ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

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涙が伝う頬を優しく撫でて涙の筋を消していく。
ルードヴィッヒの顔は誰にも見せたことのないような、穏やかな優しい笑みを浮かべていた。
「可哀想に・・・・・錯乱してしまったようだね・・・あ~ぁ首や手のひらもこんなに傷付けて・・・・手当てしないといけないね?」
頬から、爪の跡が生々しく残る首筋に手を移動する。皮膚が抉れ、深いところは肉さえも少しだけ抉れている。
血が滲み出る部分を軽く触り、血のついた指をペロリと舐めると、唇を歪めて先程の優しい顔から一変、狂気的な笑みに変わる。

「さて、ここは今から掃除しないといけないから、凪ちゃんは違うところで眠ろうか・・・・とりあえず凪ちゃんの寝室に行こうかな?ローレンツは侍女長に言って部屋の掃除を頼むよ」
笑いながら後ろに控えていたローレンツに、この後のことを伝えながら、ルードヴィッヒは夜神を横抱きにして立ち上がる。

ローレンツは割れた鏡の壁や、散らばった破片を見て盛大なため息をしてしまった。
「白いお嬢さんも以外と過激派ですね・・・・部屋の事は分かりました。ところで一つ「確認」ですがよろしいですか?」
ローレンツの「確認」という言葉に少しだけ嫌な予感をしつつも、ルードヴィッヒは念の為、聞いておくことにした。
「何かな?」
「・・・・・白いお嬢さんが盛大に破壊した鏡と花瓶、濡れてしまった絨毯の損害請求は陛下あてでいいですよね?」
「え~?本気かい?」
「勿論です。白いお嬢さんは無一文ですので、保護者的存在の陛下に請求するのが妥当かと?間違ってますか?」
何言ってるんですか?私はおかしな事言ってませんけど?と、思いっきり顔に書いたローレンツは、少しだけ引き攣った顔のルードヴィッヒを見て、至極真っ当に答える。

「ご安心下さい。財務の方と話し合いをして、月に少しずつ当てていきますので陛下は気にされなくて結構です。一応の確認ですよ、確認」
瞳がキラッ!と、光ったような気がしたがルードヴィッヒは何も見なかったことにして、気を失っている夜神の顔を見てため息をする。
「これは、凪ちゃんに色々と請求しないといけないのかな?・・・・・うん。そうしょう」
一人で何かを納得してルードヴィッヒは夜神を抱いてローレンツの脇をすり抜けて部屋を出ていった。
その後ろ姿を見送って、ローレンツも「忙しくなるなぁ・・・・」と呟いて部屋をあとにした。


「着いたよ、凪ちゃん。部屋が整うまではこちらのベッドで眠ろうね・・・・・」
いつものベッドよりは狭いとはいえ、大人二人が寝てもまだ、余裕のある天蓋付きのベッドに寝かせる。
白い絹で出来た、蔦薔薇の織地のシーツや枕はいつも使う物と一緒だが、アクセントに置かれた枕や、掛カバーは女性を意識しているのかフリルや淡い桜色など見目愛らしい。
そっと、寝かせると額に軽く唇を落とす。
「傷の手当てをしないといけないね・・・・・後は、食事の用意かな?そろそろ、喉が渇いて来る頃合いだろうからね・・・・ちゃんと、しないといけないよ?分かっているよね、凪ちゃん?」
頬を優しく撫でていたルードヴィッヒの顔は、暗い笑みを浮かべていた。

自分無しでは生きられない所まで、追い込んでいく自信がある。
きっと、受け入れるだろう。赤くなった瞳が段々と意思をなくして、硝子のように鈍く輝きながら、受け入れていく様が目に浮かぶ。
全て奪って、壊して、一から作り変えていく・・・・・
自分だけを求める、自分だけに縋る愛らしい小鳥の様子を想像するだけで、心が満たされていく・・・・・
もうすぐ、もうすぐだよ・・・・凪ちゃん?
「しばらくおやすみ・・・・後で王子様の口付けで目覚めようね?」
ベッドを軋ませて降りると、ルードヴィッヒは軽い足取りで部屋を出ていく。
中断された己の仕事を片付ける為、夜神の傷の手当てをさせる為、食事の用意をさせる為、仕事の割り振りを考えながら自分の居室に戻っていった。


一人、鏡の前で自分の姿を見ていた。
黒髪に白い瞳、軍の軍服をネクタイまでかっちりとさせて、青い柄巻と、赤い柄巻の刀を下げている人物が鏡に写し出されている。
「・・・・・・」
何かを言いたいし、叫びたい。けど、声が出せない。それどころか酷く喉が渇いている。渇いているせいで声がでないのか分からないけど・・・・・ 

自分が手を伸ばすと、軍服姿の自分は一歩後ろに後退する。
行って欲しくなくて、鏡にベッタリと手をつけてしまった。
すると、軍服姿の自分は消えてしまった。おかしい事に鏡には何も写っていない。
「行かないで!」
やっと、声が出せたがその後、酷い喉の渇きが襲う。今すぐにでも飲みたい。
けど、鏡から消えてしまった自分も気になる・・・・・
何も写らない鏡を見ていると突然、今の自分が写し出される。

朱殷色のドレスに白練色の髪、赤い瞳。唇も爪も赤く染まっている。
そして、首筋にある二つの痣のようなものは、皇帝の所有物の証であるスティグマ・・・・・
「あっ・・・・・・ぃゃぁ・・・・・・・」
その姿に驚愕して、一歩、一歩と後退する。
涙が止まらない。今の姿を否定したくて、何度も首を左右に振る。拒絶を紡ぐ唇から見え隠れするのは、尖った白い牙。
「いやぁぁぁぁ━━━━━━━━!!!」
鏡が音をたてて粉々に砕け散った。その破片が降りかかることに吃驚して目を閉じる。
そこで記憶はなくなり、代わりに金色の世界が目の前に広がった。

愉悦に満ちた金色の瞳が、夜神の赤い瞳を間近で見つめる。
夜神が見た金色の世界は、目と鼻の先にあったこの愉悦に満ちた金色の瞳だった。
「おはよう。今度は王子様の口付けで目覚めたんだね眠り姫ドルンレースヒェン
瞳と同じぐらい愉悦に満ちた声色で、揶揄するような言葉を浴びせる皇帝に、夜神は再び悲鳴をあげそうにった。
けど、悲鳴はかき消されてしまった。皇帝が塞いだ唇が音を飲み込んでいく。

今すぐ引き離したいのに、両手首を握り込まれて、シーツに縫い留められてしまっていた。
遠慮なく夜神の口内に、熱い舌が捩じ込まれると蹂躪を開始する。
硬口蓋を舐めて擽ったさを与え、舌を舐め、吸い、絡める。
逃げ出したいのに、体に伸し掛かった重みが逃げることも、顔を背けることも許してくれず、相手が満足するまでなのか、飽きるまでなのか分からないが、受け入れるしかなかった。
「ん~~!!ん、んんっ!!」
息苦しくて、気持ち悪くて、逃げ出したくて、動ける限界まで体を捩り、なんとかして抜け出そうと試みる。

それに気づいたルードヴィッヒは笑いながら唇を外していった。
「王子様の口付けは如何だったかな?お姫様?」
愉悦に満ちた金色の瞳を細めて、荒い息を繰り返しながら何とかして息を整える小鳥夜神 凪を見下ろした。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

目が覚めたら目の前に皇帝とか、心臓に悪いです。
一般人なら即、アウトですね。大佐だからそこは大丈夫!
眠り姫の言葉が気に入ったのか度々使用する皇帝は自分の事を王子様とか言って笑ってますが・・・・・ある意味間違いではないけど・・・・・なんだかなぁ~。
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