御年玉、ください。

黒巻雷鳴

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比奈子

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 師走も気がつけば中頃になり、大掃除やクリスマス、来年の御節といった準備を何ひとつしていないことを、亮介りょうすけは休日の昼下がりにマンションの書斎で、ふと考えた。
 この亮介という男は、予定事を多少でも面倒と感じれば何かと後回しにしようとする、とても不精な性格の持ち主であった。

 小学生のある夏休み、絵日記や計算問題を最終日までまったくやらず、新学期が始まった後も終わらないまま、結果的にはうやむやにした。
 中学生の頃は、初めてできた彼女と買い物を一緒にする約束を男友達との遊び優先で後回しにし、激怒した彼女に別れを告げられ、その結果、翌日からクラスの女子全員に冷遇されるようになった。

 考えれば案外いろいろと思い出せるもので、〝あの時に、ああしていればなぁ〟などと、今さらながら亮介が悔やんでいると、突然リビングでインターフォンが鳴り響いた。
 日曜日のこんな時間に、いったい誰が──リビングの壁に設置されている液晶画面を見てみれば、黒っぽいダッフルコートに身を包んだひとりの少女が、あたりを気にしながらエントランスで立っている。
 亮介はその少女に見覚えがなかったので、少し怪訝な感じで「はい」と短く返事をした。

『あの……えーっと、比奈子ひなこです。亮ちゃん、おひさしぶりです……』
「えっ?! 比奈子ちゃんなのかい?」

 亮介はすぐに解錠ボタンを押し、遠隔操作で風除室内の自動扉を開けた。
 数年振りとはいえ、姪っ子に気づかなかった自分と彼女の成長ぶりに、軽いショックを受ける。
 ほどなくして今度は、玄関のインターフォンが鳴る。
 急いで駆け寄り開ける。冷たい外気と、ほのかに香る甘いにおいが鼻にふれた。インターフォンの画像は荒かったのでよく見えなかったが、比奈子はコートの下に学生服を着ていた。

「寒いでしょ? さぁ、とにかく入りなよヒナちゃん」

 亮介は香水の類いには疎く、なんのにおいかまでは解らなかったので、それについて話すのはやめた。
 比奈子は小さくコクリとうなずき、黒光りするローファーを綺麗に脱ぎ揃え、促されるままにリビングルームへと入った。

「しかし、あれだね。最後に会ったのって……小学校の低学年だっけ? おっきくなったなぁー」

 そうでもない距離に住みながら──自転車で約二十分くらいだろうか──五体満足でなんの不都合がないのに、何年も会いに来ない母方の叔父さん……亮介は自分を、最低の部類に入る叔父ではないかと思っていた。

「記憶が確かなら、小学二年生……だったと思います。来年あたし、高校生になります」

 来客用側のソファにすわり、ホットココアを両手に包みながら暖をとる比奈子が、淡々と視線を合わさずこたえる。
 緊張をしているのだろう。それは亮介も同じで、ことさら疎遠であることを申し訳なく思い、自分を恥じた。

 来年にはもう高校生……そんなに会っていなかったとは、時が経つのが速過ぎる。いや、自分が悪いんだ。自らの最低さ加減を痛感しつつ、場の空気を変えるためではないが、突然の訪問理由を亮介はいてみた。
 すると比奈子は、ココアをのぞき込むようにして俯いたかと思うと、顔をすぐに上げ「御年玉をくれませんか」と真剣な眼差しで答えた。

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