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待機しているヘリまで、全力で走ってきた七海は「ゼーゼー」と言いながら夜神をヘリで待機している衛生部の医者に託す。
「かなり衰弱してます。宜しくお願いします」
「了解しました」
他の人間も続々と乗り込んできて、いつでもヘリは離陸出来る状態になったのを確認して、七海は機長に伝える
「機長、全員揃ったのでいつでも離陸出来ます」
「了解。ただちに離陸します」
機長の合図と共にヘリはゆっくりと地面から、機体を離していく。そして高度を上げてヘリは本部を目指していく。

「式部、わりー。夜神の事頼むは。先生の手伝い宜しくな。いくら知ってる中でも、ヤローに色々とされるのは流石の夜神でも嫌だと思うからさ」
無精ひげを撫でながら、七海はこの中では唯一の女性である式部に、夜神の事を任せる。
式部もそこは心得ているようで「任せて」と言って衛生部から来ている、医者と看護師の所に移動してく。

「司令部。こちらは七海、ヘリに乗り込み今から本部に向かう。Sクラスの乗っているヘリはゲートをくぐりましたか?」
『こちら司令部。Sクラスのヘリはゲートをくぐりました。よってミサイル等の迎撃体制は解除します』
「了解した。藤堂元帥か長谷部室長に繋げて下さい」
『藤堂元帥も長谷部室長も司令部に居ます。このまま話して頂いて大丈夫です』
「了解した。藤堂元帥、聞いて頂きたい事があります。夜神中佐をここまで追い込んだ人物をある程度特定しました」
『こちら藤堂。特定出来ているならこの場で発言を許可するが?なにか確認しないといけないことがあるのかね?』
「確証がない為、現時点での発言は控えさせて下さい。夜神中佐が目を覚ましたら、その時に確認する許可を頂きたいと願います」
『・・・・・・・分かった許可する。但し、私と長谷部室長が居る時に確認するように』
「了解しました。ありがとうございます」
『では、こちらはヘリの帰還を待っている』
「了解」
『こちら司令部。七海少佐、特に何もなければ通信を終了します』
「あぁ、こちらからは特になにもない」
『分かりました。通信を終了します』

七海はため息をして無精ひげを撫でる。式部以外の人間は夜神から少し離れた場所に座っている。
「虎、人物の特定が出来ているなら言っても良かったんじゃないか?」
相澤は七海を見て話す。
虎次郎は人よりも優れた分析・解析力を持っている。そのお陰でスムーズな作戦の立案などにより、我々は幾度も死地を掻い潜ってきたと言っても過言ではない。
「いや、さっきも言ったが確証がないんだ。夜神が言えれば良いんだが、最悪の事も考えて確認の許可を貰ったみたいなもんだ。もし、これがアタリだったら言葉も出ないが・・・・・」
七海は無精ひげを撫でながらため息をする。

本当にこの確認方法で夜神が反応したら、そのはとんでもない人物だ。
どうしたもんかと、悩んでいた時、衛生部の手伝いをしていた式部の「ひっ!!」と引きっつた声が聞こえて、全員で式部を見る。

医者が点滴の用意をしている間に、夜神の軍服を脱がそうと女性の看護師が夜神を抱きかかえて、式部が脱がしていく。夜神の背中が全員に晒される。
赤いスリップは背中がかなり空いていて腰の所まで見えている。だがそれ以外に驚いたのはその白い肌に残された鬱血の跡だろう。
異常と言わざるえない程の跡を付けられている。特に背中の斜めに走った刀傷は、隙間なく埋め尽くされている。そして噛み跡の多さだ。これを見た式部が悲鳴を上げるのも頷ける。
「足も酷かったけど、ここまで酷いとは。全身、鬱血と噛み跡だらけかも知れない。だが鬱血が有るのであれば陵辱行為もあったのかも知れない。ここではしなけど検査項目を増やして・・・・」
衛生部の二人は夜神に行う検査を増やしていく手はずを整えていく。
七海は「検査」と聞いて、頭の中で引っ掛かっていた物に対しての検査をしてもらうよう願い出る
「衛生部のお二人さん。検査を一つ増やしてしまうがいいだろうか?」
「大丈夫ですよ。何を調べましょうか?」
「ありがとう。夜神中佐の緊縛に何を使われていたか調べて欲しい。もし俺の考えが当たっていたら、金属の成分が検出されるかも知れないんだ」
「金属ですか?分かりました。そちらも合わせて調べます」
「ありがとう。助かります。結果がわかったら教えて下さい。第一室長経由で構いませんので」
「了解しました」
七海は解決出来る手筈を手に入れて一安心する。これでまた一歩自分のモヤモヤが解決できる。
「七海、何を考えている?」
藤堂は七海を見る。その先を見据えた眼差しは父親の藤堂 義信とうどう よしのぶ元帥と同じ眼差しだ。
「考えていることが繫がれば、夜神をここまで追いつめた人物に、俺も一度だけ会ったことがある」
「なんだって!何時だ!」
長谷部は驚いた。父親の長谷部室長とは違い、表情は豊かである。
「スクラルブル交差点奇襲事件だ」
「・・・・・あの時の事件か」
「その事件はたしか吸血鬼の奇襲だったんですよね。でも世間では「毒ガス事件」で報道されてますよね?」
庵は三年前にあった事件を思い出す。学生だったので前線に立つことはなかったが、事後処理などを手伝った記憶がある。
「あぁ、そのとおりだよ。ただ、表向きは毒ガス事件だけどね。カモフラージュで煙幕を使っていたから、そこからそうなったみたいだけど」
相澤は庵に説明する。庵以外はその奇襲に前線で戦っていたのだ。
「ちゃんと分かってから説明する。それまではこの話はなしだ!すまん。俺も正直分からん状態なんだ」
七海はお手上げだと、両手を上げて首を振る。
「詳しいのは夜神が、目を覚ましてからだ」
「分かった。目を覚ましてくれるといいが・・・・このまま寝たきりではないよな・・・・・」
相澤は心配になり、夜神を見る。担架に寝かされて、ズレないように布団の上からベルトで固定されている。そして何かしらの点滴をしている。
「そうならないことを願うばかりだよ。あの夜神が寝たきりなんて似合わないからね」
藤堂が曖昧な顔をする。それにつられて幼馴染み達が頷く。

それを見ていた庵は何故か疎外感を覚えてしまった。自分以外は幼い頃からの付き合いで、みんな知った中だから色々と思うことがあるのだろう。ただ、自分は出会って半年も満たない学生で、何も知らない事ばかりだ。

庵が黙っていたのを気にして、七海は庵の頭をグシャグシャにかきまわす。
「うわぁぁ、何するんですか!?」
「なに、しょんぼりしてんだよ。俺らはガキの頃からの付き合いだから、庵青年より知ってだけだよ。けど、教育係として接している夜神の事は知らねーんだわ。それは庵青年が一番知ってると思うぞ。何に対してしょんぼりしてるのかは聞かねーが、夜神が起きた時にそんな顔してきたら、稽古みたいに飛ばされるぞ?」
「起きてすぐに飛ばしますか?・・・・夜神中佐ならやるかもしれないですね」
「だろう?そこんところ理解している庵青年は凄いと思うぜ。これからだよ。お互いの事を知っていくのは」
「・・・・・ありがとうございます」
七海の言葉で少し自身が持てた気がする。これから知っていけばいい。

ーーーーけど、どうして、夜神中佐の事でここまで落ち込んでしまったのだろうか?

庵は感じたことのない感情が、胸をチリチリと焼いていく事に戸惑いを覚えてしまった。この感情は一体なんだろう?庵は悩んでしまった。この感情の正体が分からなくて。
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