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 怒鳴り声が飛び交い、その言葉の途切れや強弱の隙間から漏れ聞こえてくる泣き声。それらはわたしに、学校で目撃したいじめや暴力事件を思い出させた。
 いまこの争いのなかに飛び込めば、絶対にどちらかにつかなければならないだろう。いじめで例えるならば、加害者か被害者の側に、だ。
 そのどちらかの選択肢も嫌ったわたしが選んだのは、一人の傍観者になることだった。なんの関わりを持たずに、ただ、遠巻きで事のなりゆきを見ているだけの存在。自分の身が危なくなれば、その場からそそくさと退散すればいい。テレビ番組のチャンネルを変えるみたく、違う場面を──見たい景色を見ればいいのだ。

 結局わたしは、当時と同じように見て見ぬ振りをする選択肢を選び、起き上がるタイミングを完全に見失ってしまっていた。
 これが正しいとは思わない。けど、間違っているとも思ってはいない。だって、いまもわたしには、なんの危害も及んでいないのだから。

「あーっ、クソ! いいよ、もう! おまえら勝手につるんでろよ! あたしはあたしで、勝手にやらせてもらうから!」
「勝手にって……止めはしないけど、出入口も窓もない部屋に閉じ込められたこの状況で、わたしたちに一体なにが出来るのよ?」
「それは……あたしの勝手だろ!」

 そんな二人のやり取りを最後に、女性のすすり泣く声だけを残して会話が終わった。

 やがて、落ち着きを取り戻した彼女も静かになる。

 こうして殺伐とした密室空間に完璧な沈黙が生まれた。

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