プリンセスソードサーガ

黒巻雷鳴

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第三章 ~ぶらり馬車の旅 死の大地・マータルス篇~

覚醒する魔神

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 異空間の亀裂から炎のように縦横に迸る稲妻。それらですら、アシュリンが放つ青白い光に容易くかき消されてゆく。
 なにが起きているのか、まったく理解ができないドロシーは、上空に浮かび上がるアシュリンに向けて「姫さま!」と叫ぶだけで精一杯だった。

「オーフレイム、これはどういうことだ? いったいなにが起きている?」

 ロセアの静かな問いかけ。呆然と立ち尽くしていたレベッカは、答えることも言葉を発することも出来なかった。

(どうしてハルさんが……ハルさんは姫さまになにをしたんだ?)

 いくつもの疑問が脳裏をかすめる。だが、なにも知らないレベッカにはひとつも解けなかった。現在いまの自分は丸腰だ。それでも、アシュリンやドロシーたちを置いては逃げられない。
 レベッカは大きな舌打ちをしてから走った。ロセアの制止にも振り返らず、ハルの背中をめざしてひとり駆け出していた。そして、怒り心頭の様子でハルの胸ぐらを掴んで詰問する。

「ハルさん、あんた……なにやってんだよ!? 姫さまを助けるどころか、胸になんかぶっ刺してたろ!? まさかハルさん、姫さまの命を狙う暗殺者だったのかよ!?」
 
 牙を剥き出しにして激昂するレベッカ。
 それに対してハルは、冷淡な眼差しで淡々と答えはじめる。

「わたしは暗殺者ではないけれど、そうね、姫さまの命を狙っていたわ。ずっと……ずっとね」
「なっ!?」

 頭に血が上っていたレベッカの顔から、一瞬で怒気が消え失せた。驚きのあまり、言葉も失う。
 ハルは穏やかな口調で、まるで子供に言い聞かせるように話しを続ける。

「その昔、世界は暗黒の神々によって滅ぼされようとしていたわ。でも、勇者たちによってそれは阻止された。だけどね、勇者たちでも魔神ザラードだけは倒すことが出来なかったのよ。その代わり……」

 突然言葉を詰まらせるハル。暫く無言でいた彼女は、胸ぐらを掴んだままのレベッカの両手を強い力で振り解いた。

「勇者たちの仲間のひとりが犠牲になって、魔神ザラードを異界の門へ封印したのよ」

 どこか悲しげな目をしたハルは、上空に仰向けで浮かんだまま静止しているアシュリンを見上げる。

「……その話と姫さまになんの関係があるんだよ!」

 ふたたび頭に血が上りはじめたレベッカの顔を見ずに、ハルは遠くのアシュリンを指差す。

「姫さまが魔神ザラードの生まれ変わりって言ったら、あなたどうする? シャーロット・アシュリン・クラウザーはただの人間じゃない。魔神ザラードが封印される直前、この世界に解き放った魂の持ち主なのよ」
「ああん? 姫さまが魔神ナンチャラの生まれ変わりだって!?」

 レベッカは混乱した。ハルは嘘や作り話をするような性格ではない。だとしても、だ。とても鵜呑みにできる内容でもない。強く瞼を閉じて頭を抱えたレベッカは、なんとか言葉を捻り出す。

「その話が……全部本当だとしてよ、ハルさんは本気で……姫さまを……殺すつもり……なのか?」
「ええ、もちろんそうするわ」

 即答だった。
 あの温厚で優しい、後輩思いの先輩侍女のハルが、表情ひとつ変えずに断言したのだ。このときレベッカは、絶望した。

「ハルさん」

 いつの間にかドロシーが、ふたりの近くに来ていた。その表情はどこか淋しそうでもあり、悲しそうでもある。

「わたしは信じますよ、その話。だって目の前でハルさんはなんの躊躇いもなく、姫さまに〝鍵〟を突き刺したんですから」

 ハルはなんの反応もしない。ただ、ドロシーの話しを黙って聞いているだけだ。

「あの〝鍵〟になにかあるんですよね? せめてわたしたちに説明くらいしてください!」
「ドロッチ……」

 レベッカが視線をドロシーからハルへ戻す。
 ハルは「そうね」とだけ小声で答えた。

「わたしが使った〝鍵〟は、魔神ザラードの力を覚醒させる為のものよ」

 覚醒──ドロシーとレベッカが、同時にそうつぶやいた。

「で、でもよ、どうしてわざわざ魔神の力を覚醒させるんだ? そんなことをしたら、姫さまはバケモンになるんじゃないのか?」

 レベッカの当然至極な疑問に、ハルは口角をわずかに上げるだけだった。
 ドロシーは考える。
 まだなにか意味があるはずだ、なにかをまだ隠しているはずだ、と。
 そのときだった。アシュリンの胸もとから放出されている青白い光の渦が速度を増したかと思えば、今度はアシュリンの全身を覆い尽くしたのである。

「いよいよ始まるわね」ハルが言った。

 レベッカとドロシーはハルとアシュリンの様子をうかがいつつ、目配せをしていた。
 これからどうする?
 どうやってハルさんを止める?
 それよりも先に、姫さまが覚醒を終えてしまったら……。
 簡単に答えが見つかるような問題ではなかった。それでも、アシュリンの命を救うためには行動するしかない。涙目のドロシーが鼻をすすったのと同時に、空から強烈な爆発音が響きわたる。
 見上げるとそこには、二本の立派な角と背中には蝙蝠コウモリに似た大きな羽、ドラゴンのような尻尾の生えたアシュリンが、青白いオーラを全身から放ちながら仁王立ちの姿で浮遊していた。

「アレが……姫さま?」
「そんな……間に合わなかったの……?」

 驚きを隠せないふたりとは対象的に、ハルの顔は明るく希望に満ち溢れていた。

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