10 / 18
第6話 近づく悪魔
空SIDE
しおりを挟む『百鬼夜攻がやられた?』
それが朝1番に俺の耳に届いたニュース。
『ガセじゃねぇの?』
「いや、どうやら本当らしいです。近くの川沿いの道路、あそこでだったらしいんですけど」
俺にその情報を伝えに来たのは"Blue Sky"の情報屋、仁。
ケンカを売りにしている百鬼夜攻。
そのチームがやられたというのは、どうも信じがたいもので。
「なんでもチームの大半は、朝に発見されてからそのまま病院に搬送されたらしいです」
百鬼夜攻に嫌な思い出がある仁も相当驚いたというこの情報。
窓から入ってくる眩しい太陽に照らされた仁の顔は眉間にシワが寄って険しく、俺もたぶんそれと同じような顔をしていると思う。
「旗も持っていかれたみたいですね」
『…相手どこのチームだ?』
「それが不明らしいです。まだ誰も詳しいことは聞いてませんし、何も残していないようですから。でもこの辺りであのチーム潰せるのって…」
『ストームか俺達くらい、か』
「はい。どこもそう言ってるらしいです」
晴天の朝に似つかわしくない険しい顔で話しこんでいる俺達。
小声で話しているものの、その顔つきから内容はだいたい検討がつくんだろう。
舞ちゃんがチラチラとこちらを気にしている。
だけども今は彼女を気遣う余裕はない。
『でも俺達じゃない。つーことは』
「ストームでは…としか、今のところは」
"百鬼夜攻"を潰せるのは"ストーム"か"Blue Sky"。
この辺りのチームの奴ならまずそう思うはず。
だが、"Blue Sky"は動いていないし"ストーム"がやったとも考えにくい。
そう思って、腕組みをして考えこんでいた俺に、
「でも、ストームは百鬼夜攻にわざわざ手出さないと思うんですけどね」
仁が同じ意見を口にした。
「ストームは百鬼夜攻に手を出す意味がない」
『そうだよな』
仁の言う通り、ストームが百鬼夜攻に手を出しても意味はない。
それは、
"ストーム"
"百鬼夜攻"
"Blue Sky"
この3つのチームが、この辺りの3大勢力と言われているチームで、その3チームがいることでバランスが取れているからだ。
"百鬼夜攻"はケンカが売りのチームで、その為かなり好戦的でもあるが、残りの2つの"ストーム"と"Blue Sky"は自ら他のチームを潰そうとしたり勢力を拡げようと思っていないチーム。
だからわざわざ他のチームにケンカをふっかけることはなく。
好戦的な"百鬼夜攻"が稀に攻めてくることはあっても、それに数で勝る"ストーム"と、戦力で勝る"Blue Sky"は今のところ負けていないので、卑怯な手を嫌う今の"百鬼夜攻"のリーダーなら尚更、正面からかかってきての勝算は"百鬼夜攻"にはまずないと考えるはずだ。
それは3つのチーム、いや、それ以外のチームも分かっていたはずのこと。
"ストーム"と"Blue Sky"は何か理由がない限りは動かないし、互いがそういうチームだということもあるが、実際どちらが勝つか読めず。
そういう理由もあり、これまでに大きな争いはないし、どちらかが手を出そうとしないかぎり、これからも不穏なことは起こらないだろう。
と、そんな風に絶妙に保っていた3つのチームのバランス。
それが百鬼夜攻が潰れたことによって傾いてしまうかもしれないし、それでなくともあの冷静な"ストーム"が今さら手を出すとは考えにくい。
"ストーム"も俺達に対して思っていることは同じだなはずだ。
『仁、またなにか情報入ったら知らせてくれ』
「はい」
『朝からわざわざありがとな』
「いえ。俺の役目ですから」
そう言って最後にようやく笑った仁。
その笑顔にふと思い出したこと。
『あ、そういえば透どうなんだ?』
最近ずっと休んでいる透だけど。
饅頭に当たったと思ったら今度は刺身。
わざとかふざけているとしか思えない。
「あー、全然大丈夫ですよ。自業自得ですからね。それになにかあった時はあいつが腹痛いって言っても引きずって連れてきますから」
そう言ってまた笑った仁は、俺にじゃあ…と頭を下げてから、不安げな表情を浮かべている舞ちゃんにも笑顔を向け「大丈夫だから」と言って教室から去って行った。
舞ちゃんは廊下に出て行く仁を目で見送り、それから俺の方を向いて。
「空」
複雑そうにこちらを見て、少し視線を落としてから俺の目をじっと真剣な表情で見据えた。
「空達のことには口出ししたくないけど…」
少し辛そうに顔をしかめた彼女。
『うん?』
「危ないこと───…ううん。怪我だけはしないでね」
舞ちゃんが自分が口を出しても大丈夫だと判断した範囲がその言葉だけだったのだろう。
辛そうにそれだけ告げた舞ちゃんは俺に向けて笑顔を作り、
「それだけ」
ふいっと目を反らして真直ぐに前を向いてしまった。
もう何も言うことはないし、俺からも何も聞くつもりもないという意思表示なんだろう。
本当はもっといろいろ聞きたいはずなのに。
あんなに暴力に反対していたのに。
舞ちゃんは俺達の気持ちも汲んでくれる。
危ないことをしてほしくないと言おうとしたのを、怪我をしないでと言い換えた舞ちゃんに、彼女の気持ちが痛いくらいに伝わってきた気がした。
もちろんそんな彼女の気持ちを汲みたいとも思う。
だが今回はそれは無理かもしれない。
3大勢力の1つ、百鬼夜攻を全壊させたらしいそのチーム。
今まで3つのチームでバランスを保っていたのを知った上でそのうちの1つのチームを潰したのだろうから。
そのチームはここら一帯の"頂点の座を狙っている"。
そういうことだと考えて、まず間違いない。
そうなると、
俺達"Blue Sky"。
目黒率いる"ストーム"。
この2つのチームも、いずれそのチームが潰しにかかってくる可能性がかなり高い。
百鬼夜攻を1番先に全壊させた理由もあるはずだが、好戦的な百鬼夜攻が1番誘きだしやすかっただけかもしれないし、百鬼夜攻よりは人数が多くストームよりは少なく、Blue Skyには戦力ではまだ勝っていないと判断した上で百鬼夜攻から攻めたと考えることもできる。
だが恐らくこれは…
「宣戦布告ですね」
『うわっ!仁っ!』
俺の考えていたことを横からヌっと出てきた仁が言葉にして胸がバクバクと鳴る。
『びっくりしたぁ…って、おまえ授業中になにしてんだ?』
「もう昼休みですよ」
『へ?』
いつの間にか訪れていた昼休みにも気づかず、ずっと窓の外を見ながら考えごとをしていた俺。
隣の席を見てみると、いつもいる舞ちゃんの姿がない。
「トイレ行くって言ってましたよ」
「出て行く舞花ちゃんとちょうど入れ替わりでここに来たんです」と、俺の心を読んだかのようにそう言う仁に、思考が全て筒抜けなことが少しだけ恥ずかしくなる。
「それより、注意した方がいいですよ」
『なにが?』
「沢木さん、窓に向かってブツブツ独り言言ってましたから」
─俺、それかなり怪しい奴じゃねぇの?
『…それであのタイミングで宣戦布告って?』
「えぇ、俺もそうだと思ってたんで」
先程のあまりにも良いタイミングの言葉の理由に納得していると、仁は真剣な表情を向け、
「それより、新しい情報入りましたよ」
そう言って自分の携帯を取り出し、何度か画面をタップしてそれを俺に差し出してきた。
「とりあえず、その画像見てください」
言われるままに仁の手から携帯を受けとり、開かれた画面に目を向ける。
『…なんだこれ』
「ケンカのあった川沿いの様子です。朝に偶然通った奴が撮ってたみたいで」
その小さな画面には、ぐったりとした人で埋め尽くされた道路の様が鮮明に写し出されていた。
「ひどいでしょう。俺も正直想像してた以上でした」
黙り込んで画面に目を向ける俺に、仁は声を小さくして呟いた。
仁に返事もできない程に、その画像から目が離せない。
『これ、死人出てんじゃねぇの?』
「いや、幸い今の時点では出てないそうです」
『今の時点では、か』
その画面に写る人間達は皆道路に横たわっていて。
その辺りと人間達には赤黒い液体が飛び散っている。
それは本当に死人が出てしまったのではと思うくらい、すさまじい光景で。
実際に起こった様子が写し出されているとは思えない光景が、そこにあった。
「この写真は一部らしいです。実際の惨状は地獄絵図のようだったって警察が言ってたそうですから」
そう伝えてきた仁の言葉も充分に納得できるものだった。
ここまでやる必要があるのか、そう疑問に思わずにはいられないほどに。
「百鬼夜攻のリーダー、今入院してるらしいんですけど。まだ意識不明だそうで。何でも色んな骨が折られてたとか…」
『………』
「他のメンバーも腕がぐちゃぐちゃになってたり、誰だか分からないような奴もたくさんいるそうです」
仁の口から飛び出してくる信じられないような言葉も、この画像を見てしまった後では妙に生々しく。
「…これからは俺達も警戒しておいた方がよさそうです」
『そうだな。百鬼夜攻はそこらのチームより数段に強かったんだ。この写真がなかったら信じられないくらいに』
「はい。でも百鬼夜攻はケンカの強さで負かされたというよりは…。とにかく事の発端は、不意打ちで仕掛けられたことみたいです」
百鬼夜攻を負かすチームとはどれ程に強いのかと思っていた俺に、仁の思わぬ言葉が届いてきた。
『不意打ち?』
「なんでもメンバー数人で溜まっていたところを車に引っ掛けられたらしくて。しかもそのうちの2人がそいつらに連れてかれたらしいんですよ」
『なんだよそれ』
「ただでさえ卑怯な奴を嫌う百鬼夜攻のリーダーは、仲間が車に引っ掛けられた上に拐われてるんで、当然キレたらしくて」
『それで仲間助けに行ったところでやられたのか?』
「えぇ。仲間を人質に取られてるわけですから、思うように動けなかったんだと思います」
『………』
仁の話す新たな情報に、眉間にこれ以上できない程に縦ジワが増える。
座ったまますぐ手前にある自分の机を力の限り蹴り倒し、その苛立ちを少しでも解消しようとしたが、
『くそっ!』
少しもすっきりせず、むしろ怒りとモヤモヤは増加する。
「やだ…なに!?」
「やばそうな雰囲気じゃない?」
「やっぱり暴走族なんだね、怖い」
俺が蹴り飛ばした机が出した音が響き、教室にいる人間から注目を一気に浴びた俺と仁。
小さな声でボソボソ囁く、そんな声が教室中から聞こえてきて。
舞ちゃんがいなくて本当によかったと、そんなことを頭の片隅でぼんやりと思っていた。
『…でもこれではっきりした。ストームはそんなことは絶対にしねぇ』
目の前から消えた机。
そのせいか少しすっきりした空間を見つめ、腕を組んで独り言のようにそう言った俺に仁は頷く。
「はい。それに怪我がまだ軽かった百鬼夜攻の下っ端の海斗って奴から話が聞けたみたいで、相手は見たこともない奴だったって言ってたそうです」
『見たこともない奴…か』
「まぁ見たことがないって言っても、ストームの無名の奴とかの可能性もありますから。まだ完全にストームが犯人であることを否定はできないですけど」
『あぁ…』
「でもどちらにしろ、相手が分からないと手の打ち用がないですからね。相当無茶する奴らみたいなんで、とにかく常に警戒しておくことしか、今のところは…」
『あぁ。放課後皆で集まって話しよう』
「そうですね。集めておきます」
結局分かったことと言えば、百鬼夜攻を潰したチームは不明で、しかも相当な無茶をする奴らだということ。
そして、百鬼夜攻がチームとしても身体的にも、事実上、崩壊しかけているということだけだ。
顔をしかめて黙り込んだ俺に、仁はいつもそうするように頭を下げて教室から出て行った。
0
あなたにおすすめの小説
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【3月中ーー完結!!】
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
二十年の裏切りの果て、その事実だけを抱え、離縁状を置いて家を出た。
そこで待っていたのは、凍てつく絶望――。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と縋られても、
死の淵を彷徨った私には、裏切ったあなたを許す力など残っていない。
「でも、子供たちの心だけは、
必ず取り戻す」
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔い、歪な愛でもいいと手を伸ばした彼女が辿り着いた先。
それは、「歪で、完全な幸福」か、それとも――。
これは、"石"に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
【完結】シロツメ草の花冠
彩華(あやはな)
恋愛
夏休みを開けにあったミリアは別人となって「聖女」の隣に立っていた・・・。
彼女の身に何があったのか・・・。
*ミリア視点は最初のみ、主に聖女サシャ、婚約者アルト視点侍女マヤ視点で書かれています。
後半・・・切ない・・・。タオルまたはティッシュをご用意ください。
モテ男とデキ女の奥手な恋
松丹子
恋愛
来るもの拒まず去るもの追わずなモテ男、神崎政人。
学歴、仕事共に、エリート過ぎることに悩む同期、橘彩乃。
ただの同期として接していた二人は、ある日を境に接近していくが、互いに近づく勇気がないまま、関係をこじらせていく。
そんなじれじれな話です。
*学歴についての偏った見解が出てきますので、ご了承の上ご覧ください。(1/23追記)
*エセ関西弁とエセ博多弁が出てきます。
*拙著『神崎くんは残念なイケメン』の登場人物が出てきますが、単体で読めます。
ただし、こちらの方が後の話になるため、前著のネタバレを含みます。
*作品に出てくる団体は実在の団体と関係ありません。
関連作品(どれも政人が出ます。時系列順。カッコ内主役)
『期待外れな吉田さん、自由人な前田くん』(隼人友人、サリー)
『初恋旅行に出かけます』(山口ヒカル)
『物狂ほしや色と情』(名取葉子)
『さくやこの』(江原あきら)
『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!』(阿久津)
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる