線ではない。今にも飛びかかろうとする殺意、怨嗟、蔑む、憎しみそれらの負の感情が一斉に降りかかる。

知らず知らずのうちに足が震えだす。腰に手を回し密着している皇帝はすぐにでも分かっただろう。「クスッ」とこちらの反応を楽しんでいる鼻にかけた笑いをしていた。
「行こうか」
皇帝が歩き始める。それにつられて震える足が動き出す。

吸血鬼達は、皇帝が歩き始めると一斉に膝を折り深々と頭を下げる。その中を緋色の絨毯の上を歩いていくと、中程に一脚の椅子がある。
猫脚で、背もたれや肘掛けは滑らかな曲線で、白い座面は見るからにふかふかとして座り心地はいい椅子だった。
「凪ちゃんはこの椅子に座っていいからね」
そう言って、夜神を椅子に座らせると、自分は絨毯を歩いていき階段を登り玉座の前には立つ。

「面をあげよ」

威厳ある声で頭を下げる吸血鬼に一言、告げると吸血鬼達は一斉に立ち上がり皇帝の方を見る。
夜神は急に怖くなり、無意識に胸辺りの布を掴んでいた。
これから何が始めるのか。一体何が起こるのか。
何も聞かされていないし、そして、ここは敵の中心地。
武器も一切持たされていない夜神が、万が一ここで戦闘になったら確実に「死」しかない。
これだけの吸血鬼、それもクラス的にはSやAクラス。WダブルTトリプルも多いだろう。

ゴクッ・・・・
唾を飲み込む

生きた心地のしない空間に、孤立無援。周りは敵だらけ。四面楚歌もいいところだ。
一体、こんなに地獄のような空間で皇帝は何をするのか?させたいのか?
夜神は緊張した面持ちで皇帝を見上げる。
その、皇帝は愉悦の眼差しで夜神を見ると、唇を歪めて笑い、良く響くバリトンの声で周りの吸血鬼に話し始める

「我が、同胞達よ・・・・ご機嫌はいかがかな?」
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