問題児×問題児=大恋愛(1)

Taki

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STEP.04 体育祭を利用しよう

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「青い空!眩しい太陽!サラサラの土!白いテント!」


グラウンドのほぼ真ん中に仁王立ちして叫ぶ迷惑な生徒、それは私。


「待ってました、この日!」


いつもよりも元気な私は、半袖の真っ白の体操着に黒色のジャージの裾を折って履いて準備万端である。


「いやー晴天!暑い!暑すぎる!昨日てるてる坊主25個作ったのがまずかったかな」

「あんたそんなに作ったの?」

「晴れてくれないと困るもん」


首元にぶら下がる赤色の布は、この日にだけ付けられる代物。

それは気合を入れる為。
味方と一致団結するための赤い鉢巻。


「ただでさえ7月で暑いっつーのにヒナがいると更に暑苦しいな」


そんな文句を言う香奈枝は無視だ。


「待ってました!体育祭ー!!」


両手を空に向けて上げて叫ぶ私に香奈枝がため息をついている。

しかしそんなことは気にならない。

だって今日は待ちに待った体育祭なんだから。


…とは言っても。

別に体育祭が特別好きなわけでも、スポーツがむちゃくちゃ好きなわけでもない。

体育祭とかイベントは元より大好きなことに変わりはないのだけれど、今回はもっと別に目的があって。

それで今日が楽しみで。


その別の目的とは、体育祭の実行委員が待機する白いテントの下で爽やかに笑う冬真君と少しでも近づくこと。


「いやー、それにしても魔王が体育祭に出るとは」

「優等生だからね!今日だけは優等生してくれてたことに感謝だよ」

「普通のあいつならまず出ないもんね」

「いぇす!」


冬真君の胸元でネクタイ結びで揺れる鉢巻の色は鮮やかなオレンジ色。

体操着が似合う後藤君。
オレンジ鉢巻が似合う優等生。

体操着が似合うはずのない冬真君。
真っ黒な鉢巻が似合うと思う魔王。

同じ人物なのにえらい違いが発生している。


「冬真君が青空の下で爽やかに笑っている」

「似合わない」

「同感」


優等生後藤君にはぴったりの青空だが、魔王の冬真君には薄暗い夜空が似合う。

そしてあの爽やかな作られた笑顔は彼には似合っていない。


「あ、もうすぐ開会式始まるんじゃない?」


入場待ちの生徒達。

グラウンド入口付近でうじゃうじゃごちゃごちゃと待機している生徒達だったが、1番に入場するクラスが静かになった。


「ほら、始まった」


その声とほぼ同時にスピーカーから入場の音楽が流れてくる。
定番の体育祭ミュージックだ。

それを聞いた生徒達はだるそうに団旗と呼ばれる旗を掲げて入場していく。

最初に入場するのは青色鉢巻。
次が黄色でその後が緑。
そしてその後に私達赤色が続き、そのまた後には白、オレンジ、紫、黒と続く。

それを簡単に言えばクラス順に入場というわけだ。

つまり、私の赤色チームは4組で冬真君のいるオレンジチームは6組。


「暑い」

「ジャージなんて履いてるからじゃん」


行進とは名ばかりのいつもと変わらぬ歩き方で入場しながら汗が薄っすら滲む額を手で仰いで顔を歪ませる。

香奈枝は私のジャージを見た後で自分の着ているハーフパンツを見た。

素足が出ている部分が多いそのパンツ姿を一瞬羨ましく思ったなが、私はハーフパンツよりジャージが好きだというこだわりを持っている為、ジャージを履きたかったのだから仕方ない。


「ま、開会式終わるまで我慢すんのね」

「むむ!」


香奈枝の言葉にブーイングした時に自分のクラスの並ぶ場所に着いた。

隣には見知らぬ先輩達が並んでいて、少しというかかなり威圧感満載だ。

おまけに、


「ねぇ、あの子って後藤君のストーカーじゃん?」

「あぁ久遠雛乃ね」


隣に並ぶお姉様方からそんな小さな声が聞こえてくる。


─言うならはっきり言えよなぁ。


なんて、思わず振り向いて睨みつけたくなるのをぐっと我慢。

そんな自分をを偉いと心の中で褒める。


それにしても暑いなと天気の良すぎる空を目を細めて見上げると、校舎にかかったチームごとの昨日までに作り上げたボードがずらっと横に並んでいるのが見えた。

皆の力作の、ボードに団旗。

それぞれのクラスカラーにちなんだモチーフを描いているもので、それらも最終的な得点に入るとのこと。


「皆さん、おはようございます」


それに見入っていたあたしの耳にスピーカーから大好きな人の、


「生徒会長の、後藤です」


爽やかで明るい声が届いてきた。

その声に違和感を感じたあたしが「うっ」と思わず眉間に皺を寄せながら出した声と同時に、


「「きゃあー!!!」」


どこぞの人気俳優が来たのか?と勘違いするくらいの女子生徒からの歓声がグラウンド中に響き渡った。


「あの嘘くさい笑顔のどこがいいんだ」


普通の女の子は、あの見るからに胡散臭い爽やかな笑顔がそんなにも好きなものなのか?と首を傾げてしまう。

壇上に立つ冬真君を冷ややかな目で見つめる私の方がどこかおかしいのだろうか。


─いやでも、何回見ても気持ち悪いな!


やっぱり後藤君スマイルは私には受け入れがたいようだ。


そしてそのまま気持ち悪いスマイルでの短い開会式の挨拶を聞かされ、その後適当に体操をさせられる。

体操を皆の前できっちりする冬真君を見て、また複雑な気分になったことは…言うまでもないだろう。


「50m走に出場の選手は、入場門前に───…」


長く感じた開会式も終わり、自分のチームのテントに足を運んでいる耳にアナウンスが入ってきた。


─そういえば冬真君なんの種目に出るんだろ?
玉入れとか爽やかにされたらもう見てらんないかも…。


そんなことをぼんやり考えながら赤色鉢巻が集まっているテントへ向かう。


「ヒナ、ジャージ脱ぐ?」

「ううん。私半パン持ってきてないしこのままでいる」


1年生のくせしてちゃっかり1つしかないテントの下に入る私と香奈枝。

普通は年功序列というか、先輩優先というか。
3年生から使っていくのが暗黙の了解らしいのだが、ずうずうしくもあたりまえにそこに腰かける。

お姉様方の視線は多少気になるが直接文句を言ってくる人はいないようだ。


─このテントは赤色チームの共有物でしょ?
1年がいてなにが悪いの?


嫌な視線を飛ばしてくるお姉様にはそんな意味を込めて極上の笑みでニコッと微笑む。

すると顔を歪めたお姉様はぷいっとそっぽを向いてしまった。

それを見ていた香奈枝が、


「あんた相変わらず、いい性格してんね」


「性格は丸くはなったんだけどね」なんて、楽しそうに笑っているが、そんな香奈枝こそいい性格をしていると思うのは私だけなのか。


「出番いつだっけ?」

「プログラム忘れちゃった」

「玉入れのが先かな」


私達が今日出る種目は、香奈枝は1番楽そうだという理由で玉入れオンリー。

私は香奈枝と同じく玉入れに、騎馬戦に障害物競走、そしてクラス対抗リレーに学年対抗リレー。
計5つの種目に出場する。

普通の平均出場種目は1人だいたい2種目、多くて3種目だが、私は香奈枝の分も請け負っての5種目となっている。


「今日は頑張ろうねー!」


テントの外で座るクラスメイトにガッツポーズでそう言ってみせると、


「頑張ろーね!」

「絶対優勝すんぞ!」


皆が笑顔で返してくれた。

そしてテントの中に手招きしたが皆それには決して頷いてくれなかったが、実は私も香奈枝もクラスの皆とは普通に仲が良い。

何ならうちのクラスは特別に仲がいいと他のクラスから羨ましがられる程だ。


「香奈枝も玉入れ頑張ろうね!」

「おー」


親友からは気合のない返事が怪しいが頷いてくれただけ良しとしよう。

イベントは楽しまなくては!
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