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街に潜む呪い
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私の部屋の天井には染みがある。ベッドに仰向けになって、眠りにつこうと電気を消す直前に、必ずその染みが目に入る。私がこの部屋に越してきたとき、あの染みはなかった。いつからかわからないが、気がついた時には、そこに天井の染みがあったのである。初めから、そこにあったかのようにーー。
私がこの町、鏡町に来てからすぐ、近所である事件が起きた。強盗が四人家族を人質にして立て篭もったのである。人質になったのは町会議員の山村敬三という地元の雄だった。強盗はそれを知ってか知らずか、山村宅に押し入り、金を奪おうとしたが、起点を利かせた山村敬三が隙をみて警察に通報し、強盗が入ってから数分後、山村宅は警察に取り囲まれた。犯人は山村一家を人質に取り、立て篭らざるを得なくなった。
事件が発生してから数時間、犯人は姿を見せることなく、電話でのみ警察とやり取りを行った。犯人の要求は逃走経路の保証だけだったが、警察の説得は難航し、それからさらに沈黙が続いた。
ところがその沈黙は突然破られた。犯人が、なんの前触れもなく、山村宅から外に出て自首をしたのである。
その模様は、テレビで中継されていたからよく覚えている。犯人は憔悴しているようでもなく、コンビニで買い物を済ませたぐらいの何の特別な表情も見せなかった。
それから間もなく警察が山村宅に突入した。犯人が自首したことで、中継を見守っていたスタジオのアナウンサーも安堵したようなコメントをしていたが、その雰囲気はすぐに崩される。
「速報です」画面が切り替わり、現場のリポーターが伝える。「ただいま、A県警からの発表がありました。県警によりますと、先ほど犯人の男が自首しました。犯人は金品などを奪うことなく、自首をした模様です。つづいて、人質になっていた山村さん一家の安否についてですが……」リポーターは手に持っていたメモを読んでいたが、そこで一息飲んだ。「……山村敬三さんと、妻の俊子さんの遺体が発見されました。繰り返します。鏡町の町会議員である山村敬三さんと、山村さんの妻の俊子さんの遺体が、先ほど強盗が入った山村さん宅で発見されました。現在、詳しい状況についてA県警が捜査を進めています……」
立て篭もり犯は、自首をする直前に山村夫婦を殺していた。
そして、その事件には、もう一人の被害者がいた。山村家の長女で、当時高校生だった山村愛実である。
山村愛実は、山村夫婦と共に軟禁状態にあったが、彼女だけは犯人にその命を奪われることなく、唯ひとり生存した。
マスコミはこぞって彼女に取材しようとしたが、彼女は一切を口を開こうとしなかった。事件のショックから声が出なくなったとか、トラウマから事件を思い出したくないなど、様々な憶測が飛び交ったが、結局彼女が表舞台に出ることはなく、事件は少しずつ世間から忘れられていった。
それからさらに数年が経ったある日、奇妙な噂が鏡町を中心に流れるようになる。
事件の後、鏡町を出ていった山村愛実が町に戻ってきたのだが、彼女の周辺にいる人々は必ず不幸になるのだという……。つまり、彼女の両親が強盗に殺された事件も、彼女が引き起こした事件だというのだ……。さらに噂では、犯人の男は逮捕後すぐに事件について、「金が目当てだった」と供述していたのだが、最近になり、「あの家の娘に引き寄せられた」という供述を始めている。娘とは、むろん、愛実のことである。さらに彼女は、鏡町から姿を消している間、流産をしており、その子供の父親は、山村邸を襲った強盗犯だというのである……。
そういった噂の数々に耐えかねたのか、鏡町から戻ってきた山村愛実はすぐに町から姿を消した。そして町の人々が彼女の存在すら忘れた時期に、彼女の死体が、鏡町にある末廣神社で発見されたのである。死因はロープによる首吊り自殺で、彼女の死体は神社の鳥居にくくりつけられていた。
彼女の自殺はマスコミが一斉に取り上げた。鏡町で流れた噂についてまで特集され、その取材は町会議長を務めていた大西平蔵にまで及んだ。大西はマスコミの取材に、ノーコメントの姿勢を崩さなかったが、執拗なメディアの攻撃に、ついに口を開いた大西だったが、その言葉が、「小さな事件で、よくやりますね」というものだった。
これを女性蔑視した発言だとして、メディアの取材はさらに加熱していった。その報道は全国ネットで広がりつづけ、ネット上でも大西は市民の敵として叩かれた。
ところがこの報道もあっけなく幕を閉じる。閉幕を告げたのは、大西平蔵の自殺だった。大西は愛実と同じように、末廣神社の鳥居で首を吊っていたのだ……。鏡町の人々は、これを山村愛実の呪いなのではと疑った。彼女の悪意が、鏡町に渦巻いているのだと……。
ところで、私の部屋の天井にある染みだが、ちょうど山村愛実が自殺した辺りに出来たような気がする。この部屋にまで、彼女の念が届いているのだろうか? その染みはまるで、こちらに向かって何かを叫んでいる女性の顔のように見えるのだ……。
私がこの町、鏡町に来てからすぐ、近所である事件が起きた。強盗が四人家族を人質にして立て篭もったのである。人質になったのは町会議員の山村敬三という地元の雄だった。強盗はそれを知ってか知らずか、山村宅に押し入り、金を奪おうとしたが、起点を利かせた山村敬三が隙をみて警察に通報し、強盗が入ってから数分後、山村宅は警察に取り囲まれた。犯人は山村一家を人質に取り、立て篭らざるを得なくなった。
事件が発生してから数時間、犯人は姿を見せることなく、電話でのみ警察とやり取りを行った。犯人の要求は逃走経路の保証だけだったが、警察の説得は難航し、それからさらに沈黙が続いた。
ところがその沈黙は突然破られた。犯人が、なんの前触れもなく、山村宅から外に出て自首をしたのである。
その模様は、テレビで中継されていたからよく覚えている。犯人は憔悴しているようでもなく、コンビニで買い物を済ませたぐらいの何の特別な表情も見せなかった。
それから間もなく警察が山村宅に突入した。犯人が自首したことで、中継を見守っていたスタジオのアナウンサーも安堵したようなコメントをしていたが、その雰囲気はすぐに崩される。
「速報です」画面が切り替わり、現場のリポーターが伝える。「ただいま、A県警からの発表がありました。県警によりますと、先ほど犯人の男が自首しました。犯人は金品などを奪うことなく、自首をした模様です。つづいて、人質になっていた山村さん一家の安否についてですが……」リポーターは手に持っていたメモを読んでいたが、そこで一息飲んだ。「……山村敬三さんと、妻の俊子さんの遺体が発見されました。繰り返します。鏡町の町会議員である山村敬三さんと、山村さんの妻の俊子さんの遺体が、先ほど強盗が入った山村さん宅で発見されました。現在、詳しい状況についてA県警が捜査を進めています……」
立て篭もり犯は、自首をする直前に山村夫婦を殺していた。
そして、その事件には、もう一人の被害者がいた。山村家の長女で、当時高校生だった山村愛実である。
山村愛実は、山村夫婦と共に軟禁状態にあったが、彼女だけは犯人にその命を奪われることなく、唯ひとり生存した。
マスコミはこぞって彼女に取材しようとしたが、彼女は一切を口を開こうとしなかった。事件のショックから声が出なくなったとか、トラウマから事件を思い出したくないなど、様々な憶測が飛び交ったが、結局彼女が表舞台に出ることはなく、事件は少しずつ世間から忘れられていった。
それからさらに数年が経ったある日、奇妙な噂が鏡町を中心に流れるようになる。
事件の後、鏡町を出ていった山村愛実が町に戻ってきたのだが、彼女の周辺にいる人々は必ず不幸になるのだという……。つまり、彼女の両親が強盗に殺された事件も、彼女が引き起こした事件だというのだ……。さらに噂では、犯人の男は逮捕後すぐに事件について、「金が目当てだった」と供述していたのだが、最近になり、「あの家の娘に引き寄せられた」という供述を始めている。娘とは、むろん、愛実のことである。さらに彼女は、鏡町から姿を消している間、流産をしており、その子供の父親は、山村邸を襲った強盗犯だというのである……。
そういった噂の数々に耐えかねたのか、鏡町から戻ってきた山村愛実はすぐに町から姿を消した。そして町の人々が彼女の存在すら忘れた時期に、彼女の死体が、鏡町にある末廣神社で発見されたのである。死因はロープによる首吊り自殺で、彼女の死体は神社の鳥居にくくりつけられていた。
彼女の自殺はマスコミが一斉に取り上げた。鏡町で流れた噂についてまで特集され、その取材は町会議長を務めていた大西平蔵にまで及んだ。大西はマスコミの取材に、ノーコメントの姿勢を崩さなかったが、執拗なメディアの攻撃に、ついに口を開いた大西だったが、その言葉が、「小さな事件で、よくやりますね」というものだった。
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ところがこの報道もあっけなく幕を閉じる。閉幕を告げたのは、大西平蔵の自殺だった。大西は愛実と同じように、末廣神社の鳥居で首を吊っていたのだ……。鏡町の人々は、これを山村愛実の呪いなのではと疑った。彼女の悪意が、鏡町に渦巻いているのだと……。
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