夜明けが告げるもの

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前編

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『Barかがり』と描かれたドアを押すと、鈍い鈴の音とともに夜の匂いが流れてきた。

「いらっしゃい」

 いつもの低く艶のある声が由梨江を出迎えてくれる。
 霧島穂高、ここ篝のオーナー兼マスターだ。
 週に三日は座っている馴染みのスツールに由梨江は腰をおろし、脚を組んだ。
「いらっしゃい、ユリ」
「こんばんは。赤ワイン、グラスでもらえる?」
「もちろん」
 霧島の骨ばった長い指が由梨江の前に指紋ひとつないグラスを運び、ルビー色の液体でグラスを満たし始める。
 男がワインを注ぐ姿というのは何と魅惑的なのだろう。由梨江はぼんやりとそんなことを考える。

「何かあった? だいぶ疲れた顔してる」
 由梨江は息を吐いた。彼は何でもお見通しなのだ。
「今日、店の若い子がお客様おこらせちゃってね。私まで散々な目に合ったわ。どうして最近の子って思ったことをすぐに口にしちゃうのかしら? 少しは頭で考えてから口に出せばいいのに。まったく何のために頭が付いてると思ってるのかしら」
 つい、愚痴っぽくなってしまう。その彼女は男性客の薄毛を揶揄するような発言で逆鱗に触れたのだった。本人は冗談のつもりだったらしいが、後の祭りだ。世の中には言っていいことと悪いことがある。
「はは、そりゃあ大変だったね。それで? ユリは尻ぬぐい?」
 由梨江はため息で肯定する。店長と一緒に怒り狂う客に頭を下げ、泣き出した女の子をタクシーに乗せて帰した。もう、へとへとだ。
「へえ。相変わらず頼りにされてるね、ユリ」
「まったく迷惑な話よね」
 かつては期待の新人ともてはやされた由梨江も入店して十年が経った。
 売り上げこそ、つい先日おしめがとれたばかりのような若い女におくれをとっているが、これはひとえに女に若さだけを求める、わかっていない男が増えたせいだ。由梨江の価値が落ちたせいではない。
 事実、今も昔も最後に頼られるのは自分だ。変わらず頼りにされている――霧島のひと言に自信が裏づけられた気がした。
「なに? 嬉しそうな顔して」
「ううん、別に。相変わらず穂高は優しいなあと思っただけ」
 ほかの客からオーダーが入り、霧島は軽く手をあげて由梨江のもとを離れていく。由梨江も右手で応える。名残惜しいが、仕方がない。

 霧島とは三年来の付き合いになる。
 当時、霧島はホストとして働いていて、同僚のホステスたちとその店を忘年会で使ったのが最初だ。ひとり、その店のホストに熱を上げていた子がいて、興味本位で見に行くことになったのだった。
 その時ヘルプに入った霧島とは妙にウマが合って、店に通うようになり、いろいろな話をした。迷いも怒りも、同業者だからこそ分かり合えたし、励まし合うこともできた。大真面目に水商売の在り方について論じたこともある。
 由梨江の指名はいつも霧島一択だったが、そこいらの若い女がホスト相手に熱を上げ、疑似恋愛するのとはわけが違った。
 前に篝に連れてきた後輩からマスターに惚れてますねとちゃかされたことがあったが、冗談じゃない。霧島との関係は、そんな色恋なんかよりもっと強く尊い。彼はいわば同志であり、戦友なのだ。
 由梨江はシェイカーを振るう霧島の整った横顔を満足げに見つめる。
 彼との関係は、霧島が独立して店を持った今も変わらない。
 だから、こうして店に通い続けているのだ。



「五番テーブル、ユリさん代わってもらえませんか?」
 目の前で、拝むように手を合わせているのは現役女子大生のサトミだ。
「もしかして佐伯様?」
 聞くと、サトミは大きく頷いた。実は別の子からも代わってほしいと頼まれたことがある。
「あたし、あのお客様どうも苦手で」
「どうして」
 聞くまでもなかったが、一応聞いてみることにした。サトミは少し迷ったそぶりを見せたが、すぐに口を割った。
「だって、全然会話が続かないんですもん。指名もしてくれないし。正直、なにが楽しくてお店にくるのかって思いますよ」
 そう言って、形の良い唇を尖らせる。由梨江は小さく息をもらした。
「ダメよ、サトミちゃん。そんな言い方しちゃ。佐伯様はお仕事でいらしてるんだから」
 店にくる客のほとんどは針小棒大に自慢話を語ったり、愚痴ったり、甘えたり、女の子を口説いたり、とかく饒舌になるものだが、中には佐伯のようにじっと何かに耐えるように黙って酒を飲む客もいる。
 そういう男たちの大半は、付き合いや接待でやむなく来ており、なかなか場になじめず、楽しめないことが多いのだ。事実、今宵佐伯と席を共にしているのは彼の上司である。
 加えて気の毒なのは、彼が店の常連であることだった。営業職の佐伯は、よく取引先を連れてやってくる。接待される側は女の子たちと楽しそうにしているが、佐伯は黙々と薄めの酒を時間をかけて飲む。酒にもそう強くない。仕事とはいえ、大変なことだ。
 だからというわけではないが、由梨江はサトミが言うほど、佐伯を苦手とはしていなかった。何よりたかが話が盛り上がらないくらいで客を選り好みするなんてホステスとしての矜持に欠けているとしか思えない。
  最近はバイト感覚の若い子が増え、サトミみたいなホステスが増えている。彼女たちは、自分が楽しませてもらって、お金をたんまり貰えることを期待しているのだ。
 喝を入れたいのはやまやまだが、少しきついことを言うとすぐに辞めてしまうのだから、言いたいこともなかなか言えない。
「仕方ないわねえ」
「ありがとうございます! ユリさんはほんと頼りになるなあ。あたしも見習いたいです」
 サトミに喜ばれ、まんざらでもない気分で由梨江は立ち上がった。

「こんばんは」
 挨拶をして、佐伯の隣に腰をおろした。彼の上司の隣にはご指名のマナミが座っている。マナミもまた現役の女子大生だ。
 はじめは、四人でわいわい世間話をしていたが、やがて佐伯の上司がマナミを口説き始めたので、おのずと佐伯とサシで話すこととなった。
「佐伯さん、そのネクタイ、新調されたんですか?」
 ユリエが人差し指で、つ、と佐伯のネクタイに触れると、彼は反射的に体を引いた。ドレスという鎧がなければ、危うくダメージを受けるところだ。
 ネクタイは暗がりでよくわからなかったが、ヘンテコな柄なうえ、安物だった。
「珍しい柄。個性的ですてきですね。よくお似合いです」
「ああ、ありがとう」
 ネクタイを庇うように、佐伯はそれに触れる。
「どなたかのプレゼントですか?」
「ああ、いや、まあ」
 あいまいに佐伯が答える。
「おい、佐伯。おまえさん、もう少しユリちゃんに優しくしなさいよ。いつも付いてもらってるんだからさ」
 佐伯の上司が、お気に入りのマナミの肩に手を置いたまま、声をかけた。
「はあ」
 佐伯の顔は別に付いてくれなんて頼んでいないと言っている。
「はあ、じゃないよ。もう。ユリちゃん、こいつ愛想なくてゴメンね。ああ、今日は好きなもの頼んでくれてかまわないからね」
「ありがとうございます。佐伯さんにはいつも優しく接していただいてますから大丈夫ですよ」
 由梨江は器用な手つきでウイスキーのおかわりを作った。もちろん、薄めに。


 
 出勤するとフロアがざわめきたっていた。理由はすぐに判明する。
 目の前の男――いや、女だ。由梨江は思わずあんぐりと口を開かずにはいられなかった。
 それほどに女の姿はけばけばしいを通り越し、毒々しさすらあった。
 ベリーショートの金髪はまだしも、不自然なほどにこってりと塗りたくられたメイクは、何かの冗談としか思えない。はたまた仮装大会か。

「今日からここで働いてもらうことになったブンちゃんだ。みんな、仲良くするように」
 店長が事も無げにベリーショートの女を紹介した。キャストの女の子たちがざわついている。
 マナミが「ユリさん」と囁き、腕を小突く。仕方なく由梨江は女の子たちを代表する形で口を開いた。
「あの、店長。失礼ですが彼女は……」
「ああ。ニューハーフだよ」
 店長のひと言にフロアのざわつきが増した。
「えっと、一体どういうことでしょうか?」
 店長が面倒くさそうに眉をひそめる。こういうところが、この店長のよくないところだ。
「どうもこうもないよ。ウチの店も多様性のニーズに応えて、他店との差別化を図るんだ。その第一歩がブンちゃんだ。ブンちゃん二丁目の売れっ子でね。君たちにも良い刺激になるはずだ。これからはブンちゃんと切磋琢磨して店を盛り上げていってくれ」
 ブンちゃんは、よろしくぅと腰をくねらせている。
 ありえない、と由梨江は思った。ここは女の子のいる店だ。二丁目のおかまバーとはわけが違う。

「てか、ロッカールームに男がいるとか信じらんないんですけど」
 閉店後、ナンバー2のリサがわざと大きな声でぼやいた。もちろん、ブンちゃんに聞かせるためだ。
 狭い室内にはアルコールと煙草と香水の匂いが混ざり合い、むせ返りそうだ。何年勤めても、この匂いにだけは慣れない。
「まあまあ、リサちゃん。ここはひとつ店長の顔を立ててあげて」
 由梨江がなだめると、リサは「だって」と口を尖らせた。
「ちょっと、アンタ」
 すでに私服に着替え終えたブンちゃんがリサの前に立ちはだかった。頭ふたつ分は大きいから、リサを見下ろす格好だ。ヒョウ柄のカットソーが、その姿に箔をつけている。
「あんたさ、ナンバー2だか何だか知らないけど、自意識過剰すぎ」
「は?」
「だから、アンタみたいな頭の悪そうなガキの裸なんて興味ないって言ってるの」
 皮肉たっぷりに、ブンちゃんが唇をゆがめた。
「なんですって!」
 リサがヒステリックに叫ぶ。今にも取っ組み合いになりそうな雰囲気だ。
「ちょっと、ふたりとも落ち着いて。ほら、リサちゃんも早く着替えて上がりましょう。ブンちゃんは言葉に気を付けて」
 まずいと思い、一触即発のふたりの間に由梨江は割って入った。ブンちゃんの視線が由梨江を捉え、彼女は片眉を上げて見せた。
「ついでに、アンタみたいなオ・バ・サ・ンの裸にも興味ないから」
「なっ……」
 言葉が喉の奥に詰まる。誰かが、くすっと笑いを漏らした。
 なんなのよ、こいつ――新入りのくせに、男のくせに。由梨江の顔に熱が集中していく。だが、ここで感情的になったら負けだ。みんなの目もある。冷静にならなければ。由梨江は息を吸った。
「ブンちゃん、あなたは接客の前に学ばなきゃいけないことがあるみたいね。ま、今日は初日だしもういいわ。それじゃ、おつかれさま」
 由梨江は、すべての感情を押し殺し、にっこりとほほ笑んで店をあとにした。



 腹立ちが収まらない由梨江の足は自然と霧島のもとへ向かっていた。
 いつものスツールでワインを二杯立て続けに飲み干したところで、込み上げていたものが堰を切った。
「なんなのよ、あの新入り! 何様のつもりよ!」
 グラスを拭いていた霧島がおや、と顔をあげる。
「そんなに荒れるなんて珍しいね、ユリ。さては今度の新人さんは大物かな」
 楽し気に笑う霧島に由梨江は抗議の目を向けた。
「もう、笑い事じゃないんだから!」
 そう言って、ブンちゃんとリサの一悶着の話を続ける。
「まったく場を乱すにも程があるわ。あんなひとと一緒に働くなんて絶対いや!」
「ふうん。問題児なんて、ユリは見飽きてるだろうに」
 もっともな指摘だった。入店する子がみんな良い子というわけではないし、むしろ癖のある子のほうが多いくらいだ。
「それはそうだけど……あいつ……あいつは」
 思わず声が震える。
 仕事柄、由梨江は日頃から美容にもプロポーションにも人一倍気を遣っている。三十歳を超えてからは余計にだ。その甲斐あって、実年齢よりも若くみられている。
 その由梨江をつかまえて、『オバサン』と言ったのだ。心穏やかでいられるはずもない。
「私のこと……オバ」
 言いかけて、言葉を止めた。言えるわけがない。
 顔を赤らめて涙目になった由梨江に、霧島の顔が変わった。すべてを語らずとも、察したのだろう。
「そっか。だけど、そんなのユリが気にする必要はないよ。客にだっているだろう? そういうセクハラまがいのこというヤツ」
 由梨江はすぐに牧田という客のことを思い出した。
 指名の礼を言うたびに「だってほら、俺、熟女好きだから」と返してくる嫌な客だ。「だったら熟女キャバにでも行けばいいのに」と嫌味を言ったことがあるが、それは勘弁してくれとのことだった。意味がわからない。
「まあ、たまにはいるけど」
「客だから我慢できる?」
「それは……」
 由梨江は唇をかんだ。
「だって、あいつはオカマだし……」
「なるほどね。だったら、そいつはユリたちに嫉妬してるのかもしれない。もしくは、虚勢を張ってるとか」
「え?」
「だって考えてもみな。本物の女の子の中でひとりだけ毛色が違うんだ。ネコが逆毛を立てたって不思議じゃないだろう?」
「ええ、まあ」
 由梨江は釈然としないまま頷いた。
 ブンちゃんの姿を思い浮かべてみたが、そんなタマには到底見えない。
「それに、もう一回言うけど、ユリはそんなやつの言葉気にする必要はないよ。ユリが魅力的だってことは俺がちゃんとわかってる。それとも俺じゃ物足りない?」
「そんなこと……」
 ふいに魅力的なんて言われ、言葉につまる。頬が熱いのは、怒りのせいでも、お酒のせいでもないだろう。
 由梨江は言葉を探すようにワイングラスの脚をなでた。ピアノの可憐な音だけが耳をかすめていく。
「……それじゃ聞くけど……穂高は、その、私に興味ある?」
 視線は落としたまま、つぶやくように問う。
「当たり前だろ」
 霧島に顔をのぞき込まれ、由梨江は腹の奥がじんとするのを感じた。
「じゃ、じゃあ、今度私と……セ、きゃあ!」
 霧島にデコピンされ、由梨江は声を上げた。少し離れたところに座る女性客がこちらに目を向ける。よく見かける女だから、たぶん霧島目当てだ。
「冗談でも、バカなことは言うもんじゃないよ」
「そ、そうよね」
 由梨江は取り繕うように薄く笑った。



 開店前、女の子たちはみな入念にメイクをする。
 お粉をはたき、マスカラを幾重にもつけ、発色のよいリップをひく。
 ブンちゃんもみんなと同じようにメイクしているが、どこぞの芸術家のへんてこな作品みたいで、由梨江は人知れず息を吐いた。
 嫉妬ねえ、と由梨江は思う。
 確かにブンちゃんは明らかに毛色が違う。だけど、そんなことを気にしているようにはやはり見えない。

「ユリさん、ユリさん! 大変です!」
 控え室で週刊誌に目を通しているところへサトミが飛び込んできて、由梨江は眉をひそめた。
「どうしたっていうの、大きな声出して。お客様に聞こえるじゃないの」
「じつは今、佐伯様がいらして……」
「はーん、またヘルプ変わってほしいのね」
 またかとは思いながらも、悪い気はしない。由梨江が腰を上げたかけたところで、サトミは首を大きく横に振った。
「違うんです。今日は佐伯様から指名があって」
「え?」
 思わず聞き返す。佐伯が店にくるようになって一年経つが、彼が指名することなんて一度もなかった。どんなに可愛い子が入ろうとも、それは揺るがなかったのだ。
「そう。だけどそんなに騒いじゃダメよ。うちとしてはありがたい話なんだし」
 ゆったりとした口調でサトミを宥める。どんな心境の変化かと由梨江も訝かしかったが、みっともなく騒ぎ立てたくはない。
「それはそうなんですけど、よりによってブンちゃんなんですよ。あたし、なんだか悔しくって」
 由梨江は声もなく、色を失った。

 さりげなくフロアをのぞいてみると、佐伯とブンちゃんが楽しげに談笑している姿が目に入った。
 彼、あんなふうに笑えるんだ。
 佐伯の自然な笑顔を目の当たりにし、ぼんやりとそんなことを考える。
 だが、控え室に戻り、煙草に火をつけ、白い煙を吐いてみると、ふつふつと得体の知れない何かがこみ上げてきた。
 由梨江はヘルプに付くフリをして、なかば無理矢理ブンちゃんの隣に座り、彼女の膝にグラスをひっくり返した。
「ぎゃあ!」
 ブンちゃんの野太い悲鳴が上がる。
「なにすんのよ。冷たいじゃない!」
 女に戻ったブンちゃんが、たまらず立ち上がった。てかてかのドレスに丸くシミができている。
「あら、私ったらゴメンなさい。ここはいいから、あなたは裏で着替えてきて。風邪でも引いたら大変よ」
 由梨江はボーイにブンちゃんと場の片付けを任せ、佐伯の隣に腰をおろした。
「お騒がせして、すみません」
「いや」
 佐伯の顔からは、笑顔は消えていた。
「もう。ユリさんったら、おっちょこちょいなんだからあ」
 佐伯の連れに寄り添いながらリサがはしゃいだ声を上げる。その目には、悪戯に成功した時のようなずるさが宿っている。
「佐伯さん、ブンちゃんと何を話してたんですか?」
 由梨江は佐伯にすり寄り、耳元に顔を寄せた。
「え?」
「ずいぶんと楽しそうだったから、気になっちゃって」
 彼の膝にそっと手を置く。
「まあ、いろいろと。昔読んでたマンガとか好きだったアイドルとか、他愛もないことだよ」
 さりげなく由梨江の手を払い、佐伯は小皿のピスタチオを齧った。
「でもさ」
「でも?」
 佐伯の顔をのぞきこむ。
「ブンちゃんはいいね。リラックスできる。気の合う仲間と楽しく酒を飲んでる感じがするせいかな」
 聞けば、由梨江がオフの日にたまたまヘルプについたブンちゃんと意気投合したらしい。
「ブンちゃん、着替えがすんだら戻ってくるかな?」
 ええ、もちろん、と頷きながら、内心穏やかではなかった。ざわつく心を抑え込むように、グラスを口に運ぶ。
 佐伯はこの店が、お酒が苦手なのではなかった。ただ、由梨江たちが、ちゃんと佐伯を楽しませられていなかっただけだった。
 考えもしなかったその事実だけが、由梨江の心を締めあげていた。
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