ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

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七海と相澤は「第一室」と書かれた扉をノックして入ると、式部中尉がパソコン作業をしていた。
「おかえりなさい、相澤少佐に虎。長谷部室長がお待ちよ」
「何かあったんですか？室長」
相澤と七海は室長の近くまで行く。机で書類を見ていた長谷部は二人の姿を見て、自分の作業を一時中断させる。
「二人とも、演習の三日目について、意見を聞きたいと思ってな。虎次郎のせいで向こうは、三日目の勝者の優遇について何点か確認で聞いてきている」
「カルロ中佐本気ですね～。無理もないか～自分が勝者になれば、速攻で夜神指定できますもんねー」
「笑い事じゃないんだがな。お前のとんでも案をのせいで変な仕事が増えて困っているんだ」
長谷部は無表情だったが、あきらかに苛ついている。

七海のとんでも案・・・・・・・それは三日目のサバイバルゲームで、優勝者が相手国の軍人を指名して、その人と一日だけ観光をするという王様ゲームのような、学生のノリで作った案なのだ。
だか、この案を七海が相手に提示したときに、相手もノッてしまい、その結果その年のサバイバルゲームは白熱した戦いで、類を見ないやる気を見せつけて、上層部の偉い人達はその白熱した戦いをいたく気に入っていたらしい。
もちろん七海のとんでも案は知らない。そして、そのターゲットになったのが夜神だったのだ。

三日目のサバイバルゲームは、持ち点千点からを減らしていくゲームだ。ゴム弾や体にあまり痛くない武器を使い相手を攻撃して点数を減らす。0点又は気絶するとアウトと、わかりやすいものだ。

そして、七海は毎回それではつまらないと思ってしまい、このとんでも案を出してきた。
すると面白そうだとなり、結果白熱した戦いで上層部も「今年の演習は白熱してますね。いいことです。でも、何であんなに凄いんでしょうね？」と言わせたぐらいだ。
そして夜神は相手国からのターゲットにされたが、ことごとく叩き潰す＆気絶させるで一位だった。

だが、夜神は「相手国の軍人」に女性隊員達に声をかけて観光案内を頼んだのだ。男性隊員からしたら「俺たちに声かけないんですか！？」となり、ひどく落ち込んだようだ。二位だった相手国の軍人は、夜神を誘おうと頑張っていたらしい。

そして、その話が軍人の中で広がりいまや、大半の軍はそれを容認しているのだ。
そのほうがより一層力が入った訓練が出来るからと、なんとも言えないものである。

そのとんでも案を出した七海はなぜか、各方面から崇め奉られているのだから不思議の一言だ。

だが、長谷部は違う。この目の前の飄々と今にも口笛を吹きそうなこの男のせいで、演習が近くなると胃痛がしてくるのだ。
上層部も最初は「そんな不埒な考えで！」といたくご立腹だったが、最近は「人間ご褒美も必要だよね」とネジが五本ぐらい飛んだ考えになっている。
そして、演習が近くなると発案者の七海宛に、とんでも案について問い合わせがくる。その窓口になっているのが、七海が所属する第一室長・長谷部匡将中将なのだ。

「あ～なんか色々あったんですね。とりあえずその件は俺のパソコンにメール送ってください。返信しますから」
「もちろん其のつもりで、すでにメール転送している。お前が責任持って返事しろ。私は知らん。全く毎回この時期になると胃が痛い」

長谷部は大きなため息をして、胃の付近を抑えた。
それを見ていた相澤とパソコン作業をしながらも、しっかりと話を聞いていた式部は「ご愁訴、室長」と心のなかでつぶやく

相澤は、相手国の行動を考えて意見する。
「相手国は夜神中佐狙いで行くでしょうね。先に潰しておけば脅威はなくなったも同じですからね。夜神中佐には悪いが目立って動いている間に、確実に一人ずつ点数を減らしていくのが妥当でしょう」
「私も、同意見だ。脅威さえなくなれば動きやすいからな。夜神もすでにその意見は同意している」
「いつの間に話し合いをしていたんですか？」
相澤はビックリして長谷部を見る。
「昨日の、引き継ぎのときに確認した。夜神はそれで構わないと。遅れを取るような真似はしないと言っていた」
「流石～夜神中佐！言うことが様になってるね～。今回も思いっ切り暴れてくれるだろうな！」
七海はケラケラと笑って、長谷部を見る。長谷部は無表情だが、目だけで人を殺せるのではないかと言わんばかりの目線で七海を見る。
誰のせいでこうなっているのか知ってるのか！！と、訴えているが、七海はそこをスルーしていく。
お互いの攻防戦を隣で見ている相澤は困り果てる以外なにもない。

（そもそも、私はここにいる必要があるのか？ないのなら、自分の机に帰りたい）
相澤はどうやって自分の席に帰るかを、思案し始めるのであった。