わたしはアイツをゆるさない。

黒巻雷鳴

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わたしはアイツをゆるさない。

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 お昼の休憩時間。女子トイレから出て来たアイツのあとを少し離れてから追いかける。
 本校舎の影に呑み込まれた裏手を進むと、学校関係者用の駐車場に彼女の姿が見えた。ひとけをさけて喫煙をしている割には、マヌケ面をさらした立ち姿で今日もスマホを弄りながら煙を吹かしている。
 風向きが変わったのか、一服を終えるころ煙草タバコの煙が放つ独特の悪臭がわたしの鼻をついた。
 ただでさえ大嫌いな煙草の煙が──アイツがした煙草の煙が──よりにもよって、わたしの鼻腔と肺を犯している受動喫煙の現実に、激しい怒りと強い嫌悪感がまるで収まらない。
 とっさに片手で口許くちもとを覆い隠す。
 間に合わなかった。
 塞ぐ指のわずかな隙間さえも……いや、漂う煙ごと鼻を覆ってしまったのか、濃縮された不快感が脳へダイレクトに届けられる。その瞬間、たまらなくすべてが嫌になった。

 殺す……いますぐ殺す……!

 あたりにはほかだれもいない。カッターナイフなら、毎日持ち歩いていた。
 けれど、ダメだ。
 ここじゃない。
 そもそも、わたしにすぐ気づいて警戒されてしまう。
 我慢するの? どうして?
 そうだ、殺す理由はコレじゃない。
 犯した過ちを後悔させてやる。
 これまでの人生で最大の恐怖を与えてやる。それも、次々とその場で上書きをしてやる。恐怖の上書きをしてやるんだ。
 わたしはこのとき殺意を圧し殺した。
 圧し殺してすぐに、涙がこぼれた。
 手の甲や指に涙が伝っていくのを感じていた。
 そのときにはもう、指先がすっかりと震えてしまっていて、震えは指先だけではとどまらずに、無様にも立っていられなくなったわたしは、その場にしゃがみ込んで迷い子みたく泣いていた。
 復讐してやる、絶対に。
 でなければ前に進めない。
 制服のスカートのポケットからカッターナイフを取り出す。カチカチと音をたてながら、刃先はどこまでも伸びていった。



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